タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2014-10-01から1ヶ月間の記事一覧

灰色の脳細胞にも推理の誤り?-ピエール・バイヤール「アクロイドを殺したのはだれか」

【ネタバレ注意!】今回のレビューでは、アガサ・クリスティ「アクロイド殺人事件」の内容についてネタバレを含む記述がありますので、同作を未読の場合は以下の記事を読まないようにね! 「アクロイド殺人事件」といえば、ミステリー界の女王アガサ・クリス…

空に憧れ、空を目指した男の物語-飯嶋和一「始祖鳥記」

かつて、人は大空に憧れていた。空を自由に飛ぶ鳥を見て、自らも空を飛ぶことを夢見た。だが、それを実現するのは至難の業であり、それを試みた多くの冒険者の命が失われた。 始祖鳥記 (小学館文庫) 作者: 飯嶋和一 出版社/メーカー: 小学館 発売日: 2002/11…

子供から大人へ、成長の階段、性徴の差異-村田沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」

村田沙耶香の三島由紀夫賞受賞作。その特徴的なタイトルは本書を読み進めていくと真意がわかる。 しろいろの街の、その骨の体温の 作者: 村田沙耶香 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2012/09/20 メディア: 単行本 クリック: 1回 この商品を含むブログ…

パトラッシュ、ハチ公のご主人は戻ってきたかい?-飯田操「忠犬はいかに生まれるか-ハチ公・ボビー・パトラッシュ」

犬、飼ってますか? 犬は人間に従順なペットである。そのため、犬が飼い主に忠節を尽くすというエピソードは、古今東西、フィクション/ノンフィクションの区別を問わずに数多く存在する。 忠犬はいかに生まれるか―ハチ公・ボビー・パトラッシュ 作者: 飯田…

きみは赤ちゃん、母は女神様-川上未映子「きみは赤ちゃん」

女性って本当に大変なんだなぁ~、というのは率直な感想です。この大変さは、男には絶対に理解できないと思います。 きみは赤ちゃん 作者: 川上未映子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2014/07/09 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (15件) を見る …

体制に抗い続けた作家の痛烈な皮肉-ダニイル・ハルムス「シャルダムサーカス」

ダニイル・ハルムスは弾圧された作家である。1930年代に多くの作品を書き表したハルムスは、その作風がソビエト共産党当局から危険視され、1941年には逮捕、拘束されたのち、そのまま1942年に死亡した。死因は餓死であるとされている。 シャルダムサーカス …

旅は道連れ?作家2人の海外珍道中-高木彬光、山田風太郎「風さん、高木さんの痛快ヨーロッパ紀行」

日本ミステリー界の重鎮である高木彬光(1920~1995、代表先「刺青殺人事件」、「白昼の死角」等)と山田風太郎(1922~2001、代表作「魔界転生」、「警視庁草紙」等)。二人は、デビュー時期も近く年齢も近いことから互いに交流に深めていた間柄。そんな二…

言葉はなくとも気持ちは伝わる-ショーン・タン「アライバル」

「まっくら、奇妙にしずか」について書いた中で言及しておきながら本書の感想をアップしていませんでしたので、慌ててアップなう(笑) アライバル 作者: ショーン・タン,小林美幸 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2011/03/16 メディア: 大型本 購入:…

モノクロームの静謐な世界-アイナール・トゥルコウスキィ「まっくら、奇妙にしずか」

ある日、どことも知れぬ海辺の町にひとりの男が現れて、町はずれに住みつく。 町の住人たちは突然現れた余所者の男を遠巻きに観察しつつ、しかし、決して近づこうとはしない。 やがて、男が町に魚を売りに来るようになる。 住人たちは男から魚を買うことはし…

芭蕉の足跡を辿りつつ、ちょいと一献-太田和彦(著)、村松誠(画)「居酒屋おくのほそ道」

江戸時代初期、俳人・松尾芭蕉は、弟子の曾良を連れて東北地方への旅に出た。松島、山形、奥州平泉を歩き、その記録と彼の地で詠んだ俳句をまとめたのが「奥の細道」である。 居酒屋おくのほそ道 (文春文庫) 作者: 太田和彦,村松誠 出版社/メーカー: 文藝春…

旅先でふらりと入る地元居酒屋に憧れるなぁ~-太田和彦「ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇」

本書は、日本全国の居酒屋を巡り歩く居酒屋紀行エッセイシリーズの第三弾になります。第一弾は立志編、第二弾は疾風編です。 ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇 (新潮文庫) 作者: 太田和彦 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2001/11 メディア: 文庫 購入: 2人 ク…

人間、しっかり食べてれば頑張れる!-柚木麻子「ランチのアッコちゃん」

先日、柚木麻子さんが登壇するトークイベントに行ってきた。ちょうど、シリーズ続編にあたる「3時のアッコちゃん」が発売された日で、トークテーマは「本を味わう」と題して、料理やお菓子が登場する本を柚木さんともうひとりのゲスト(パンとお菓子の研究…

映画が最大の娯楽だった時代、なんでもありのアナーキズム-「鮮烈!アナーキー日本映画史1959-1979」

まず表紙になっている若かりし頃の加賀まりこのコケティッシュな魅力にグッと心を掴まれる。そして、裏表紙には坂本龍馬に扮した原田芳雄が、短銃を構えてニヒルな笑みを浮かべる。もうそれだけで、60年代~70年代の日本映画の華やかさが目に浮かぶようでは…

