タカラ~ムの本棚

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実際の現場を体験したからこそのリアルには、誰もかなわないのだということ-竜田一人「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」

2015年9月5日、福島第一原子力発電所から半径20キロ圏内の南に位置する福島県双葉郡楢葉町に出されていた避難指示が、正式に解除された。これにより、楢葉町の住民は4年半振りにそれぞれの自宅に帰ることを許された。

福島第一原子力発電所(いちえふ)が未曾有の原発事故を起こしてから4年半以上が経過した。この間、事故の影響で汚染されたとされるエリアでは除染作業が進められ、楢葉町のように避難指示が解除されるところまで進んだところも出てきている。だが、それでも原発周辺地域の生活が完全に元に戻るには、まだまだ気が遠くなるような年月が必要とされるのも、福島が抱える現実である。

事故から4年半で、間違いなく《いちえふ》の状態は良い方向に進んでいると思う。まだ、汚染水問題などで苦戦が続いているが、少なくとも4年半前の事故直後の状況からは改善の方向に歩みを進めているはずだ。

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(2) (モーニング KC)

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(2) (モーニング KC)

 
いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(2)

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(2)

 
いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(3) (モーニング KC)

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(3) (モーニング KC)

 
いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(3)

いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(3)

 

竜田一人「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記」は、事故後の《いちえふ》で瓦礫の撤去や廃炉に向けた様々な作業に従事する作業員たちの実録マンガである。著者・竜田一人自身が、《いちえふ》の現場で作業員として働き、その経験をマンガ化している。

なお、著者名の“竜田一人”だが、当然ながらペンネームである。常磐線の「竜田駅」から名前を拝借している。読みは「たつたかずと」であるが、「たったひとり」とも読めるところに、《いちえふ》で働く作業員の置かれている立場を意味しているようにも思える。

「いちえふ」に描かれているのは、実際の現場で働いている作業員たちのリアルな姿である。真夏の現場で、防護服、マスク、手袋など放射性物質の影響を遮蔽するための装備を身につけ、汗だくになって働く作業員の姿。日々の被ばく線量をチェックし、定められた年間被曝限界を気にしながら作業に従事する作業員たち。彼らのそういう苦労があって、原発廃炉作業は着実に進められていく。

本書をどういう観点で扱うかは、原発に対するポリシーの違いによって変わってくると思う。私は純粋に、事故の現場で後処理のためにキツイ仕事に従事してくれている作業員の方々に対しての感謝の念しかない。でも、ある人は、東電の下請け、孫請けとして過酷な現場作業に従事する作業員の処遇などに関して、ブラック企業としてのレッテルを貼り付ける。また、ある人は、原発事故による放射性物質拡散の影響面を重視し、原発反対運動へと展開していく。

本書が世間に与えた様々な影響は、どれも著者には思いもよらないことだったと思う。それほどに、福島第一原子力発電所の事故とその後の廃炉に向けた作業は、世間から注目を集める事件だった。

「いちえふ」は、第3巻をもって一応の区切りとなった。しかし、マンガは区切りがついても、《いちえふ》の廃炉に向けた作業は、これからも続いていく。著者も、もしかしたら再び作業の現場に身を投じることがあるかもしれない。数年後あるい十数年後、数十年後、「いちえふ」のその後が描かれるときがあるかもしれない。そのときには、今よりももっと状態が改善され、福島の生活が少しでも以前の姿を取り戻していて欲しいと願う。