タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2015-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ある者は何かを求めて、ある者は何かから逃れて、人はこうして酒場に集う−パトリック・デウィット「みんなバーに帰る」

「酒場の風景とは、そこに集まる人たちの人生の縮図である」 そんな言葉があったようななかったような。でも、人が酒を求めて酒場に足を向け、酒を呑んで、酒に呑まれる理由なんて、結局はそういうことなんだと思う。 みんなバーに帰る 作者: パトリック・デ…

ひとりに慣れすぎて、ひとりが好きすぎて-新久千映「yeah!おひとりさま」

OLのワカコがひとり居酒屋で酒を飲むマンガ「ワカコ酒」。武田梨奈(セゾンカードのCMで頭で瓦を割っていた女優さん)の主演でドラマ化もされた(現在BSジャパンで毎週木曜日23:30から放送中)人気マンガの著者・新久千映が、自らのおひとりさま体験を描い…

今から思えばそんなに美味かった訳でもないのに、あの頃は食べたくて仕方がなかった−魚谷祐介「日本懐かし自販機大全」

子供の頃、デパートというほど大げさな店ではないが、ちょっと大きめのスーパーの屋上にゲームセンターがあって、よくそこで遊んだ。もちろん、目的はゲームなのだが、遊びまくってお腹がすいてくると軽食コーナーに向かうのが常だった。そこには、ハンバー…

底辺に生きる男と女。彼らが光を放つのはその場所だけなのだ−佐藤泰志「そこのみにて光輝く」

佐藤泰志「そこのみにて光輝く」は、彼が遺した唯一の長編小説である。刊行されたのは、佐藤泰志が自ら命を断つ前年の1989年に発表され、第2回三島由紀夫賞の候補となった(この時の受賞は、大岡玲「黄昏のストーム・シーティング」)。 「そこのみにて光輝…

すべてが真剣勝負!強靭な体力と精神力を有する柔道狂たちの青春-増田俊也「七帝柔道記」

“柔道”というと、オリンピック競技にもなっている立ち技が主体のスタイルしかないものだと思っていた。しかし、世間一般に認知されているスタイルの柔道(講道館柔道というらしい)の他にも、独自のルールで戦う柔道があるのだという。 七帝柔道記 作者: 増…

クラレンス、その愛すべき存在-クレア・キップス「ある小さなスズメの記録〜人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯」

これは、1羽のイエスズメの生涯の記録である。 ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯 (文春文庫) 作者: クレアキップス,Clare Kipps,梨木香歩 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2015/01/05 メディア: 文庫 この商品…

直情に駆られた男と彼の暴走に巻き込まれた友人の話−太宰治「走れメロス」

メロスは激怒した。 この、あまりに有名な書き出しで始まる名作「走れメロス」は、国語の教科書などでも取り上げられる誰もが知る作品である。正義の人メロスが、邪知暴虐の王・ディオニスの暴君ぶりを聞き及んで怒り心頭に発し、「呆れた王だ。生かして置け…

『食』に関する文化や人々の生活が、世界をつなぐことも、対立を生み出すこともあるのかもしれない-ピョートル・ワイリ/アレクサンドル・ゲニス「新装版亡命ロシア料理」

ロシア料理といって思いつくもの。ボルシチ、ピロシキ、あとは……ウォッカ?(それは料理じゃない!)それくらい、ロシア料理には馴染みがない。本書の表紙にも4種類のロシア料理の写真が掲載されているのだが、料理名が思い浮かぶのはボルシチくらいで、残…

家族、それは一番近くにいて一番わかってくれるのに、一番わかってあげられない存在−辻村深月「家族シアター」

あまりに近すぎて、逆に遠くなってしまうのが家族というもの。毎日、空気のように接しているから、特に意識なんてしていないけれど、実は一番敏感な存在なのも家族。 家族シアター 作者: 辻村深月 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2014/10/21 メディア: 単…

小説世界に対する巧みな企てが本当にうまい−佐藤正午「鳩の撃退法」

佐藤正午は、もっと評価されていい作家だと、その作品を読むたびに思っている。「永遠の1/2」で第7回すばる文学賞を受賞してデビューした後、「リボルバー」、「ジャンプ」、「5」、「身の上話」など、良質な作品を生み出してきており、書評家などからも…

やしきたかじん最期の日々を献身的に支えた妻の話は感動的である。だが、どうにもモヤモヤが拭いきれない−百田尚樹「殉愛」

「関西の視聴率男」と呼ばれたやしきたかじんさんが食道がんによって亡くなったのは、2014年1月のことである。彼の死は、ホームグラウンドである関西はもちろんのこと、彼の番組がほとんど放送されていない東京にも衝撃を与えた。 殉愛 作者: 百田尚樹 出版…

豊かな環境が豊かな感性を育てる−レイチェル・カーソン「センス・オブ・ワンダー」

子供の頃。まだテレビゲームがなかった時代。私たちの想像力をかきたてたもの。海や山や野原や森、もっと身近な公園の植え込みや通学路の道端に生える雑草の群れ。そこには、本当に様々な動植物が生きていて、子供たちを驚かせたり、喜ばせたりしていた。子…

戦争とは、いつも誰かの人生に影を落とすのだ。戦争によって家族は翻弄される-イレーヌ・ネミロフスキー「この世の富」

今年(2015年)は、アウシュビッツ強制収容所が解放されて70年の節目の年に当たる。解放記念日にあたる1月27日には、記念式典が行われた。 この世の富 作者: イレーヌネミロフスキー,Ir`ene N´emirovsky,芝盛行 出版社/メーカー: 未知谷 発売日: 2014/06/01 メ…