タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2015-01-01から1年間の記事一覧

読み進めていく中で、私はこの不思議な感覚に翻弄され、そして魅せられていった-セサル・アイラ「わたしの物語〈創造するラテンアメリカ2〉」(松籟社)

ガルシア・マルケスやバルガス・リョサなど、南米の作家の小説は面白い。 「マジック・リアリズム」と称されるその世界観は、読み手を翻弄し、困惑させる。時間軸、空間軸が歪み、ストーリーは展開しつつ崩壊していく。 わたしの物語 (創造するラテンアメリ…

高校の吹奏楽部に所属するハルタとチカ。彼らが遭遇する日常の不思議-初野晴「惑星カロン」(角川書店)

初野晴「惑星カロン」は、高校の吹奏楽部に所属する上条春太と穂村千夏の幼なじみコンビが、吹奏楽コンクールの最高峰《全日本吹奏楽コンクール(会場の名前から「普門館」と呼ばれる)》の出場を目指す中、学校内な彼らの周囲で起きる日常の謎を解き明かす…

「あ、この人がこっちにも出てる!」 伊坂作品は人物相関を把握しながら読むと面白い!-伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」

伊坂幸太郎の作品は、作品同士がうまくつながっていて、ある作品に登場した人物が他の作品の脇役として登場してみたり、ある作品でのエピソードが別の作品で言及されていたりとか、じっくり読むことで楽しめる仕掛けが施されていて、それが読者を楽しませる…

すばらしい書き手は、最高の読み巧者でもあるのだということ-松田青子「読めよ、さらば憂いなし」

新聞や雑誌、ネット上に掲載されている書評を本を選ぶときの参考にしている。好きな作家さんがオススメする本とか、信頼する書評家が書評している本、最近だと書評サイトや書評ブログを読んで、レビュアーさんやブロガーさんのオススメ本を読んでみたくなっ…

母国語とは違う言葉で表現をするということ-ジュンパ・ラヒリ「べつの言葉で」

私は、日本で生まれて日本で育ってきた。《日本人》であることが自らのアイデンティティである。 日本人として育ってきた中で、日本語を母語としてきた私は、恥ずかしながら英語をはじめとする他国の言語を話すことができない。日本語で話し、日本語で考える…

なぜだろう、今の私はここに書かれていることに強く共感しています-梶井基次郎「檸檬」

ふと思い立って、梶井基次郎の「檸檬」を読んでみました。 檸檬 作者: 梶井基次郎 発売日: 2012/09/27 メディア: Kindle版 クリック: 1回 この商品を含むブログを見る 梶井基次郎の著作は、青空文庫などで無料で読むことができますので、ちょっと読んでみよ…

本書に収録されたメッセージに対して、私は返す言葉を見つけられない-ヤスミンコ・ハリロビッチ編著「ぼくたちは戦場で育った~サラエボ1992-1995」

今年(2015年)の世相を表す漢字は《安》に決まったというニュースがあった。 今年の漢字が《安》に決まったことを受けて、安倍首相が自分の名前の漢字が選ばれたことを嬉しそうに語り、今年自分が執念の末に強行採決で決定した安全保障法案の意義を誇らしげ…

《蛭子能収》と「論語」の親和性?-蛭子能収「蛭子の論語~自由に生きるためのヒント」

「論語」とは、中国・春秋時代(紀元前770年頃から紀元前403年頃)の思想家である孔子(紀元前552年-紀元前479年)が弟子たちと交わした言行を、孔子の死後に弟子たちの手によってまとめられた書物であり、儒教における「四書」のひとつである。 「論語」に…

子供から大人へ、成長の階段をあがるということ-川上未映子「あこがれ」

川上未映子「あこがれ」は、著者にとって4年振りとなる小説である。 あこがれ 作者: 川上未映子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/10/21 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る 物語は、麦彦という少年とヘガティーとあだ名された少女が…

《人形遣い》と呼ばれる猟奇殺人犯を追い詰める孤高の事件分析官-ライナー・レフラー「人形遣い~事件分析官アーベル&クリスト」

小説の中でしか起こらない(起こってほしくない)犯罪がある。例えば、猟奇的な殺人事件などは、現実に起きてほしくないタイプの犯罪の代表で、ミステリー小説の中であれば許される(いや、犯罪としては許されないよ、当たり前だけど)題材であろう。 人形遣…