こじらせ男子の妄想全開。その先にあるのは?-ロバート・クーヴァー「ユニヴァーサル野球協会」

いつの時代もいくつになってもこじらせちゃう人ってのはいるもんでしてね。 ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス) 作者: ロバートクーヴァー,越川芳明 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2014/01/18 メディア: 新書 この商品を含むブログ (12件) を見る 本…

チャレンジャーだなぁ~-菅野彰・立花実枝子「あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します」

どんな町にでも、「この店、営業してるのか?」と疑問に感じる店が1軒はあるものだ。「こういう店こそ、実はうまいんだよ」と通ぶって語る人もいるが、そういう人に限っていざ、「じゃ、入ってみる?」と水を向けると尻込みしたりする。この本は、そういう“…

そして、物語は完結する-ダン・シモンズ「エンディミオンの覚醒」

全4巻に及ぶ長大なハイペリオンシリーズの最終巻である。シリーズの大団円を迎え、これまでに示されてきた謎の大部分がクリアになっていく。 エンディミオンの覚醒〈上〉 (ハヤカワ文庫SF) 作者: ダンシモンズ,Dan Simmons,酒井昭伸 出版社/メーカー: 早川…

今回は映画の話-実写版「ルパン三世 念力珍作戦」

今年、実写版の「ルパン三世」が劇場公開された。 小栗旬がルパンを演じ、黒木メイサの峰不二子、玉山鉄二の次元大介、綾野剛の石川五エ門、浅野忠信の銭形警部と配役陣も豪華。監督は、アクション映画に定評がある北村龍平で、本作でもアクションシーンが見…

「静」から「動」へ物語は動き出す-ダン・シモンズ「エンディミオン」

ハイペリオンシリーズの第3部にして、エンディミオン2部作の第1作にあたる。直球のジェットコースターアクションに仕上がっている。 エンディミオン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF) 作者: ダンシモンズ,Dan Simmons,酒井昭伸 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: …

没落と新たなる物語への繋がり-ダン・シモンズ「ハイペリオンの没落」

“ハイペリオン”から“エンディミオン”へと続く叙事詩の中間地点。ハイペリオン二部作の愁眉を飾る作品である。前作では、ハイペリオンへの巡礼に赴く7人の、それぞれが抱える過去や想いが語られた。本書では、いよいよハイペリオンに存在する“時間の墓標”や…

企業に所属することの意味とは?-中村修二「怒りのブレイクスルー」

今年(2014年)のノーベル物理学賞は、青色発光ダイオードの研究、開発、普及への貢献が評価された日本人3人が受賞した。 怒りのブレイクスルー―「青色発光ダイオード」を開発して見えてきたこと (集英社文庫) 作者: 中村修二 出版社/メーカー: 集英社 発売日:…

物語の始まり-ダン・シモンズ「ハイペリオン」

壮大な物語のはじまりは、たいていの場合、ひっそりとしたものだ。「ハイペリオンの没落」、「エンディミオン」、「エンディミオンの覚醒」と四部作をなす一大叙事詩の幕開けも、決して派手派手しいものではない。 ハイペリオン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF) 作者…

村上春樹はこのままずっとノーベル文学賞候補で居続けて欲しい

今年もノーベル各賞の発表が行われ、日本人3人がノーベル物理学賞を受賞したことやマララさんのノーベル平和賞受賞が話題になった。 そして、今年もやはり日本では村上春樹氏のノーベル文学賞受賞なるか、が盛り上がっていた。2006年か2007年頃から毎年のよ…

信じることが怒りを生むのか-吉田修一「怒り」

「悪人」で犯罪に手を染めてしまった青年の苦悩を描いた吉田修一が、本書で描くのは、自分が愛した又は信じた相手が犯罪者かもしれないと知った時に、人はその愛情、信頼を保ち続けられるのか。そして、愛すること、信じることに裏切られたときの「怒り」を…

2012年のノーベル文学賞作家の作品ですよ-莫言「蛙鳴」

このレビューを書いている今、2014年のノーベル文学賞がフランスのパトリック・モディアノに決定した。今回も日本が期待する村上春樹のノーベル文学賞受賞は夢と消えたわけである。 その村上春樹が受賞を逸したノーベル文学賞を2012年に受賞したのが、現代中…

マキューアンの変態ぶりに悶絶-イアン・マキューアン「ベッドの中で」

イアン・マキューアンが変態なのは最近の作品(例えば「ソーラー」とか)を読めばわかる。1998年には「アムステルダム」でブッカー賞も受賞しているし、最終候補には計4回選ばれている。いわば、イギリス文學界ではけっこうな地位のある作家なのである。でも…

紹介されている作品のすべてがどストライク!-「少年少女昭和ミステリ美術館」

昭和に生まれ育った私にとって、学校図書室で出会った本の数々が今に至る読書遍歴のスタートラインであったと思う。そんな昭和世代の我々世代にとって懐かしい気持ちになる本が本書「少年少女ミステリ美術館 表紙で見るジュニア・ミステリの世界」である。 …

粛清により命を落とした作家の不条理な世界-ダニイル・ハルムス「ハルムスの世界」

旧ソ連で秘かに創作活動を行い、粛清により命を落とした不遇の作家ダニイル・ハルムス。ゴルバチョフのペレストロイカによりソ連が崩壊したことで、陽の目を見ることになった彼の作品とその解説を収録した作品集である。 ハルムスは、1905年に生まれた。当時…

実験的文学の目指したところ-ジョルジュ・ペレック「煙滅」

本書は1969年に書かれたフランスの小説である。著者は、本書を執筆するにあたってある制約を課した。それは、フランス語で最も頻繁に使用される文字“e”を一切使用しないということ。フランス語において“e”を使わないということは、英語でいえば定冠詞である“…