タカラ~ムの本棚

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「パリ警視庁迷宮捜査班」ソフィー・エナフ/山本知子・川口明百美訳/早川書房-売れっ子作家、アルコール依存症、ギャンブル依存症にスピード狂、そして死神。パリ警視庁内の厄介者の寄せ集め特別班が迷宮入り事件の真実をあぶり出す

 

 

組織のはみ出し者や曲者たちで構成されたチームが、エリートたちの鼻を明かすドラマティックなストーリーは、エンターテインメントの世界ではわりと王道と言えるかもしれません。

ソフィー・エナフ「パリ警視庁迷宮捜査班」は、パリ警視庁内の曲者たちによって構成された特別班のメンバーが、押し付けられた迷宮事件から真実を探り出し、事件を解決する警察小説です。

パリ警視庁のアンヌ・カペスタン警視正は、発砲により犯人を射殺してしまったことが過剰防衛であるとして懲罰委員会から6ヶ月の停職処分を言い渡されていました。そんなカペスタンに、局長のビュロンからの呼び出しがかかります。覚悟を決めて局長室を訪れたカペスタンに、ピュロンは新たに編成される特別班のリーダーになるように命じます。特別班といえば聞こえはいいですが、その実態は、パリ警視庁内でクビにすることもできない厄介者を集めた寄せ集めの集団でした。カペスタンは、厄介者たちのリーダーとしての役割が押し付けられたのです。

特別班に集められた厄介者たちを紹介しましょう。

ジョゼ・トレズ警部補。コンビを組んだ相棒がことごとく怪我をしたり死亡したりすることから“死神”、“疫病神”と恐れられている。

ルイ=バティスト・ルブルトン警視。元はカペスタンの件も調査した監査官室に所属していたが、彼が同性愛者であったことで組織内での居場所を失う。

エヴァ・ロジエール警部。ミステリ作家、脚本家として才能を発揮し成功を収めるが、その内容が警察をネタにしたものだったため組織内では厄介者となる。

メルロ警部。調書の作成を担当する現場警察官。酒好きで有名で話しだしたらきりがなくなるほど。アルコール依存症である。

オルシーニ警部。元リヨン芸術学校でヴァイオリンを教えていた異色の経歴の持ち主。マスコミとのつながりや組織内の秘密をジャーナリストに流したがる性癖があることから上層部に煙たがられている。

エヴラール警部補。賭博対策部に所属していながらギャンブル依存症になり、カジノへの出入りを禁じられている。

ダクス警部補。サイバー犯罪専門の凄腕であったが、ボクサーでもあったためその影響でパンチドランカーとなってしまった。

ヴィッツ巡査部長。とにかく車が大好きでサイレンを鳴らして走るために警察という仕事を選んだようなところがある。ただし、その運転は極めて危険なスピード狂。ハンドルを握ると人が変わるタイプ。

カペスタンの下に集められたのは人気作家からアルコール依存症ギャンブル依存症、スピード狂、相棒がなぜか不幸に遭う死神といった曲者ばかり。この曲者たちを従えてリーダーとしてどう特別班を切り回していくかがカペスタンの任務となります。

特別班に与えられたのは、パリ警視庁内で未解決となっている迷宮入り事件の山です。カペスタンたちは、まずその山の中から捜査する事件を探し始めます。特別班が目をつけたのは、1993年に発生したヤン・ゲナンという男性が殺害された事件と2005年にマリー・ソーゼルという老婦人が自宅で押し込み強盗に殺害されたとされる事件でした。特別班のメンバーは、パリ警視庁からの協力はほとんど得られない(むしろ邪魔をされる)中、関係者への聞き込みや独自に切り開いた情報からそれぞれの事件の真相を探っていきます。そして、最後には、ふたつの事件を結びつける重要な手がかりと驚くべき真実をあぶり出すのです。

個性的なキャラクター、警察内部での対立構造、ドラマティックな展開など、「パリ警視庁迷宮捜査班」はこのまま映像化しても面白そうな作品です。読んでいて映像が頭に浮かんでくるような感覚がありました。実際にドラマ化はされていないようですが、本作はフランスで優れたミステリ小説に与えられる『アルセーヌ・ルパン賞』、テレビドラマ化に適した推理小説のための『ポラール・アン・セリー賞』を受賞していると訳者あとがきにありましたので、もしかするとフランスでは映像化されている可能性もあります。

けしてエリートではないはみ出し物の刑事たちが、それぞれの強みを活かしてエリートたちを出し抜く警察小説。かつての「太陽にほえろ!」や「西部警察」、「あぶない刑事」といった警察ドラマが好きだった人は楽しめる作品じゃないかと思います。