時代というものに翻弄される人間がその心の奥底に飼っている優しい鬼-レアード・ハント「優しい鬼」

小説とは、読者の心に解釈を委ね、ひとりひとりの読者によって昇華される作品なのだと思っている。だからこそ、作品に描かれる場面に惹かれ、そこから読み取れる登場人物たちの心理や風景に思いを馳せて、小説を楽しむのである。 優しい鬼 作者: レアード・…

動物園で働く飼育員さんたちを動物と人とのつながりを担う《翻訳家》と捉えると彼らの仕事が一層輝いて見えてくる-片野ゆか「動物翻訳家」

子供の頃、学校の遠足とか休日の家族でのお出かけで動物園は定番のスポットだった。 私が子供の頃は、動物園は檻の中をウロウロする動物たちを見せるだけの展示施設というイメージしかなかった。それでも、犬や猫と違って普段見ることのできない動物を見るこ…

豊富な雑学を多彩な日本語フォントで構成した「雑学本」であり「活字見本帖」-ダイヤグラム・グループ「じょうずワニのつかまえ方《21世紀版》」

ある日、街を歩いていて偶然ワニを見つけたとしよう。 え? そんなことあるわけねーだろ、って? いやいや、人間長く生きていたらどんな事態に遭遇するか、予測することは難しいものだ。街中でワニを見つけるシチュエーションだって、絶対にないとは言い切れ…

飛行機事故で生き残った奇跡の子供を巡る謎。18年目に明かされる真実-ミシェル・ビュッシ「彼女のいない飛行機」

最近は、北欧ミステリ、ドイツミステリなど、英米以外のヨーロッパ諸国から発信されるミステリに魅力的な作品があって、注目されている。例えば、昨年(2014年)の翻訳ミステリでは、ピエール・ルメートル「その女、アレックス」があらゆるランキングを総ナ…

ショートショートの神様・星新一の父が大正七年に書いたSF小説-星一「三十年後」

以前「ボッコちゃん」のレビューの中で、「自分のお小遣いで初めて買った文庫本は、星新一の「マイ国家」だった」と書いた。星新一のショートショートは、小説を読むことに楽しみを見いだせるようになりたての中学生にはとても読みやすかった。 s-taka130922…

好きな本の解説だから、依頼がこなくても勝手に書いてしまえ!という発想-北上次郎「勝手に文庫解説」

文庫本を読むとき、本体よりも先に「文庫解説」から読むという人が少なからずいる。 私も、必ずではないけれど、文庫本を読むときに、最初に巻末の「文庫解説」を読むことがある。また、解説は後で読む場合でも、作品を途中まで読んできて、内容の理解が怪し…

なんだかアメリカらしい小説だなぁ、という感想です-ドルトン・フュアリー「極秘偵察」

元アメリカ陸軍特殊部隊デルタ・フォース指揮官という経歴をもつ著者による戦場アクション冒険小説。いや、もう、なんというか、その、実にアメリカらしい小説である。 極秘偵察 作者: ドルトンフュアリー 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2014/09/30 メ…

著者お得意の《日常の謎》系ミステリー。今度は出版社勤務の娘が持ち込む些細な謎を元国語教師の父がサラリと解き明かす-北村薫「中野のお父さん」

日常の中で起きる些細な不思議を、謎に見立てて鮮やかに解決する北村薫のお得意の《日常の謎》系ミステリー。今回の舞台は出版業界である。 中野のお父さん 作者: 北村薫 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2015/09/12 メディア: 単行本 この商品を含むブロ…

《グレイマン》と呼ばれる冷酷無比な殺し屋は少女との約束を守るために苦難の道をひた走る-マーク・グリーニー「暗殺者グレイマン」

冒険アクション小説には、あまり積極的には関わってこなかった。あまり暴力的なことは好きではないという理由もあるが、これまでに冒険アクション小説であまり面白い作品に巡りあってこなかったというのもある。どうも、波長があっていないのかもしれない。 …

まるで翻訳小説を読んでいるような作品。日本の若手作家がここまで第二次大戦時のヨーロッパ戦争を描けるのかという驚きと期待-深緑野分「戦場のコックたち」

本書は、著者名を伏せて読んだら、海外文学の翻訳書と思い込んでしまうかもしれない。本書に描かれる第二次世界大戦のヨーロッパ戦線における苛烈な戦場の描写は、アメリカかイギリス出身のベテラン作家の手によるものと言われても納得してしまうほどにリア…

