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【書評】フェルディナント・フォン・シーラッハ「テロ」(東京創元社)-7万人の命を救うために164人を乗せた旅客機を撃墜した空軍少佐は英雄なのか罪人なのか

多数を救うために少数を犠牲にする行為は正義なのか?

テロ

テロ

 
テロ

テロ

 

ハーバード大学マイケル・サンデル教授「これからの「正義」の話をしよう」など、多くの書籍や哲学講義、法学講義などの場で議論され続けている問題を題材に、「犯罪」や「罪悪」などのベストセラー作家であるフェルディナント・フォン・シーラッハが書き上げたのが、本書「テロ」である。

 

「テロ」は、法廷を舞台にした戯曲である。

2013年7月26日、ベルリン発ミュンヘン行のルフトハンザドイツ航空の旅客機がテロリストによってハイジャックされる。乗員乗客164名を乗せた旅客機を、7万人の観客がひしめくサッカースタジアムに墜落させることがテロリストの目的だった。緊急発進したドイツ空軍のラース・コッホ少佐は、テロリストの目的を阻止するための措置を試みるが、旅客機は確実にサッカースタジアムへと向かいタイムリミットが近づく。少佐は、最終判断として旅客機の撃墜を決断。空対空ミサイルによって旅客機は撃墜され、164名の乗員乗客の命と引き換えに7万人の命が救われることとなる。だが、彼の行為は殺人罪に問われ、少佐は拘束され裁判を受けることとなる。

テロリストの卑劣な行為による犠牲を最小限にとどめるために空軍少佐がとった行動は、正義のための正しい判断だったのか、それとも164名の無辜な命を理不尽に奪った罪深き行為なのか。物語は、法廷を舞台にして、裁判官、検察官、弁護士、被告人、証人の発言の積み重ねによって展開していく。読者は、それぞれの主張を確認し、相互の批判に耳を傾け、少佐のとった行動は無罪なのか有罪なのかを考える。

本作には、明確な結論は描かれていない。それぞれの主張を積み重ねた先には、参審員=読者による判断の機会が用意されている。読者は、空軍少佐の罪を自らの考えで裁くことになるのだ。

したがって、「評決」と題される最終幕には、「有罪」の評決を選択した場合の場面と、「無罪」の評決を選択した場合の場面が用意されていて、読者は自分の選択した結論に合わせて、該当する評決の内容を確認することができる。

本書は、戯曲シナリオとして読んで楽しむこともできる。しかし、実際の舞台劇として観た方がもっと楽しめるだろう。本国ドイツでは、観客を参審員に見立て、実際に評決を取る形でラストシーンを選択する舞台が実際に上演されたそうだ。2015年7月に上演された際には、255対207で無罪の評決がでたらしい。

www.tagesspiegel.de

日本でも、8月に「朗読劇」として上演されることが決定している。

mystery.co.jp

朗読は、シーラッハ作品の朗読劇をこれまでも手がけている俳優の橋爪功氏、ピアノ演奏は小曽根真氏、演出は深作健太氏がそれぞれ担当する。

日本での上演が、どのような形式で行われるのかは実際の舞台を観ないとわからないが、本国と同様に観客も参加する形での舞台になるのではないだろうか。チケットを入手しているので、当日を楽しみにしたいと思う。

 

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