タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2016-01-01から1年間の記事一覧

【書評】アレックス・ジョンソン「世界の不思議な図書館」(創元社)-本があって、人が集まれる場所になっている。それだけで図書館なのだ。

図書館をよく利用する。読みたい本はたくさんあるけれど、すべてを購入するわけでにはいかない(経済的にも、物理的にも)、そんなときは図書館がありがたい。 世界の不思議な図書館 作者: アレックス・ジョンソン,北川玲 出版社/メーカー: 創元社 発売日: 2…

【書評】リービ英雄他「コレクション戦争と文学~崩~9・11変容する戦争」(集英社)-9.11テロ以後の変容した戦争を描くアンソロジー

2001年9月11日、イスラム過激派の青年たちにハイジャックされた4機の航空機のうち3機がそれぞれ、ニューヨークのワールドトレードセンター北棟と南棟、ペンタゴンに激突した(1機は墜落)アメリカ同時多発テロ以降、戦争の形態は大きく様変わりした。 9・1…

【書評】エトガル・ケレット「あの素晴らしき七年」(新潮社)-イスラエルに暮らす作家がユーモラスに描き出す日常と戦争の影

中東地域は、争いの絶えない地域であるが、イスラエルは間違いなくその中心にあって、争いの火種となっている場所だと思う。1948年に独立が宣言されて以降、第一次中東戦争が勃発し、第二次、第三次、第四次と周辺国との戦争を繰り広げてきた。1993年には、…

【書評】フェルディナント・フォン・シーラッハ「テロ」(東京創元社)-7万人の命を救うために164人を乗せた旅客機を撃墜した空軍少佐は英雄なのか罪人なのか

多数を救うために少数を犠牲にする行為は正義なのか? テロ 作者: フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2016/07/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る テロ 作者: フェルディナント・フォ…

【書評】米澤穂信「真実の十メートル手前」(東京創元社)-ミステリーが苦手になってしまったのか、この作品にシンクロできなかった自分がいる

真実の10メートル手前 作者: 米澤穂信 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2015/12/21 メディア: Kindle版 この商品を含むブログ (2件) を見る 真実の10メートル手前 作者: 米澤穂信 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2015/12/21 メディア: 単行本 こ…

【書評】林典子「キルギスの誘拐結婚」(日経ナショナルジオグラフィック社)-花嫁を強引に誘拐し結婚してしまうというキルギスの驚くべき慣習

結婚というのは、男女が互いに出会い、好きになり、愛を育み、結ばれることであるはずだ。しかし、世界にはそういう常識では考えられないような風習、慣習というものがあって、私たちから見るとあまりに非常識と思えるようなことが平然と行われていたりする…

【書評】竹村真奈/小西七重「食品サンプル百貨店」(廣済堂)-とことんリアル!日本が世界に誇る食品サンプルの世界はここまでスゴイ!

家族でデパートにお買い物に来た日曜日。お昼の時間帯となって向かうは最上階のレストランフロア。和洋中なんでも揃うレストランの入口には、様々な料理のサンプルがショーケースに並んでいる。 食品サンプル百貨店 作者: 竹村真奈,小西七重 出版社/メーカー…

【書評】ウィリアム・カムクワンバ/ブライアン・ミーラー「風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった」(文藝春秋)-アフリカでもっとも貧しいといわれる国に住む少年が起こした奇跡

アフリカでももっとも貧しい国のひとつに数えられる国マラウイ。そんな貧国で起きた奇跡をその当人が記したのが本書である。 風をつかまえた少年 作者: ウィリアム・カムクワンバ,ブライアン・ミーラー,池上 彰(解説),田口 俊樹 出版社/メーカー: 文藝春秋…

【書評】アンヘル・エステバン/ステファニー・パニチェリ「絆と権力 ガルシア=マルケスとカストロ」(新潮社)-コロンビア生まれのノーベル賞作家とキューバ革命の指導者の友情

2015年7月。アメリカとキューバにそれぞれの大使館が開設されたことで、1961年以来続いてきた両国の国交断絶は解消された。これは、54年ぶりの出来事であり、歴史の1ページを開いた。今年(2016年3月)には、オバマ米大統領がキューバを訪問している。 絆と権…

【書評】泉麻人「東京ふつうの喫茶店」(平凡社)-スタバやタリーズでは味わえない佇まいと居心地。これぞ《ふつう》の喫茶店

喫茶店、好きですか? ※最近、この入りが気に入っている(笑) 東京ふつうの喫茶店 作者: 泉麻人 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2010/05/26 メディア: 単行本 クリック: 13回 この商品を含むブログ (7件) を見る 最近では、スターバックスやタリーズなど…

【書評】大野裕之「チャップリンとヒトラー メディアとイメージの世界大戦」(岩波書店)-「独裁者」という映画にこめられたチャップリンの想いが、様々な障壁を克服し、感動的なラストシーンへと結実した

