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【書評】アンヘル・エステバン/ステファニー・パニチェリ「絆と権力 ガルシア=マルケスとカストロ」(新潮社)-コロンビア生まれのノーベル賞作家とキューバ革命の指導者の友情

2015年7月。アメリカとキューバにそれぞれの大使館が開設されたことで、1961年以来続いてきた両国の国交断絶は解消された。これは、54年ぶりの出来事であり、歴史の1ページを開いた。今年(2016年3月)には、オバマ米大統領がキューバを訪問している。

絆と権力―ガルシア=マルケスとカストロ

絆と権力―ガルシア=マルケスとカストロ

 

 

中米の島国キューバキューバ革命が起こったのは、1959年のことである。それまで独裁政治を行っていたバティスタ政権をクーデターで倒し、社会主義政権が樹立された。クーデターの指導者は、フィデル・カストロチェ・ゲバラ。その後、カストロキューバ議長として社会主義国家の運営の先頭に立ち、ゲバラは別の戦いの場を求めてキューバを離れ、ボリビアの地で命を落とした。

本書は、キューバ革命指導者であるフィデル・カストロと親交が厚い、コロンビア出身のノーベル賞作家ガブリエル・ガルシア=マルケスとの関係を描き出すノンフィクションである。

カストロとガルシア=マルケス(愛称ガボ)。このキューバ革命家とコロンビア人作家の間には、いったいどのような関係があるのか。本書は、ふたりの絆と権力について解き明かしていく。

フィデルガボを結びつけるのは文学である。

ラテンアメリカ諸国の文学者たちが、フィデル社会主義的国家建国に対して反意を示した際にも、ガボはそれに同調することはなかった。ガボは、フィデルからハバナの高級住宅地に邸宅を提供され、必要があればそこに駆けつける。フィデルガボは、政治的な話はもちろん、文学に関する話にも花を咲かせる。ガボノーベル文学賞を受賞した際に、フィデルは高級ワインを大量にスウェーデンのレセプション会場に届けさせた。しかし、スウェーデンでは公式の場での飲酒は控えることが礼節とされているために、フィデルのこの行為は顰蹙を買ったという。

また、キューバにおいて様々な亡命問題が発生した時も、ガボフィデルにアドバイスを送っている。ガボの進言によりキューバ国外に脱出できた人は数多い。その反面、フィデルが引き起こした暴力的な政治判断(処刑行為など)については沈黙を貫くなど、態度に一貫性が見られない場合もある。

2016年の現在、国家運営の第一線からは退いたとはいえ、フィデル・カストロは89歳にして健在である。一方のガブリエル・ガルシア=マルケスは、2014年に86歳で亡くなった。

フィデルは、既にキューバ国内における政治的な実権を弟のラウルに移譲しているものの、その存在感はまだまだ大きい。健康面での不安がささやかれ続けているが、まだしばらく彼の訃報が世界に流れることはなさそうな気がする。

一方のガボは、晩年認知症を患っていたと言われている。ガボはとあるインタビューの中で、「フィデルが死んだらキューバに行くことはなくなるかもしれない」と答えている。残念ながら、ガボフィデルよりも先にこの世と別れを告げて、黄泉の国へと旅立った。ガボの訃報を受けて、フィデルは深く落ち込んだという。

フィデルガボは、互いに深い絆で結びついていた。それは、第三者的に見ると不思議な関係性だっただろう。しかし、人間の友情、人間の絆というのは、当事者同士にしかわからない世界がある。フィデルガボの関係性は、ある意味で理想的な関係性でもあるのではないかと感じた。

 

チェ・ゲバラの記憶

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