タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

江戸時代に世界一周!?-玉蟲左太夫「仙台藩士幕末世界一周 玉蟲左太夫外遊録」

江戸時代末期、ペリーの黒船来航によりそれまでの鎖国政策をやめて開国した幕府はアメリカとの間に日米和親条約、日米友好通商条約を締結することとなり、その調印のための使節団をアメリカに派遣することとなった。本書は、その使節団に従者として同行する…

暗鬱としたモノクロームの世界に悲劇だけが克明に描かれる-アンナ・ヤンソン「消えた少年」

昨今の北欧ミステリの勢いには眼を見張るものがあるなぁ、と思うのです。代表的なものとしては、スティーグ・ラーソンの「ミレニアム」シリーズがあげられます。ミステリ・マガジン2月号には、2015年の早川書房の出版予定作品として「ミレニアム4(仮)」…

十七文字に込められた凛くんの想いが読む者の胸をうつ-小林凛「ランドセル俳人の五・七・五」

「いじめられ行きたし行けぬ春の雨」表紙に書かれたこの十七文字の俳句にこめられた想いを私たちは正面から受け止め、真剣に考えなければなりません。 ランドセル俳人の五・七・五 いじめられ行きたし行けぬ春の雨--11歳、不登校の少年。生きる希望は俳句を…

将来の夢は世界征服!そんなことは夢のまた夢-岡田斗司夫「「世界征服」は可能か?」

私が子供の頃は、変身ヒーロー物の特撮ドラマ(実写だから、アニメじゃないよな)の全盛期で、ありとあらゆる変身ヒーローが登場した。歴代の仮面ライダー、レインボーマン、バロムワン、ゴレンジャー(これは変身ものと言うよりは戦隊もの)などなど。私も…

世界の美しい本屋さんに思わず見とれてしまいます-エクスナレッジ「世界の夢の本屋さんシリーズ」

エクスナレッジの「世界の夢の本屋さん」シリーズは、すべての本好きが愛してやまない書店という存在の迫力を伝える写真集だと思う。 世界の夢の本屋さん 作者: 清水玲奈,大原ケイ,エクスナレッジ 出版社/メーカー: エクスナレッジ 発売日: 2011/07/02 メデ…

命の重さという永遠の命題-葉真中顕「ロスト・ケア」

X県八賀市にある地方裁判所の法廷から物語は始める。40人以上を殺害した連続殺人犯〈彼〉に下される判決。主文を後回しにしたことで、それは極刑であることが明らかとなる。しかし、被告人である〈彼〉も、〈彼〉に母親を殺されたはずの被害者も、〈彼〉の…

見えを張ってもバレバレなんだよね-施川ユウキ「バーナード嬢曰く。」

本読みの生態としてあるあるなのかな、と思うのが、自分が読んでいない本を他の人が読んでいると、ちょっと悔しくなることだったりする。他に、読んでもいない本を読んだと見栄を張ってしまったり(その辺りは先日レビューしたピエール・バイヤール「読んで…

理想の政治とはなにかを考えてみよう!-原田マハ「総理の夫」

このレビューを書いている2014年11月半ば、世間は間近いとされる衆議院の解散総選挙で浮き足立っている。 総理の夫 作者: 原田マハ 出版社/メーカー: 実業之日本社 発売日: 2013/07/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る 総理の夫 作者: …

現代中国文学の傑作である-閻連科「愉楽」

以前、キャサリン・ダンの「異形の愛」をレビューした。身体にハンデキャップを有するフリークスを描いた傑作である。 愉楽 作者: 閻連科,谷川毅 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2014/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 閻…

見えないという制約から生まれる効果-下村敦史「闇に香る嘘」

ミステリ作家の登竜門として長い歴史を持つ江戸川乱歩賞。その第60回受賞作が、下村敦史「闇に香る嘘」である。 闇に香る嘘 作者: 下村敦史 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2014/08/06 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (4件) を見る 闇に香る嘘 作…

こんな傑作が絶版で入手できないなんて!-キャサリン・ダン「異形の愛」

まず、最初に言っておきたい。どこの出版社でもいい、本書を復刊して欲しい。そのくらいの傑作だ。 異形の愛 作者: キャサリンダン,Katherine Dunn,柳下毅一郎 出版社/メーカー: ペヨトル工房 発売日: 1996/07 メディア: 単行本 購入: 4人 クリック: 282回 …

【不在】が指し示す【実在】とは何か-青木淳悟「私のいない高校」

青木淳悟の小説「私のいない高校」は極めて実験的な小説である。ポイントは本書のタイトルだ。 私のいない高校 作者: 青木淳悟 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2011/06/14 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 47回 この商品を含むブログ (40件) を見る …

