タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「パリ警視庁迷宮捜査班魅惑の南仏殺人ツアー」ソフィー・エナフ/山本知子・山田文訳/早川書房-シリーズ第2弾。パリで起きた元警視正殺人事件と未解決事件をつなぐ20年前の銀行強盗事件。特別班がたどり着いた真実とは

 

 

“死神”、“疫病神”と呼ばれる警部補、人気小説家・脚本家として活躍する警部、アルコール依存症の警部にスピード狂の巡査部長、ギャンブル依存症の警部補。パンチドランカーになった元ボクサーでパソコンオタクの警部。そんなパリ警視庁内の曲者たちの寄せ集め集団を率いるのは、過剰防衛で無防備な犯人を射殺してしまい6ヶ月の停職処分となったアンヌ・カペスタン警視正。彼女が率いる特別班の活躍を描くシリーズの第2弾となるのが、「パリ警視庁迷宮捜査班魅惑の南仏殺人ツアー」です。

前作「パリ警視庁迷宮捜査班」では、この曲者たちの寄せ集め集団である特別班が、それぞれの個性を発揮し、ふたつの未解決事件をつなぐ謎を解明し、パリ警視庁内を震撼させる結末を導き出すという成果をあげました。ですが、その成果は特別班に対する評価にはつながりませんでした。むしろ、警察内の仲間の秘密を暴いた奴らというレッテルを貼られ、裏切り者扱いされてしまう有様です。特別班を率いるカペスタンとしては、どうすれば特別班の存在を認めてもらえるかに頭を悩ませる日々でした。

本作では、パリで起きた殺人事件の捜査に、特別班にもお声がかかります。司法警察局長ピュロンからの呼び出しを受けて現場に赴いたカペスタンは、この事件の捜査に自分たち特別班の他、刑事部と捜査介入部(BRI)も関わっていることを知ります。そして、特別班がなぜ呼ばれたのかも。

事件の被害者は、セルジェ・リュフュス。元パリ司法警察警視正だった人物。そして、アンヌ・カペスタンの元夫ポール・リュフュスの父、すなわちカペスタンの元義父にあたる人物だったのです。

刑事部、BRI、特別班による三つ巴の捜査がこうして始まります。特別班のメンバーは、捜査記録から同じ手口、同じ謎めいたギミックを用いた未解決の殺人事件にたどり着きます。リュフュス殺人事件とこれらの未解決事件を結びつける因縁とは何か。そこには、1992年に起きた銀行強盗事件がありました。被害者は、銀行強盗事件になんらかの形で関わりがあったのです。それは、カペスタンにとっては衝撃的な真実でした。

さて、パリ警視庁内の厄介者集団である特別班ですが、本作から新メンバーがひとり登場します。“ダルタニアン”と呼ばれているアンリ・サン=ロウ警部です。彼がなぜ“ダルタニアン”と呼ばれているのか。彼は、自分が王の銃士としてこの仕事をしていると思いこんでいて、中世の騎士の精神で行動します。そのため精神疾患を患っていると診断され、精神科病棟に入院していたのです。その“ダルタニアン”が退院し、特別班に加わることになります。

さらに、特別班には“2匹”の補助員も在籍しています。ロジエールの愛犬ピロットと、メルロのペットのネズミ(ラタフィア)です。この2匹、単なる特別班のマスコット的存在にとどまらない存在感を示しています。本作の中で、パリで開催された〈パリ・サンジェルマン〉と〈チェルシー〉のサッカーの試合に駆けつけたフーリガンたちの暴動を特別班が制御しようと奮闘した際には、ピロットもラタフィアもフーリガンたちの尻に噛みついて戦うのです。

シリーズ第1作となる前作を読んだときも思いましたが、本シリーズに登場する特別班のメンバーたちの個性は実にバラエティに富んでいます。テレビドラマ化に適した推理小説のための『ポラール・アン・セリー賞』を受賞しているということから見ても、本シリーズが、テレビドラマや映画などのメディア化向きの作品だと評価されているのがわかります。そのうちに、Netflixとかで配信されるかもしれません(ちょっと期待しています)。

20年前の銀行強盗事件によって結び付けられた3件の殺人事件。その結末は、カペスタンにとって苦しいものになったと言えるかもしれません。彼女が事件の捜査を通じて知った真実、そして元夫であり被害者の息子であるポールが、父の死によって知ってしまった真実。その悲しくて切ない真実は、作品が全体的にユーモラスになっているので、そのギャップでより一層胸苦しく感じられるものでした。

フランスでは、シリーズ第1作が15万部を超える人気となり、シリーズ第2作となる本書、さらにシリーズ第3作まで発表されていることが、前作「パリ警視庁迷宮捜査班」の訳者あとがきで記されていました。ぜひシリーズ第3作も翻訳刊行してほしいです。特別班の次なる活躍を読める日が来るのを期待しています。