タカラ~ムの本棚

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「成瀬は信じた道をいく」宮島未奈/新潮社-成瀬あかり再び!

 

 

前作「成瀬は天下を取りにいく」で読者に強烈なインパクトを与えたあの成瀬あかりが帰ってきました!

本書には5つの短編が収録されています。

ときめきっ子タイム
成瀬慶彦の憂鬱
やめたいクレーマー
コンビーフはうまい
探さないでください

前作と変わらず、成瀬は彼女に関わる人たちにいつの間にか影響を与えていきます。本人には、まったくそんな自覚はありません。タイトル通り、成瀬は成瀬の信じた道をいくだけです。そんな成瀬と接することで人々は自分の弱さと向き合い、彼女の自然体な姿に共鳴して自身を見直していくのです。

ゼゼカラ(成瀬と幼なじみの島崎で結成された漫才コンビ)の活動を目の当たりにして、ゼゼカラ推しとなった小学生のみらいは、学校のときめきっ子タイム(総合学習)のテーマにゼゼカラを調べて発表することになります。みらいは、推しの活動を調べることに張り切りますが、はじめは協力的と思っていた同じ班の友人が陰でコソコソと悪口を言っているのを知ってショックを受けます。それでも、成瀬や島崎と出会えたことでふたりから勇気をもらいます。

スーパーに行くと些細なことにクレームを入れたくなってしまう言実。でも、彼女はそんなクレーマーな自分を嫌悪し、やめたいと思っています。そんな彼女に、ある日成瀬が声をかけます。成瀬は、細かいことでもクレームを入れてくれる言実に、「いつもお客様の声を寄せてくれる熱心な人物だから」とスーパーでたびたび起きる万引き犯の発見に協力してほしいと頼みます。言実は拒否しますが、偶然万引きの現場を目撃してしまい…。

祖母、母と続けてびわ湖大津観光大使に選ばれ自身もその任に選ばれると信じるかれん。成瀬とともに観光大使に選ばれた彼女は、求められる役割をそつなくこなしていく中で、成瀬の言動に翻弄されていきます。ですが、成瀬と一緒に活動をしていく中で、成瀬に影響され、次第に彼女自身のうちなる本当の自分を表に出すことの大切さに気づいていきます。

前作「成瀬は天下を取りにいく」でもそうだったように、本書でも成瀬はただ成瀬として自然体で存在しています。それが、成瀬の当たり前であり、それが成瀬の魅力です。自然体でいるということは、簡単なようで実際にはとても難しい。他人からどう見られているかとか、こんなことを言って相手はどう感じるだろうかとか、私たちは多かれ少なかれ他者からの見られ方が感じられ方を気にして、自分を繕っていると思います。自分では自然に振る舞っているつもりでも、自然に振る舞うことを意識してしまう。それが当たり前なのだろうと思います。

だからこそ、成瀬のような人物に出会ったとき、彼女の嘘偽りのない自然体な言動に困惑し、不安になり、でも最後には感化される。本書に収録されている5つの短編でも、成瀬と出会った人たちは、それぞれに彼女から影響を受け、自分の生き方を見つめ直し、自分の気持ちに正直に向き合うようになっていきます。

本書で成瀬は高校生、そして大学生(京都大学!)になります。滋賀を離れることなく、びわ湖大津を世界に発信するべく日々を過ごす成瀬。いつの日か、本当に彼女がびわ湖大津の存在とその魅力を世界に轟かせるかもしれません。成瀬の未来はまだまだこれからです。今後どれだけ彼女の世界が広がっていくのか楽しみでなりません。

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