タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

動物園で働く飼育員さんたちを動物と人とのつながりを担う《翻訳家》と捉えると彼らの仕事が一層輝いて見えてくる-片野ゆか「動物翻訳家」

子供の頃、学校の遠足とか休日の家族でのお出かけで動物園は定番のスポットだった。

私が子供の頃は、動物園は檻の中をウロウロする動物たちを見せるだけの展示施設というイメージしかなかった。それでも、犬や猫と違って普段見ることのできない動物を見ることができるのは、けっこう楽しかった思い出がある。

動物翻訳家 心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー

動物翻訳家 心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー

 

そんな動物園も、最近では飼育動物の福祉向上という観点から、飼育環境を見直して、動物たちがストレスを感じないようにしていく取り組みが進められていて、動物園という場所のあり方が変化してきている。このような動物たちの飼育環境を見直して、動物たちに刺激を与える取り組みを「環境エンリッチメント」ということを、今回、この本で知ることができた。

本書「動物翻訳家」では、4つの動物園における環境エンリッチメントの取り組みが紹介されている。

・埼玉県こども動物自然公園の「ペンギン」
日立市かみね動物園の「チンパンジー」
秋吉台サファリランドの「アフリカハゲコウ」
京都市動物園の「キリン」

埼玉県こども動物自然公園では、ペンギンたちが野生に近い状態で自由に暮らす環境《ペンギンヒルズ》をつくった。《ペンギンヒルズ》では、人間の歩けるコースは決められていて、ロープで仕切られているが、ペンギンたちはエリア内を自由に歩き回ることができるようになっている。ペンギンたちを囲うのではなく、人間の行動を制限しているのである。だから、ペンギンたちの方から人間に近寄っていくなど自由なのだ。

秋吉台サファリランドでは、アフリカハゲコウがランド内でフリーフライトする環境で人気を集める。ところが、ある日、アフリカハゲコウの1羽がランドから逃げてしまう。ドンドンと高く高く飛び立ったアフリカハゲコウが、そのままランドの敷地を離れ、遠く遠く、最終的にはなんと和歌山県まで飛んでいってしまうのだ。

環境エンリッチメントを実現して、動物たちに適した飼育環境を実現するのは、大変な苦労を伴う。飼育員の苦労は、私たち客の立場からは計り知れない。本書では、動物たちのために奮闘する姿が描かれている。彼らは、限られた予算の中で、動物たちが快適に、その動物の“らしさ”を最大限に引き出せる環境を作るために様々な努力をしている。言葉では意思疎通が図れない動物の声を、彼らの日々の様子をつぶさに観察することで推測し、彼らのための最適な環境を実現する。その姿は、本書のタイトルにある「動物翻訳家」の姿なのだと思う。

多くの動物を愛する飼育員さんたちが、動物たちの心を翻訳し、彼らが快適に暮らせる環境をつくる。その環境が、動物園を魅力的な場所にして、来園する私たちお客さんを楽しませてくれる。飼育員さんの活躍に改めて感謝したい気持ちになった。