タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2015-01-01から1年間の記事一覧

タイトルのインパクトは大だけど、その中身は王道パターンの小説-住野よる「君の膵臓をたべたい」

難病ものというのは、泣かせる小説の定番であろう。ましてや、青春真っ盛りの若い男女が主人公で、そのヒロインが不治の病に冒されて余命幾ばくもない中で愛を育んでいくなんて設定は、もはや泣かせるために書かれているとしか思えない。 君の膵臓をたべたい…

読めば《蛭子能収》のイメージが変わる、かもしれない-蛭子能収「ひとりぼっちを笑うな」

「蛭子能収」について、世間ではどう評価されているのだろう。 私のイメージは、テレビによく出ていて、いつもヘラヘラしていて、ギャンブル好きでケチなおじさんくらいなものだ。 ひとりぼっちを笑うな (角川oneテーマ21) 作者: 蛭子能収 出版社/メーカー: …

アフリカの飢餓に苦しむ人々のために立ち上がったアメリカを代表するアーティストたち。だがそれは、呪いの序章だった!?-西寺郷太「ウィー・アー・ザ・ワールドの呪い」

"♪We are the world,we are the children~" USA for Africa - We are the World - YouTube 1980年代に中学生、高校生くらいの年代を過ごした方の多くは、洋楽にハマった世代ではないだろうか。FMラジオから流れるマイケル・ジャクソンやマドンナに熱狂し、…

原理原則にもとづいて考えることで見えてくる世の中のおかしなところを二人の論客がバッサリと斬る-勝谷誠彦✕田尾和俊「怒れるおっさん会議」

物事を原理原則から照らして理路整然と突き詰めていくことは、何かを考えるにあたって当たり前のことであるはずだ。しかし、原理原則に照らして明確な目的と目標(具体的な数値)を決めることやそれを広くオープンにすることは、どちらかというと敬遠されて…

足が動かねぇ? 物忘れがひでぇ? それがどうした、四の五の言ってると俺のマグナムが黙ってねぇぜ!−ダニエル・フリードマン「もう過去はいらない」

誰しも、「寄る年波には勝てない」はずである。身体はガタつき、歩くこともままならなくなり、物忘れもひどくなっていく。家族に先立たれることもあるだろうし、古くからの旧友たちも櫛の歯が欠けるようにひとりひとり減っていく。 もう過去はいらない (創元…

君は深夜の《飯テロ》に立ち向かえるか!?-久住昌之(原作)・谷口ジロー(絵)「孤独のグルメ2」

《飯テロ》なる言葉があります。主に(というかほぼ)ネット上で見かける言葉です。特に、深夜の時間帯になると発生し、各所でパニックを誘発します。 《飯テロ》とは、TwitterやFacebook等のSNSメディアやテレビ等の映像メディアにおいて、美味しそうな料理…

ジジイをナメると痛い目見るぜ!-ダニエル・フリードマン「もう年はとれない」

今年(2015年)87歳になる偉大なる先達たちは、1928年(昭和3年)にこの世に生を受けている。はるか遠い過去だけに、その時代のことなんてまったく想像もつかない。ちなみに、主な出来事としては、 張作霖爆殺事件 ミッキーマウス初登場のアニメ「蒸気船ウィ…

人間の暴力性を生々しく描くことで生み出される企みに満ちた世界観-アンソニー・バージェス「時計じかけのオレンジ」

アンソニー・バージェス「時計じかけのオレンジ」は、1962年にイギリスで発表された作品である。だが、小説としてよりは、1972年に公開されたスタンリー・キューブリック監督の映画の方が印象に深いかもしれない。 時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi…

本書が出版された2010年、まだ私たちは政治にも生き方にも無関心だった。2015年の私たちは、震災と原発事故と安保に対して自らの主張を掲げられるようになった-中森明夫「アナーキー・イン・ザ・JP」

2015年9月19日の未明に、政府与党が提出した安全保障関連法案(安保法案)が、自民公明および一部野党の賛成によって参議院で可決された。 アナーキー・イン・ザ・JP (新潮文庫) 作者: 中森明夫 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2013/08/28 メディア: 文庫 …

いつになっても忘れない。遠い子供の頃に体験した様々な思い出たち-リュドミラ・ウリツカヤ「子供時代」

今となっては遠い過去の話だが、時折ふと心に浮かぶ情景というものがある。それは、幼い子供の心に深く刻まれた思い出という宝物だ。 子供時代 (新潮クレスト・ブックス) 作者: リュドミラウリツカヤ,ウラジーミルリュバロフ,沼野恭子 出版社/メーカー: 新潮…

