タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2015-12-01から1ヶ月間の記事一覧

読み進めていく中で、私はこの不思議な感覚に翻弄され、そして魅せられていった-セサル・アイラ「わたしの物語〈創造するラテンアメリカ2〉」(松籟社)

ガルシア・マルケスやバルガス・リョサなど、南米の作家の小説は面白い。 「マジック・リアリズム」と称されるその世界観は、読み手を翻弄し、困惑させる。時間軸、空間軸が歪み、ストーリーは展開しつつ崩壊していく。 わたしの物語 (創造するラテンアメリ…

高校の吹奏楽部に所属するハルタとチカ。彼らが遭遇する日常の不思議-初野晴「惑星カロン」(角川書店)

初野晴「惑星カロン」は、高校の吹奏楽部に所属する上条春太と穂村千夏の幼なじみコンビが、吹奏楽コンクールの最高峰《全日本吹奏楽コンクール(会場の名前から「普門館」と呼ばれる)》の出場を目指す中、学校内な彼らの周囲で起きる日常の謎を解き明かす…

「あ、この人がこっちにも出てる!」 伊坂作品は人物相関を把握しながら読むと面白い!-伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」

伊坂幸太郎の作品は、作品同士がうまくつながっていて、ある作品に登場した人物が他の作品の脇役として登場してみたり、ある作品でのエピソードが別の作品で言及されていたりとか、じっくり読むことで楽しめる仕掛けが施されていて、それが読者を楽しませる…

すばらしい書き手は、最高の読み巧者でもあるのだということ-松田青子「読めよ、さらば憂いなし」

新聞や雑誌、ネット上に掲載されている書評を本を選ぶときの参考にしている。好きな作家さんがオススメする本とか、信頼する書評家が書評している本、最近だと書評サイトや書評ブログを読んで、レビュアーさんやブロガーさんのオススメ本を読んでみたくなっ…

母国語とは違う言葉で表現をするということ-ジュンパ・ラヒリ「べつの言葉で」

私は、日本で生まれて日本で育ってきた。《日本人》であることが自らのアイデンティティである。 日本人として育ってきた中で、日本語を母語としてきた私は、恥ずかしながら英語をはじめとする他国の言語を話すことができない。日本語で話し、日本語で考える…

なぜだろう、今の私はここに書かれていることに強く共感しています-梶井基次郎「檸檬」

ふと思い立って、梶井基次郎の「檸檬」を読んでみました。 檸檬 作者: 梶井基次郎 発売日: 2012/09/27 メディア: Kindle版 クリック: 1回 この商品を含むブログを見る 梶井基次郎の著作は、青空文庫などで無料で読むことができますので、ちょっと読んでみよ…

本書に収録されたメッセージに対して、私は返す言葉を見つけられない-ヤスミンコ・ハリロビッチ編著「ぼくたちは戦場で育った~サラエボ1992-1995」

今年(2015年)の世相を表す漢字は《安》に決まったというニュースがあった。 今年の漢字が《安》に決まったことを受けて、安倍首相が自分の名前の漢字が選ばれたことを嬉しそうに語り、今年自分が執念の末に強行採決で決定した安全保障法案の意義を誇らしげ…

《蛭子能収》と「論語」の親和性?-蛭子能収「蛭子の論語~自由に生きるためのヒント」

「論語」とは、中国・春秋時代(紀元前770年頃から紀元前403年頃)の思想家である孔子(紀元前552年-紀元前479年)が弟子たちと交わした言行を、孔子の死後に弟子たちの手によってまとめられた書物であり、儒教における「四書」のひとつである。 「論語」に…

子供から大人へ、成長の階段をあがるということ-川上未映子「あこがれ」

川上未映子「あこがれ」は、著者にとって4年振りとなる小説である。 あこがれ 作者: 川上未映子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/10/21 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る 物語は、麦彦という少年とヘガティーとあだ名された少女が…

《人形遣い》と呼ばれる猟奇殺人犯を追い詰める孤高の事件分析官-ライナー・レフラー「人形遣い~事件分析官アーベル&クリスト」

小説の中でしか起こらない(起こってほしくない)犯罪がある。例えば、猟奇的な殺人事件などは、現実に起きてほしくないタイプの犯罪の代表で、ミステリー小説の中であれば許される(いや、犯罪としては許されないよ、当たり前だけど)題材であろう。 人形遣…

時代というものに翻弄される人間がその心の奥底に飼っている優しい鬼-レアード・ハント「優しい鬼」

小説とは、読者の心に解釈を委ね、ひとりひとりの読者によって昇華される作品なのだと思っている。だからこそ、作品に描かれる場面に惹かれ、そこから読み取れる登場人物たちの心理や風景に思いを馳せて、小説を楽しむのである。 優しい鬼 作者: レアード・…