タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

【書評】アレックス・ジョンソン「世界の不思議な図書館」(創元社)-本があって、人が集まれる場所になっている。それだけで図書館なのだ。

図書館をよく利用する。読みたい本はたくさんあるけれど、すべてを購入するわけでにはいかない(経済的にも、物理的にも)、そんなときは図書館がありがたい。

世界の不思議な図書館

世界の不思議な図書館

 

本書は、世界にある一風変わった図書館を集めた写真集である。

 

本書は、7章立てになっている。

1.旅先の図書
この章では、旅先にある図書館を紹介する。もっとも、最初に登場するのは「旅先にもっていく図書館」であり、17世紀のヘイクウィルの旅行用ライブラリーや現代の電子書籍もある種の移動用ライブラリーとして位置づけている。

旅先の図書館としては、空港にある図書館(フィラデルフィア国際空港内の図書館)、駅にある図書館(サンディアゴの地下鉄図書館、オランダ・ハールレム駅の図書館)、海の図書館(2013年の瀬戸内国際芸術祭の作品として粟島につくられた図書館)など、旅先での書物との出会いを演出してくれる場所として紹介されている。

2.動物の図書
「動物の図書館」といっても、動物関連の本を専門に扱う図書館というわけではない。動物(ウマ、ロバ、ゾウ、等々)に本を積んだ荷車を引かせて村を巡る移動図書館のことだ。

コロンビアで小学校に本を届けるロバの図書館、ベネズエラアンデス山中の学校に毎週やってくるラバの図書館、モンゴルのラクダの図書館、エチオピアのウマの図書館にラオスのゾウの図書館。動物たちの力で運ばれた本たちは、待ちわびる子どもたちのもとに届けられ、彼らの好奇心や知識欲を満たしてくれる。本を手にするこどもたちの目は、喜びに輝いていることだろう。

3.小さな図書
図書館というと、日本ではけっこう大きな建物で数万冊~数十万冊という蔵書を抱えて地域住民の知識欲を満たす場所であるが、世界には数冊、数十冊の本を収めた小さな図書館も存在する。

例えば、イギリス・ハンプシャー州にある電話ボックスを改修した図書館がある。この電話ボックス図書館のコンセプトは大西洋を渡ったアメリカにもあったりする。ベルリンには、木をくり抜いて作ったボックスに本を入れた図書館があり、ニュージランドには古い冷蔵庫を改造した図書館がある。本を入れるものがあって、それが公共の場所に置かれて誰でも本を読めるようになっていれば、その場所はすべて図書館になり得るということなのだ。

4.大きな図書
小さな図書館があれば、巨大な図書館もある。建物のデザインに趣向を凝らした近未来的、あるいは宮殿のような図書館があれば、シンプルかつ広々とした空間を有する図書館もある。

カンザス市にある図書館がユニークだ。カンザス市中央図書館の建物は、本を模したデザインとなっている。地元の利用者からあげられた22作品を外壁のデザインに取り入れていて、「キャッチ-22」、「百年の孤独」、「華氏451」など不変不朽の名作が並ぶ姿は圧巻である。

5.ホームライブラリー
数千冊、数万冊という蔵書を所有する個人蔵書家の自宅は、それだけで一種のライブラリーを形成しているといっても差し支えないだろう。蔵書家の死後に、その膨大な蔵書を活用したライブラリーとして開放されている場所もある。大宅壮一文庫などはその代表格ではないだろうか。

本書では、建築デザイナーが設計した邸宅のライブラリー空間や、子どもたちが楽しめるように工夫された蔵書スペースが紹介されている。単なる蔵書スペースだけではなく、本を読むための快適な空間も個人ホームライブラリーの特長かもしれない。この章は、読書を楽しむことに貪欲な読書家たちの心をグッと鷲掴みにする。

6.移動する図書
第2章の「動物の図書館」も移動する図書館であったが、本章は船や車、自転車で移動する図書館が紹介されている。

バングラデシュでは「知識の方舟」として、NPO団体が運営するライブラリーボートがある。ボートには、本だけではなく、パソコンやプリンターなども積まれていて、子どもたちだけではなく、親たちの識字率向上にも貢献しているという。

また、交通手段に本を積んで行くだけでなく、書棚や椅子などを運んで公園などに簡易図書館を作ってしまう取り組みもある。

7.意外な場所の図書
本があって人が集まれる場所はすべて図書館である、という考えに基づけば、図書館にならない場所は世界中のどこに存在しないのかもしれない。だからこそ、意外な場所の図書館も十分に成立するのだろう。

塀の向こうの本は、キューバにあるグアンタナモ収容所にある図書館のこと。収容者が利用するための図書館だ。蔵書数は2万冊ほどあって、英語の本とアラビア語の本があるという。収容者は直接書架には入れず、あらかじめ書名を申請して受け取るか、週1回運ばれる本をフェンス越しに選んで受け取る。返却の際には、他の収容者あてのメッセージが書き込まれていないか入念にチャックされるらしい。

こうして読んでいくと、本というものが人間にとって必要不可欠な存在なのだということを改めて実感することができる。本を読みたいという欲求、本から知識を得たいという欲求は、世代や場所、環境を問わずに誰もが等しく持っていて、その欲求を満たすために様々なに奮闘する人たちがいる。そのことを本書は教えてくれる。