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【書評】ウィリアム・カムクワンバ/ブライアン・ミーラー「風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった」(文藝春秋)-アフリカでもっとも貧しいといわれる国に住む少年が起こした奇跡

アフリカでももっとも貧しい国のひとつに数えられる国マラウイ。そんな貧国で起きた奇跡をその当人が記したのが本書である。

風をつかまえた少年

風をつかまえた少年

 
風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった (文春文庫)

風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった (文春文庫)

 
風をつかまえたウィリアム

風をつかまえたウィリアム

  • 作者: ウィリアムカムクワンバ,ブライアンミーラー,エリザベスズーノン,William Kamkwamba,Bryan Mealer,Elizabeth Zunon,さくまゆみこ
  • 出版社/メーカー: さえら書房
  • 発売日: 2012/10
  • メディア: 大型本
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本書の主人公カムクワンバは、マラウイで生まれた。家族にとって唯一の男の子であったカムクワンバは、両親、特に父親の期待を受け学業に励む。父親は、息子のために懸命に働いて学費を工面しようとした。

だが、そこで彼らを悲劇が襲う。国全体を襲った大飢饉。乏しい食料を確保するだけで精一杯の一家にとって、学校に通わせるなどというのは夢のまた夢。カムクワンバ自身も食料を確保するために身を粉にして働く日々が続いた。ようやく作物が実り飢饉が去っても、一家の生活はすぐには改善しない。食料には困らなくなっても、それまでに無理をしてきたツケで貧しさは変わらなかった。

それでも、カムクワンバは学校へ通う。だが、学費を払い込めない生徒に対して、学校は退学を勧告する。こうして学校を去ることになったカムクワンバにとって唯一残された勉強の手段は図書室の本だけだった。その図書室でカムクワンバは物理学と出会い、そして風力発電を知る。

風の力で電気を起こすことができるという事実は、カムクワンバを興奮させた。マラウイでは、電気は海外資本の会社が提供するものであり、その料金は高額であるため庶民には無縁のものだった。それが、自らの力で生み出せるのである。カムクワンバは、早速風車作りを開始する。廃品を使って風車を作り、ダイナモをどうにか入手したカムクワンバは、ついに自家製の風力発電装置を作り上げる。そして、試運転の日。それまで彼を変わり者扱いした人々が、彼が作り上げた珍妙な代物を見学しに集まった。そんな観衆の目の前で風車は勢いよく風を孕み、回転したエネルギーは電気に姿を変えて、電球を灯したのだった。彼の作った風力発電は噂になり、やがてメディアが取材に訪れて、彼は一躍有名人となった。さまざまな人の尽力により彼は学校に復学し、さらに上の学校に進学、そして、アメリカの大学に留学することになる。

カムクワンバに知識の道を開いてくれたのは、NGO団体が開設した小さな図書室とそこにあった数々の本だった。少年は自らの知識欲を、本を読み理解することで吸収していった。本による知識だけで風力発電を作り上げ、昇圧器ををハンドメイドして電気の出力をアップさせることにも成功する。高負荷な電流が流れた際にそれを停止するヒューズすら自製してしまう。

カムクワンバ少年の学びたいという欲求はとても強い。それは、彼が置かれた境遇や環境にも影響されているはずだ。彼の生まれた国マラウイは、貧しい国が集まるアフリカの中でもトップクラスに貧しい国である。エイズ感染が国民の20%にも及ぶという。主な産業は農業だが、これは天候などに大きく左右されて安定した収入とはいえない。現実にカムクワンバ一家も絶望的な大飢饉を経験している。だからこそ、カムクワンバは風力発電やその他の知識を総動員して、少しでも改善を図りたいと考えた。ハングリー精神というのとは違うかもしれないが、カムクワンバ少年の学習欲はまさにハングリー精神であるといえるのではないだろうか。

アフリカ諸国で今本当に必要なのは、こうした数多くの学習意欲をもった少年少女たちに十分な教育を施せるだけの教育環境である。学校の建設、学習用品の確保、そして教師の育成。しかし、そうした環境の整備もそれを支えるインフラがなければキープできない。そういう意味では、日本を始め先進各国の適切な支援が望まれるのだと思う。