読んでなくても大丈夫!はったりをかまそう!-ピエール・バイヤール「読んでいない本について堂々と語る方法」

本は読まれてこその本である、とは誰の言葉であろうか。ま、そんなことを言った人なんていやしないのだけど、やっぱりせっかくの本はキチンと読みたい。でも、世の中には仕事柄古今東西の名作、珍作を大量に読む必要に駆られる人もいる。例えば文学を専門と…

東西冷戦時代の宇宙開発狂騒曲-ヴィクトル・ペレーヴィン「宇宙飛行士オモン・ラー」

現代ロシア作家の一人であるヴィクトル・ペレーヴィンによる旧ソビエトを舞台にしたSF中編。 宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー) 作者: ヴィクトルペレーヴィン,尾山慎二 出版社/メーカー: 群像社 発売日: 2010/06 メディア: 単行本 購入: 4人 ク…

鬼才を父に持つ才女-中島さなえ「いちにち8ミリの。」

鬼才中島らもが突然にこの世を去ったのは2004年7月だった。今年(2014年)は、彼の没後10年にあたる。 いちにち8ミリの。 双葉文庫 作者: 中島さなえ 出版社/メーカー: 双葉社 発売日: 2014/04/21 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る いちにち8…

この気持を届けよう。深夜放送の電波に乗せて-さだまさし「ラストレター」

それでは、本日のラストレターをご紹介しましょう。千葉県にお住まいのペンネーム・タカラ~ムさんからのお葉書です。 ラストレター 作者: さだまさし 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2014/09/05 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 寺ち…

原発問題、非正規雇用、ブラック企業。時代の閉塞感が苦しい-木村友祐「聖地Cs(セシウム)」

東日本大震災による福島第一原発事故で、原発から半径20キロ圏内は立ち入りが制限された。その後、少しずつ制限区域は少なくなっていき、原発よりも南側の地域では、自由に立ち入り可能な場所もある。その反面、まだ広い範囲で立ち入り制限されている場所も…

今年開業50周年。新幹線を舞台にしたパニック大作-映画「新幹線大爆破」

日本が世界に誇る夢の超特急・新幹線は、今年(2014年)に開業50周年を迎えた。そんな新幹線を舞台にした映画が1975年に公開された「新幹線大爆破」である。 新幹線大爆破 [DVD] 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D) 発売日: 2013/11/01 メディア: D…

バスヴィルの犬は本当に悪魔の犬なのか?-ピエール・バイヤール「シャーロック・ホームズの誤謬 「バスカヴィル家の犬」再考」

以前にアップしたアクロイドを殺したのはだれかで、エルキュール・ポワロの推理の誤りを分析してみせたピエール・バイヤールが、シャーロック・ホームズの名推理にも疑義を唱えたミステリ評論である。 シャーロック・ホームズの誤謬 (『バスカヴィル家の犬』…

アニメに対する情熱があり、作品は生まれていく-辻村深月「ハケンアニメ」

アニメは好きですか? 日本のアニメは、世界でも高く評価されていて、日本を代表する文化的コンテンツになっている。毎年開催されるアニメショーには海外からの参加者も多いし、10月に開催された東京国際映画祭でもアニメーションが相当にフィーチャーされて…

本を読む楽しさをもう一度考えてみたくなる-玉川重機「草子ブックガイド(1)」

長いこと読書を習慣にしてくると、いつの間にか機械的に本を読んで、数をこなしていくことに重きを置くような読み方をするようになってしまった感じがしてくる。いつの間にか、“読書を楽しむ”ということを忘れてしまったのではないか。 草子ブックガイド(1) …

駅に降り立てば~それですべてを~忘れられたらいいね~-エクスナレッジ「世界で一番美しい駅舎」

駅というのは物語に溢れた場所である。ある者は、都会での生活に期待を膨らませて都会の駅に降り立つ。ある者は、都会での生活に敗れ、疲れた身体と心を癒やすために故郷の駅に降り立つ。 世界で一番美しい駅舎 出版社/メーカー: エクスナレッジ 発売日: 201…

食を求めて街をゆく、これぞ野武士の美学-久住昌之「野武士のグルメ」

個人輸入業を営む井之頭五郎が、客先や取引先を訪問したあと、その街でうまいメシを求めさまよい、ひたすらに食べる。そんな中年男のひとり飯を描いた「孤独のグルメ」が、テレビドラマ化されてシーズン4まで続くシリーズになると誰が想像したであろうか。 …