SFというフィールドで縦横無尽のエンタメ三昧!エリスンの実力を魅せつける短編集-ハーラン・エリスン「世界の中心で愛を叫んだけもの」

言わずと知れた“セカチュー”である。 熊五郎「ハイハイ、あの黄色っぽくて『ピカーッ!』って攻撃するヤツですね」ご隠居「それは『ピカチュウ』だよ、熊さん」 そうではなくて、“セカチュー”なのだ。 熊五郎「ってことは、あの…」ご隠居「ウンウン」熊五郎…

現場を見ずして論理的に推理を組み上げて真相にたどり着く。安楽椅子探偵の醍醐味-ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」

ミステリー小説における私立探偵像を確立したのが、コナン・ドイルが生み出したシャーロック・ホームズであることは間違いないことだと思う。 シャーロック・ホームズは、依頼人に対していきなり本人以外にはわからないはずの事実を突きつける“かまし”のテク…

なにもかも、すべてが新生姜の世界!《岩下の新生姜ミュージアム》に行ってきた

きっかけは、「本が好き!」サイトにアップされた、レビュアー・はるほんさんの山本幸久「ある日、アヒルバス」のレビューでした。 東京タワーのゆるキャラ「のっぽん君」に遭遇したはるほんさんの第一印象東京タワーに新生姜がいるをきっかけに、レビューの…

動物たちの生殺与奪の命運は、私たち人間が握っている。だからこそ、同じ生命を大切にする気持ちがなければ動物を飼う資格はないのだ-尾崎たまき「お家に、帰ろう~殺処分ゼロへの願い」

環境省のホームページに掲載されている統計データによれば、平成25年度に全国で殺処分された犬猫の頭数は、合計で12万8241頭(犬:2万8570頭、猫:9万9671頭)である。 統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」 [動物の愛護と適切な管理] 年間で…

外国からの巨大資本に翻弄され、犠牲を強いられる民衆の悲哀-インドラ・シンハ「アニマルズ・ピープル」

書評サイト「本が好き!」で、本書の題材にもなったインドのポーパール化学工場事故について書かれたドキュメンタリーのレビューを読んだ。 ※allblue300さんによる「ポーパール午前零時五分(上/下)」のレビュー www.honzuki.jp www.honzuki.jp レビューを…

とてもよくできた物語である。だが、どこかモヤモヤした印象が残っている-寺地はるな「ビオレタ」

読み終わって、しばし考えたくなる小説というのがある。その本が面白くないというわけではない。ただ、読み終えて、どこかモヤモヤした印象を残す作品というのがあるのだ。 ビオレタ (一般書) 作者: 寺地はるな 出版社/メーカー: ポプラ社 発売日: 2015/06/0…

団長は「うどんの人」? それだけじゃない面白エピソード満載の1冊。(今回うどんはちょっとだけww)-田尾和俊「超麺通団2~ゲリラうどん通ごっこ軍団始まりの書」

「恐るべきさぬきうどん」を出版し、さぬきうどんブームの盛り上げに一役買ったことをもって、田尾和俊氏は「うどんの人」と呼ばれるらしい。回転寿司を食べに行ったら、となりに座ったおばさんに、 「アンタ、うどん以外のもの食べるんな?」 と言われたこ…

小松左京の大スペクタクルSF巨編「日本沈没」に連なる海洋スペクタクルSF長編-上田早夕里「華竜の宮」

大規模な地殻変動によって日本列島が海の底に沈没する未曾有の災害パニックを描いたのは、小松左京「日本沈没」であった。それが、1973年のこと。それから37年の時を経た2010年に、小松左京賞で作家デビューした上田早夕里が発表したのが、本書「華竜の宮」…

ディストピア小説の代表的傑作。焚書による思想の弾圧が生み出す悪夢-レイ・ブラッドベリ「華氏451」

本書「華氏451度」はブラッドベリの代表作のひとつである。近未来社会を描いているためSFとして分類されているが、内容的には極めて社会的であり、オーウェルの「一九八四年」にも通じる管理社会の恐怖を描いた作品であると思う。 華氏451度〔新訳版〕 (…

寡作な作家が生み出した国産ハードボイルドの最高傑作-原りょう「私が殺した少女」

原りょう(【りょう】は、寮のうかんむりを外した字)は、実に寡黙な作家である。 1988年に「そして夜は甦る」で鮮烈なデビューを果たし、1989年には、第2作にあたる「私が殺した少女」で第102回直木賞を受賞して順風満帆な作家生活を歩みだした。しかし、そ…