《プリンス》という天才-西寺郷太「プリンス論」

多くのプリンスファンの皆様には、大変申し訳ないのだけれど、私が《プリンス》と聞いて思い出すのは、アーティスト《プリンス》本人のパフォーマンスではなく、とんねるずの石橋貴明が、確か「みなさんのおかげです」か何かで、「バットマン」のミュージッ…

いつだって、戦争の犠牲になるのは無垢な子供たちなのだ-スヴェトラーナ・アクレシエーヴィチ「ボタン穴から見た戦争~白ロシアの子供たちの証言」

日本人の私からすると、第二次世界大戦におけるソヴィエトというのは、終戦間際になって突然日本への宣戦を布告して満州国などに攻め込み、多数の日本人捕虜をシベリアに抑留して強制労働につかせた国であり、ポツダム宣言を受諾し無条件降伏した後も樺太や…

そして部屋に積ん読山が残り、財布の中身は軽くなった~2015神保町古本まつり&ブックフェスティバルの記録

今年もこの季節が来ましたよ! ということで、毎年秋の読書週間に合わせるように行われている「神田古本まつり」&「神保町ブックフェスティバル」に今年も勇躍参戦してまいりましたので、簡単にそのリポートをお送りします。 ■古本まつりは今年で56回目!「…

実際の現場を体験したからこそのリアルには、誰もかなわないのだということ-竜田一人「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」

2015年9月5日、福島第一原子力発電所から半径20キロ圏内の南に位置する福島県双葉郡楢葉町に出されていた避難指示が、正式に解除された。これにより、楢葉町の住民は4年半振りにそれぞれの自宅に帰ることを許された。 福島第一原子力発電所(いちえふ)が未…

脚本執筆に行き詰まった作家は、誰かの話を聞くことでひとつの映画を完成させた-ミランダ・ジュライ「あなたを選んでくれるもの」

ミランダ・ジュライは、映画監督であり、脚本家であり、女優であり、アーティストであり、作家である。最近では、スマホアプリを手掛けていて、「somebody」というちょっと風変わりなコミュニケーションアプリを手がけている。 wired.jp SOMEBODY - MIU MIU …

腹が減っては深く潜れぬ!モンスターで腹を満たせ!-九井諒子「ダンジョン飯(2)」

ダンジョンRPGの世界では、地下迷宮の奥深くに潜むお宝を目指して冒険者たちが危険に身を費やす。ダンジョンの奥深くまで冒険の足を伸ばせば、当然ながら食料の問題に行きつく。持ち運べる荷物の数には制限があり、冒険者たちは食料が不足するたびに、地上へ…

いろんな生き物持ってみよう!-松橋利光「その道のプロに聞く生きものの持ちかた」

ペットショップとかに行って、ケージでじゃれつく子犬や子猫、ハムスターとかウサギとかの小動物を見て、 「カワイイィ~~! 抱っこしたぁ~い!」 とか身悶えしているそこのあなた。生きものには、それぞれにあった持ちかた(抱き方)があるんだそうですよ…

ひとつひとつの作品が、どれも強く心に刺さる。これは、私の中で間違いなく今年のマイ・ベストにラインナップされる1冊となる-ケン・リュウ「紙の動物園」

たったひとつの言葉、たったひとつの文章、たったひとつの物語が、読んでいて深く胸に刺さる小説がある。 ケン・リュウ「紙の動物園」は、間違いなく読者に深く強い印象を残す小説だ。 紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 作者: ケン・リュウ,古沢嘉通,…

読んでないけど読んだつもりで語る騙れ!それがド嬢の読書道(?)-施川ユウキ「バーナード嬢曰く2」

本なんてまともに読んじゃいないけど、読んだふりだけしていたい。そんな《なんちゃって》読書家バーナード嬢こと町田さわ子が帰ってきた。 バーナード嬢曰く。 2 (IDコミックス REXコミックス) 作者: 施川ユウキ 出版社/メーカー: 一迅社 発売日: 2015/07/2…

2015年ノーベル文学賞作家が綴るチェルノブイリ原発事故で人生を翻弄された無辜の人々の証言−スベトラーナ・アレクシエービッチ「チェルノブイリの祈り~未来の物語」

今年(2015年)のノーベル文学賞は、ベラルーシのドキュメンタリー作家・スベトラーナ・アレクシエービッチに決まった。ジャーナリストとしてのノーベル文学賞受賞も、ベラルーシ人としての受賞もはじめてのことである。 不勉強なもので、スベトラーナ・アレ…