兵士たちよ!けだものに身をゆだねてはならない!あなたちを軽蔑し、奴隷にし、生き方を統制し、何をして、何を考えて、どう感じるかまで指図する奴らに。彼らはあなたたちを猛訓練させ、食事まで規制し、家畜のように扱って、大砲の餌食にする!そんな血の…

【書評】アティーク・ラヒーミー「悲しみを聴く石」(白水社)-アフガニスタンに生まれフランスで作家となった著者によって描かれる静謐な物語

アフガニスタンは、長く激動の場所として歴史を刻んできた。少なくとも、私がアフガニスタンという国を知って以来、現在に至るまでアフガニスタンに関する平和的な話はほとんど聞いたことがない。 悲しみを聴く石 (EXLIBRIS) 作者: アティークラヒーミー,Ati…

【書評】上野敏彦「闘う純米酒 神亀ひこ孫物語」(平凡社)-本物の純米酒を作りたい!蔵人の情熱が生み出した《神亀》という名酒の物語

日本酒、好きですか? 新版 闘う純米酒 (平凡社ライブラリー) 作者: 上野敏彦 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2012/09/12 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (1件) を見る 私は、つい最近まであまり日本酒を飲んでいなかった。日本酒…

【書評】ジョージ・ソルト「ラーメンの語られざる歴史 世界的なラーメンブームは日本の政治危機から生まれた」(国書刊行会)-たかがラーメン、されどラーメン。日本の国民食となったラーメンの歴史を知るための1冊

ラーメン、好きですか? ラーメンの語られざる歴史 作者: ジョージソルト,George Solt,野下祥子 出版社/メーカー: 国書刊行会 発売日: 2015/09/28 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 日本中に、いわゆる「ラーメン専門店」は何軒くらいあ…

【書評】隆慶一郎「隆慶一郎全集6 鬼麿斬人剣」(新潮社)-不世出の名人と謳われた師匠・清麿が遺した不名誉な駄物を折り捨てる旅をする鬼麿の豪放磊落さが本書の最大の魅力であろう

鬼麿は庭で太刀を振っていた。十二年前の天保十三年(一八四二年)冬、鬼麿が初めて向う槌をとって師匠とともに鍛え上げた太刀だ。刃長三尺二寸五分、南北朝風の大太刀である。一般の大太刀の長さ(定寸)は二尺三寸だから異常ともいえる刃長である。身幅も…

【書評】夏目房之介「孫が読む漱石」(実業之日本社)-漱石没後100年。文豪の血をひくマンガコラムニストの著者が読む祖父の小説

今年(2016年)は、夏目漱石没後100年にあたるそうだ。 孫が読む漱石 (新潮文庫) 作者: 夏目房之介 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2009/03/02 メディア: 文庫 クリック: 7回 この商品を含むブログ (10件) を見る 孫が読む漱石 作者: 夏目房之介 出版社/メー…

【書評】ジュリー・オオツカ「屋根裏の仏さま」(新潮社)-今からおよそ100年前に海を渡った女性たちがいた。“写真花嫁”と呼ばれた女性たちの苦難の日々を描く秀作

明治から大正、昭和の初期までの間に、多くの日本人が太平洋を渡って、遠いアメリカへと移住したという。彼らは、言葉もよくわからない異国の地で、外国人(特にアジア人)であることによる差別に直面しながら、持ち前の勤勉さで少しずつ、その位置を確保し…

【書評】大崎梢「スクープのたまご」(文藝春秋)-スクープ合戦を繰り広げる週刊誌編集部に配属された女性記者が数々の修羅場を経験しながら事件記者として成長するお仕事小説

今年(2016年)に入って世間を騒然とさせるスクープを連発している週刊誌がある。 “センテンス・スプリング”こと「週刊文春」である。 スクープのたまご (文春e-book) 作者: 大崎梢 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2016/05/13 メディア: Kindle版 この商…

【書評】樫原辰郎「『痴人の愛』を歩く」(白水社)-谷崎が好きで好きで好きでたまらないからこそのマニアックな谷崎論を刮目して読め!

谷崎潤一郎は、昨年(2015年)に没後50年となり著作権保有期間が終了した。今年に入ってから青空文庫などにその作品が続々と公開され、誰もが気軽に読めるようになっている。 『痴人の愛』を歩く 作者: 樫原辰郎 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2016/03/12…

【書評】久住昌之「昼のセント酒」(カンゼン)-みんなが働いている平日の昼間、ゆっくりと銭湯につかり、風呂あがりには冷たい生ビール。そんな背徳的な誘惑に勝てっこない!

