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【書評】泉麻人「東京ふつうの喫茶店」(平凡社)-スタバやタリーズでは味わえない佇まいと居心地。これぞ《ふつう》の喫茶店

喫茶店、好きですか? ※最近、この入りが気に入っている(笑)

東京ふつうの喫茶店

東京ふつうの喫茶店

 

最近では、スターバックスタリーズなどのカフェが増えてきているが、一方で昔ながらの《純喫茶》と呼ばれる喫茶店も健在だ。私なんかは、ちょっとした時間潰しやテイクアウトでコーヒーを買う場合にはスタバを利用することも多いが、じっくり腰を落ち着けて休みたいときは、純喫茶に入るようにしている。

 

泉麻人「東京ふつうの喫茶店」は、東京都内にあるふつうの喫茶店を紹介したエッセイ集である。《カフェ》ではなく《喫茶》がよく似合う店だ。

紹介されている喫茶店の中には、いくつか私も訪れた店がある。

例えば、新宿の「ベルク」。この店は、新宿駅東口を出てすぐの場所にあって、私は紀伊國屋書店本店に行く時には、ほぼ必ず立ち寄る。本書では喫茶店として紹介されているが、私の場合は目的はビールだ。国産のスッキリしたビールだけでなく、ギネスの濃厚な黒ビールやハーフ&ハーフの琥珀色の旨味も楽しめる。注文すると、じっくりと時間をかけてビールを注いでくれる。その様子を眺めつつ待つのが楽しい。

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あまりに頻繁に足を運ぶわけではないが、神保町も喫茶店が多い。「さぼうる」、「さぼうる2」、「ミロンガ・ヌオーバ」、喫茶店とはちょっと違うけど老舗ビアホールの「ランチョン」など、本が好きなので、神保町に出かけるたびに、三省堂で新刊書をチェックし、昼飯は「キッチン南海」や「共栄堂」、「ボンディ」あたりでカレーライスか「丸香」でさぬきうどん。お腹を満たした午後は、小宮山書店その他の古本屋を一巡し、戦利品を持って喫茶店に入る。コーヒーとタバコを一服しながら、その日の成果を振り返る時間が至福のときだ。

一連の神保町巡りの中では、喫茶店は必要不可欠の存在である。本書では「カフェ古瀬戸」が紹介されている。

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都心に残る老舗の喫茶店。私鉄沿線にたたずむ喫茶店。下町風情のある町で少し伝統の香りがする喫茶店など、56軒の喫茶店に、著者が自ら足を運び、店の主人や常連と話をしながら過ごすまったりとした時間が本書には記されている。喫茶店の醍醐味は、まさにこの“まったり感” だと思う。

一方で、喫茶店で見聞する様々な人間模様も見逃せない。オフィス街に位置する喫茶店には、仕事途中の休憩かはたまたサボリか、近所のサラリーマンと思われる人たちが、マンガ雑誌片手にコーヒーを飲んでいたりして、どことなく背徳感が漂っているような気がするし、時折、「この人、なんの仕事しているんだろう?」と疑問を感じさせるような怪しい空気を身にまとったオッサンが、遅めのモーニングを食べながらスポーツ新聞を熱心に読み耽っていたりする。

コーヒーだけではなく、軽食に定評がある店もある。喫茶店で出せる料理だから手の込んだものは難しいが、ホットサンドやドライカレー、ナポリタンといった喫茶メニューの定番が並ぶ。飛び上るほど美味い訳ではないけれど、どこかなつかしい味というやつだ。

本書に出てくるようなふつうの喫茶店、少しずつだけど減ってきているのだろうなと感じる。でも、常連に支えられて、少し年季の入ったマスターが淹れてくれるコーヒーをすする至福の時間は、決して廃れることはないだろう。そんなことを思いながら、明日のお昼は喫茶店のナポリタンを食べたくなった。

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