タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「2001年宇宙の旅」、「未知との遭遇」、そこには“神”があった-ハリ・クンズル「民のいない神」

砂漠には何でもある。と同時に、何もない。砂漠は神だ。しかし、そこに民はいない。 扉に引用されたバルザック「砂漠の情熱」の一節が、本書「民のいない神」のタイトルの元である。 民のいない神 (エクス・リブリス) 作者: ハリクンズル,木原善彦 出版社/メ…

男はみんなダメ男。だから女は強かに生きるのです。-太宰治「ヴィヨンの妻」

太宰治「ヴィヨンの妻」に登場する大谷は、作者自身を彷彿とさせるような、明らかな“ダメ男”である。 ヴィヨンの妻 作者: 太宰治 発売日: 2012/09/12 メディア: Kindle版 この商品を含むブログ (1件) を見る ヴィヨンの妻 (新潮文庫) 作者: 太宰治 出版社/メ…

あの日、三島由紀夫は自らの命を賭して決起を訴えた。しかし、時代は彼を必要とはしなかった-中川右介「昭和45年11月25日 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃」

昭和45年(1970年)11月25日は、作家三島由紀夫が、自らが結成した「楯の会」の同志とともに自衛隊市ヶ谷駐屯地に乱入し、総監を人質にして立てこもった上、バルコニーで自衛隊に決起を促す演説を行った後に割腹自殺を遂げた日である。今年(2015年)は、三島事…

彼女の過去に何が起きたのか。その真実が明かされるラストに驚愕せよ!-ルネ・ナイト「夏の沈黙」

人として生きてきたからには、誰だって過去にひとつやふたつの後ろめたい出来事があるはずだ。いや、もちろん聖人君子の如く清く正しく生きてこられた方もおられるでしょうが。 夏の沈黙 作者: ルネ・ナイト,古賀弥生 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2…

療養所を舞台にしたシチュエーション・コメディ。太宰が描く青春ラブコメの世界-太宰治「パンドラの匣」

シチュエーション・コメディ(シットコム)とは、 ・舞台設定、登場人物がほぼ固定された1話完結のコメディ・ドラマ である。太宰治「パンドラの匣」は、この定義に従って「とある療養所を舞台にしたシットコム」として見ても、それはあながち間違った解釈…

なぜ?、なぜ?、なぜ?の繰り返し。刑の執行を待ち望む女死刑囚の心理とは?−早見和真「イノセント・デイズ」

ミステリ小説というのは、読者の興味をいかに惹きつけるかが作品の良し悪しとなるように思う。ページをめくって物語の書き出しの一文を読み始めてから、ラストの1行を読み終えるまでの間、読者を飽きさせず、常に先の展開が気になって途中で本を置くことが…

目に見える恐怖よりも目に見えない恐怖の方が真の恐怖なのだ−ジョージ・オーウェル「一九八四年」

日本が壊れかかっている。 と言ってしまうのは大げさだろうか。 一見すると平和で、何も問題のないように見える私たちの国は、その見た目とは裏腹の危機感に満ちているように思える。人々は自由に生き、自由な考えを自由に口に出すことができる。だけど、何…

母の過去に秘められた事件の背景。そして、真実がすべてを解放する−ケイト・モートン「秘密(上/下)」

有名女優ローレル・ニコルソンは、まだティーンエイジャーだったあの日、母ドロシーがひとりの男を殺す瞬間を目撃した。成長し、女優としての名声を獲得したローレルは、あの事件の背景にあるドロシーの過去に秘められた出来事を調べ始める。 秘密 上 作者: …

謎の奇病モンモウ病に侵された医師の復讐譚であり、医学界の暗部を鋭く抉る社会派問題作でもある-手塚治虫「きりひと讃歌(全4巻)」

※本レビューは、作品の結末をネタバレしています。以下をお読みになる場合は、その点を十分にご考慮ください。 手塚治虫といえば、日本のマンガ、アニメの先駆者であり巨匠。現在、世界に誇る日本の代表的文化・芸術となったマンガやアニメに関するすべての…

戦争を知らない世代が描く「戦争のリアル」がなぜか心に響かない−高橋弘希「指の骨」

今年2015年は、太平洋戦争の集結から70年目の節目の年である。戦後70年…あの戦争を現実として知っている方々は、皆70歳以上で老境の域にあり、戦争を知らない若い世代への記憶の継承が必要とされている。 指の骨 作者: 高橋弘希 出版社/メーカー: 新潮社 発…

ホームズの仲間たちを探偵役に据えたスピンオフ的パスティーシュ-北原尚彦「ホームズ連盟の事件簿」

シャーロック・ホームズシリーズは、主役のホームズだけではなく、脇役たちにも人気者が多く、彼らもまた魅力的なキャラクターである。 ホームズ連盟の事件簿 作者: 北原尚彦 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2014/10/10 メディア: 単行本 この商品を含むブ…

ドラマ「SHERLOCK」の世界観で描かれるホームズ・パスティーシュ短篇集-北原尚彦「ジョン、全裸連盟へ行く」

2010年7月に、英BBCで放送がスタートした「SHERLOCK」は、かの有名な名探偵シャーロック・ホームズを現代に蘇らせた。主役のホームズに扮したのはベネディクト・カンバーバッチで、彼はこの作品により人気俳優となった。 ジョン、全裸連盟へ行く: John & She…

こ、これは…どう評すれば良いのだろうか…−パク・ミンギュ「カステラ」

今年創設された「日本翻訳大賞」の記念すべき第1回大賞を受賞したのが、パク・ミンギュ「カステラ」であったことは、「日本翻訳大賞」という文学賞のスタートとしては、最高の選択だったのではないだろうか。 カステラ 作者: パクミンギュ 出版社/メーカー: …