毎日、何かに追い回されているような気がする。仕事に追い回され、ローンの支払に追い回され、絶世の美女に追い回され…ることは残念ながらない(笑)。 昼のセント酒 作者: 久住昌之 出版社/メーカー: カンゼン 発売日: 2013/09/25 メディア: Kindle版 この…

【書評】ヨハンナ・シュピリ「ヨハンナ・シュピリ初期作品集」(夏目書房新社)-「アルプスの少女ハイジ」原作者のデビュー作を含む初期の作品集

ヨハンナ・シュピリという作家をご存知だろうか。 ヨハンナ・シュピリ初期作品集 作家の名前は知らなくても、彼女の作品にはなじみがあると思う。 「アルプスの少女ハイジ」だ。私の年代だと、小説作品というよりは、テレビアニメの方がなじみ深い。最近では…

【書評】隆慶一郎「隆慶一郎全集7 かくれさと苦界行」(新潮社)-吉原vs.裏柳生、神君御免状を巡って繰り広げられる対立の決着はいかに?

デビュー作でもある前作「吉原御免状」の翌年に発表された続編が本書「かくれさと苦界行」である。 隆慶一郎全集第七巻 かくれさと苦界行 (第4回/全19巻) 作者: 隆慶一郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2009/12/22 メディア: 単行本 この商品を含むブログ…

【書評】太田和彦「太田和彦の東京散歩、そして居酒屋」(河出書房新社)-東京の街で楽しむ大人のための散歩ガイド

4月27日に、東京・神楽坂にあるイベントスペース「la kagu(ラカグ)」で行われたトークイベント『太田和彦「ぼくたちはこんな(に)居酒屋で呑んできた」』に行ってきました。居酒屋探訪家である太田和彦さんの著書「ひとり飲む、京都」が新潮文庫化された…

【書評】吉田覚「働かないふたり」(新潮社)-あぁ、憧れ?の働かなくても生きていける暮らし

できることならば、働かずに暮らしたい。でも、たいていの場合、働かなければ生活のためのお金を得ることができないから、多くの人は働くことを余儀なくされる。 働かないふたり 1巻 作者: 吉田覚 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2014/12/12 メディア: Kin…

【書評】阿部潤「忘却のサチコ」(小学館)-美味い食べ物はすべてを忘れさせてくれる

強いストレスを感じたり、どうしようもなく辛いことがあったり、激しく後悔したくなるような失敗をしてしまったとき、そのすべてを忘れてしまいたいと思ったことがある。 忘却のサチコ(1) (ビッグコミックス) 作者: 阿部潤 出版社/メーカー: 小学館 発売…

【書評】カレン・ラッセル「レモン畑の吸血鬼」(河出書房新社)-著者はよく「どうしてこんなアイディアを思いつくのか」と聞かれるらしい。聞きたくなる気持ちがよくわかる

吸血鬼って、どういうイメージだろう? レモン畑の吸血鬼 作者: カレン・ラッセル,松田青子 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2016/01/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (5件) を見る 永遠の命を有し、美女の生き血をすすり、太陽の光を嫌い…

【イベント】第二回日本翻訳大賞授賞式に参加してきました

さる4月24日(日)に、第二回日本翻訳大賞の授賞式が日比谷図書文化館コンベンションホールにて開催された。第一回に続き、今回も参加してたので、当日の模様をレポートする。

【書評】アン・ヴァン・ディーンデレン/ディディエ・ヴォルカールト「誰がネロとパトラッシュを殺すのか-日本人が知らないフランダースの犬」(岩波書店)-ラストシーンではきっとあなたも泣いたはず。そんな「フランダースの犬」を現地の人はほぼ知らないという現実

「パトラッシュ、疲れたろう。ぼくも疲れたんだ。なんだか、とても眠いんだ」 誰がネロとパトラッシュを殺すのか――日本人が知らないフランダースの犬 作者: ディディエ・ヴォルカールト,アン・ヴァン・ディーンデレン,塩崎香織 出版社/メーカー: 岩波書店 発…

【書評】ジョイス・キャロル・オーツ「邪眼 うまくいかない愛をめぐる4つの中篇」(河出書房新社)-愛はすべてを見失わせ、そしてすべてが歪んでいく

サブタイトルにあるように、本書には4つの愛情物語が収められているが、そのすべてがあきらかに歪んでいる。 邪眼: うまくいかない愛をめぐる4つの中篇 作者: ジョイス・キャロルオーツ,Joyce Carol Oates,栩木玲子 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2…

【書評】トレヴェニアン「パールストリートのクレイジー女たち」(ホーム社)−トレヴェニアンの遺作にして自伝的小説

年末の恒例となった「このミステリーがすごい!」がスタートしたのは1988年で、その第1回めの海外ミステリー第1位になったのが、トレヴェニアン「夢果つる街」だった。それから約30年、トレヴェニアンの遺作となった自伝的小説が本書「パールストリートのク…