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【書評】隆慶一郎「隆慶一郎全集7 かくれさと苦界行」(新潮社)-吉原vs.裏柳生、神君御免状を巡って繰り広げられる対立の決着はいかに?

デビュー作でもある前作「吉原御免状」の翌年に発表された続編が本書「かくれさと苦界行」である。

隆慶一郎全集第七巻 かくれさと苦界行 (第4回/全19巻)

隆慶一郎全集第七巻 かくれさと苦界行 (第4回/全19巻)

 

前作と同様、吉原の総名主となった松永誠一郎と、彼が持っている「神君御免状」を巡って、老中・酒井忠清と彼の意を汲む裏柳生の総帥・柳生義仙との対立を描いた本作は、神君御免状を巡る吉原対裏柳生の対立の決着に向けた物語である。

 

吉原御免状」で、宿敵である義仙の片腕を切り落とし、一応の勝利を得た松永誠一郎は、吉原の総名主としての日々を送りながらも、いまだ神君御免状の奪取を諦めようとしない老中・酒井忠清の思惑に頭を悩ませていた。

あるとき、誠一郎たち吉原者は、吉原の外に公儀の許可を得ていない岡場所が乱立している状況を知る。それは、吉原を罠にはめるべく義仙が仕組んだことだった。そのことに気づいた誠一郎以下吉原の手代たちは、義仙率いる裏柳生との決戦に挑む。

前作「吉原御免状」での対決で左腕を切り落とされた義仙は、裏柳生総帥としての立場を剥奪され、柳生の里に蟄居して表舞台からは姿を消した形になっているが、実際には隻腕での剣術に磨きをかけ、いまだに裏柳生を牛耳る存在である。彼の存在は、誠一郎にとって最大の問題であり、かつある意味で心を通じ合わせたライバル関係ともいえる。

そしてここに、もうひとり新たな人物が加わることになる。それが、荒木又右衛門である。

「お館さま」と呼ばれるその人物は、偉丈夫であり恐ろしいほどの怪力の持ち主である。さらにいえば、人のものとは思えぬような巨大なイチモツの持ち主であり、男扱いには手練の商売女でさえ、彼のイチモツには恐れをなし、夜の相手を拒むほどという。

だが、又右衛門は見上げるばかりの偉丈夫で人間離れしたイチモツの持ち主というだけではない。彼は常人離れした武芸者であり、その怪力と敏捷性をもって誠一郎たちの脅威となる。その一方で、優しい性格の持ち主でもあり、直情的な行動で吉原手代のひとりを死に至らしめた後、それが義仙たちの謀事であったと知って懊悩したり、しようとする又右衛門は、柳生家の危機を察して山を降りたのだ。吉原にとって、又右衛門は敵なのか、味方なのか。本書では、又右衛門の存在感がなにより強いインパクトとなっている。

本書のクライマックス。誠一郎と義仙が刃をまみえる。そして、この最後の決戦を経て、ふたりの剣豪はそれぞれの生き方を見い出すことになる。

松永誠一郎、柳生義仙、そして荒木又右衛門。吉原をと、そして誠一郎たちが手にする「神君御免状」をめぐって繰り広げられる戦いの物語は、時代エンターテイメントの世界観を一変させたのかもしれない。二十年ぶりの再読となった隆慶一郎作品は、時を経ても、その面白さは褪せることがなかった。次は「影武者徳川家康」とするか、それとも「一夢庵風流記」とするか。今年は、隆慶一郎という作家をもう一度読み返す年にしようと思う。

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隆慶一郎全集第一巻 吉原御免状

隆慶一郎全集第一巻 吉原御免状