本を読むことで学ぶこと。本を読むことで手に入れられること-荻原魚雷「書生の処世」

荻原魚雷「書生の処世」を読もうと思ったのは、2015年8月31日読売新聞朝刊の書評欄で紹介されているのを読んだからだった。 書生の処世 作者: 荻原魚雷 出版社/メーカー: 本の雑誌社 発売日: 2015/06/23 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブ…

《アンチ》に徹することでミステリーに対する興味を喚起するのかと思って読んでみたが、どうやら本気で嫌いらしい-小谷野敦「このミステリーがひどい!」

ミステリー小説が好きな人がこの本を読んだら、怒りだしちゃうんじゃないだろうか。 そんな心配をしたくなるほど、徹底的にミステリー小説を酷評しまくっているのが、小谷野敦「このミステリーがひどい!」である。もうタイトルからしてケンカ売ってる感じだ…

究極の《断捨離》がここにある-中崎タツヤ「もたない男」

《断捨離》したことありますか? もたない男 (新潮文庫) 作者: 中崎タツヤ 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/05/28 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (4件) を見る 今更、「《断捨離》ってなに?」みたいな方はいないだろうと決めつけてしまえるく…

大規模なシステム開発プロジェクトの裏でITエンジニアは命を削る。犯罪に走るヤツも出てくるだろうね-藤井太洋「ビッグデータ・コネクト」

IT業界で働いていると、とても尋常とは思えないような働き方をした経験のあるエンジニアの話を当たり前のように聞くことがある。月の労働時間が300時間を超えたとか、1週間以上家に帰っていないとか、毎日深夜タクシー帰宅を続けて1ヶ月のタクシー代が数十万…

讃岐うどんブームの火付け役麺通団団長の「うどんめぐり指南」という体裁のバカ話(笑)-田尾和俊「超麺通団~讃岐うどんめぐり指南の書」

麺類が好き。中でもうどんが好き、という話は以前にも書いたかと思うけど、ここでもう一度繰り返しておきたい。 「うどんが好きです!」 さて、世の中にはいろいろな「三大○○」というのがあると、「マツコ・有吉の怒り新党」でも言っているように、うどんに…

シュールとはこういう作品を指していうのだな-アルベルト・モラヴィア「薔薇とハナムグリ~シュルレアリスム・風刺短篇集」

「シュールだねぇ~」なんて言葉をよく聞く。私たちの耳に一番ポピュラーなのは、昔でいえばツービート、最近ならば爆笑問題あたりの、世間とか政治とかを皮肉ったブラックユーモア系の漫才とかコントに対する評価だろうか。 世間的には、単なる悪口であって…

人間を大きく成長させるのは、強力なライバルの存在なのかもしれない-澤田瞳子「若冲」

私には、絵心もなければ美術史にも疎いので、伊藤若冲なる絵師についての知識はまったくない。今年は、若冲の生誕三百年として、若冲と同い年の与謝蕪村と合わせた展覧会も開催されていたそうだが、それもレビューを書くためにネットを検索していて知った。 …

1944年ベルリンを舞台にユダヤ人の元刑事とナチス上級将校のコンビが挑む猟奇殺人事件の謎-ハラルト・ギルバース「ゲルマニア」

この本、読み終わってから少し寝かせてしまいましてね。特に理由はないのですが、他の本を読んでたり、8月に入って戦後70年で戦争関連の本を集中して読んでいたりしたもので。 ということで、改めてレビューしていきます。 ゲルマニア (集英社文庫) 作者: ハ…

“親になる”ことで、誰もが新しい人生の朝を迎えることができるのだと思う-辻村深月「朝が来る」

「あなたのお子さんがお友だちに怪我をさせてしまったみたいです」「おたくの○○ちゃん、ウチの子に怪我させちゃったみたいなんだよね」 学校やママ友からそう言われても、我が子が「自分はやってない」と主張したら、親として子供を信じるのが、まずは正しい…

極寒のシベリアに抑留された著者の父の姿と日本に帰ることなく彼の地で命を落とした若者たちの慟哭−おざわゆき「凍りの掌 シベリア抑留記」

戦争は、ありとあらゆるこの世の地獄を生み出す。 各地で完膚なきまでに叩きのめされ玉砕した日本軍。 戦闘ではなく、疲労と飢餓の中で次々と命を落とした兵士たち。 東京をはじめとする本土への無差別爆撃や広島、長崎への原爆投下によって失われた国民の命…