タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「できる」ことと「できない」ことを理解すれば楽になれるだろうか?-保坂健「平常心」

ひとりが好きである。 ひとりだと肩の力が抜けて、落ち着いた気分でのんびりと過ごすことができる。ひとりの時間は、私にとっては何より代えがたい貴重な時間なのである。 もともと、他人と交わるのがあまり得意な方ではなくて、仕事でもプライベートでも誰…

デビュー作らしい生硬さがある一方で、笑いの世界の描写は秀逸だと思った-又吉直樹「火花」

2015年上半期の文学界で、おそらく一番話題を集めているのが、漫才コンビ・ピースの又吉直樹氏が書いた初の小説「火花」であることは間違いない。同作が掲載された文芸誌「文学界2月号」は、1933年の創刊以来初めての増刷となるほどの売上を記録し、5月に発…

友達はいますか? 友達が欲しいですか? 友達ってなんですか? 本当に友達が必要ですか?-柚木麻子「ナイルパーチの女子会」

つくづくと女性とは怖いものであるな、と思うのである。それは、柚木麻子が描き出す、女性の痛々しいところ、弱々しいところが、読んでいて実に深く胸を抉り出し、なおかつその抉った傷口に塩をすりこむように、容赦なく迫ってくるからなんだろうと思うので…

そばにいるから気づかない。その存在が消えた後に遺された者が感じる惜別-西川美和「永い言い訳」

いつも、当たり前のようにそこにあるもの。 近すぎるから、かえって目に見えないもの。 失ってはじめて気づくもの。 永い言い訳 作者: 西川美和 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2015/02/25 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (10件) を見る 永い言…

【グルメ】東京で食べられるさぬきうどんでは、いちばん美味しい(個人の感想です)-根津「根の津」

先日、東京の「谷中」、「千駄木」、「根津」をブラブラする、いわゆる「谷根千散歩」に行ってきた。 谷根千を歩くにあたっては、「ランチは絶対ここ!」と決めていた店がある。それが、根津にあるさぬきうどんの店「根の津」だ。 何を隠そう(別に隠してい…

運命の日。そんな日でも、人々は変わらぬ生活を営んでいた-太宰治「十二月八日」

山田洋次監督で映画化もされた中島京子の「小さいおうち」で驚いたのは、太平洋戦争真っ只中であるはずの東京が、必ずしも戦時下の緊迫した状況にあり続けた訳ではなく、むしろ、本格的な東京への空襲が始まるまでは、誰もが普通に暮らし続けていたのだ、と…

これは懺悔なのか。それとも、ただの自己顕示なのか-元少年A「絶歌」

もしかすると、本書について語ることは、自らの悪性を告白するに等しいことなのかもしれない。もしかすると、多くの誰かを、知らず知らずに傷つけることになるのかもしれない。 絶歌 作者: 元少年A 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2015/06/11 メディア:…

【映画評】天才同士の火花を散らす強烈なセッションに震える-デミアン・チャゼル監督「セッション」

冒頭、カメラは薄暗い廊下をゆっくりと進んでいく。遠くから激しいビートを刻むドラムの音が聴こえてくる。シャッファー音楽学院の練習室で、若いジャズドラマーのアンドリュー・ネイマン(マイルズ・テラー)が一心不乱にドラムの練習をしているのだ。そこ…

あるひとりの男の生涯。波乱はない。けど、平凡でもない人生が心に深く染み入ってくる−ジョン・ウィリアムズ「ストーナー」

私は、この物語を品川にあるカフェで読み終えた。 ストーナー 作者: ジョン・ウィリアムズ,東江一紀 出版社/メーカー: 作品社 発売日: 2014/09/28 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (18件) を見る 最後の文章を読み終えた瞬間、私は深く息を吐いた。そ…

太宰流ボヤキ漫談と自虐ネタ。遠慮しないで突っ込め笑え!-太宰治「家庭の幸福」

しかしなんですな、昔も今も“官僚”、“役人”というのは嫌われ者と相場が決まっているのですな。 太宰さんも、“官僚”というヤツには一家言あるようでして、「家庭の幸福」という短編でボヤいております。 家庭の幸福 作者: 太宰治 発売日: 2012/09/27 メディア…

桜の樹の下に埋まっているもの。理解できないその妖しさと不気味さと-梶井基次郎「桜の樹の下には」

桜の樹の下には屍体が埋まっている! 印象的な一文ではじまる短い物語は、物語というよりも梶井基次郎の心の闇を吐き出したかのような暗さを湛えている。 桜の樹の下には 作者: 梶井基次郎 発売日: 2012/09/27 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見…

17年振りの“私”シリーズには、北村薫の文学に対する想いがこめられている-北村薫「太宰治の辞書」

偶然なのだけれど、私の手元には「新潮文庫創刊版の完全復刻版」セットがある。創刊100年を記念して作られたものだ。 太宰治の辞書 作者: 北村薫 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/03/31 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (16件) を見る 北村薫「…

彼女はただ待ち続ける。誰でもない、見知らぬ誰かを−太宰治「待つ」

省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。誰とも、わからぬ人を迎えに。 待つ 作者: 太宰治 発売日: 2012/09/12 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 太宰治「待つ」を初めて読んだのは、2011年から刊行をスタートした集英社の…