タカラ~ムの本棚

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動物たちの生殺与奪の命運は、私たち人間が握っている。だからこそ、同じ生命を大切にする気持ちがなければ動物を飼う資格はないのだ-尾崎たまき「お家に、帰ろう~殺処分ゼロへの願い」

環境省のホームページに掲載されている統計データによれば、平成25年度に全国で殺処分された犬猫の頭数は、合計で12万8241頭(犬:2万8570頭、猫:9万9671頭)である。

統計資料 「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」 [動物の愛護と適切な管理]

年間で約13万頭の犬猫が殺処分されているという数字を見ると、こんなに多くの命が人間の都合だけで奪われているのかと憤りを覚えるのだが、同じページに掲載されている殺処分数の推移を追ったグラフを見ると、毎年その数は減少してきているのだということがわかる。例えば、平成16年度における殺処分数は、犬猫合計で39万4799頭(犬:15万5870頭、猫:23万8929頭)であり、削減数は、26万6558頭(犬:12万7300頭、猫:13万9258頭)に及ぶ。

犬猫の殺処分数が大きく削減してきたのは、各自治体が運営する動物愛護センターや保健所が、殺処分ゼロを目指した取り組みを積極的に進めているからであり、そのきっかけとなったのが熊本市動物愛護センターにおける取り組みである。

お家に、帰ろう~殺処分ゼロの願い

お家に、帰ろう~殺処分ゼロの願い

 

尾崎たまき「お家に、帰ろう~殺処分ゼロへの願い」は、写真家である著者が熊本市動物愛護センターを取材して撮影した動物たちの写真と記録を綴ったドキュメンタリーである。

熊本市動物愛護センターの殺処分ゼロに対する取り組みについては、片野ゆか「ゼロ!~こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?」に詳しい(拙レビューはこちら)ので、そちらを読んでいただくのが良いと思う。

ゼロ!  こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?

ゼロ! こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?

 

本書には、著者が撮影した動物たちの写真が数多く掲載されている。

まず、表紙の写真に心を奪われる。薄暗いケージに入れられて寂しげにカメラのファインダーを見つめる犬。彼(彼女)はもしかすると、もうすぐ殺処分の日を迎えようとしているのかもしれない。その視線は、必死に何かを訴えかけてくるように思える。

本書中に掲載されている数々の写真の中では、なによりも殺処分の瞬間とその後処理を撮影した写真が、見る者の心を深く抉る。

一度に大量の動物を殺処分する場合、動物たちは炭酸ガスによって窒息死させられる。その設備が通称で《ドリームボックス》と呼ばれることを知っている方もいるのではないだろうか。

センターの職員たちによって、ドリームボックスへと追い込まれた動物たちは、炭酸ガスによって酸素を奪われ、断末魔の悲鳴をあげながら死んでいく。完全に死んだのを確認した後は、そのまま完全に骨になるまで焼却され、ゴミとして処分される。

著者は、ドリームボックス内で命を奪われていく動物たちの姿、焼却され骨となった姿を撮影する。それは、動物たちが受ける過酷な殺処分という運命の瞬間を、隠すことなく記録し、広く知ってもらうためだ。おそらく、苦渋の想いでシャッターを切ったに違いない。

殺処分という過酷な運命とは逆に、元の飼い主と再会できたり、新しい飼い主の元に引き取られたりする動物たちもいる。著者自身が飼っているミニチュアダックスフンドも、殺処分寸前のところを引き取った犬だ。

殺されるところを救いあげられ、新しい生活を送れるようになった犬を撮影した写真には、まるで笑っているような幸せそうな犬の顔が写っている。そして、新しく家族を迎え入れた飼い主たちにも嬉しそうな笑顔が広がっている。

熊本市の取り組みを発端として全国に広がり、殺処分数の減少という成果を生み出している殺処分ゼロ活動が、本書や「ゼロ!」などの著作物を通じて多くの人たちに知られること。知られることで、動物を飼うということで私たち人間が背負うべき責任の重さをみんなが感じられるようになること。人間の意識を変えるには、ある程度の時間が必要である。しかし、少しずつでも殺されていく命が減っていくように私たちは考えて行動していかなければならない。