荻原魚雷「書生の処世」を読もうと思ったのは、2015年8月31日読売新聞朝刊の書評欄で紹介されているのを読んだからだった。
そもそも、荻原魚雷というライターのことを、私はよく知らない。毎月定期購読している「本の雑誌」に連載しているのは知っているし、本書がその連載をまとめたものであることも知っている。しかし、荻原魚雷というライターがどういう人物なのかはわからない。
だけど、わからないがゆえに荻原魚雷の書く文章は面白い。
荻原魚雷の1日は、普通の勤め人からすれば怠惰だ。安アパートに暮らし、1日中古本屋をめぐり、そして本を読む。主な活動はそれだけ。それが、荻原魚雷のコラムやエッセイに描かれている彼の日常。もちろん、そんな生活だけで暮らしが成り立つはずはないので、ライターとしての仕事もこなしている。
ライター歴はけっこう長いようである。でも、ライター稼業で食べていけるようになったのは最近のようだ。ただ、あまり稼ぐことには興味がないというか、執着しないらしい。とにかく、本を買い、本を読み、そして、ときどき文章を書き、それで生活できていればそれでよい。
本書は、「本の雑誌」に連載されていた「活字に溺れる者」を書籍化したものだ。1冊の本を題材に見開き4ページのエッセイにまとめている。書評のようでもあるし、本に触発された著者自身のエピソードを綴ったエッセイでもある。
読書が趣味だというと、「なにが面白いの?」と問われることがある。世の中には、本を読むことが好きな人と嫌いな人がいる。嫌いな人からすれば、本を読むという行為は、あまり生産的な活動には見えないらしい。
だが、本を読んでいると間違いなく本を通じて学ぶこと、本を通じて手に入れられることがある。それは、人生を生きる上ではまったく役に立たない無駄な知識かもしれない。だけど、無駄を受け入れる余裕を与えてくれるのも、読書という体験の結果なのだ。
荻原魚雷の日々は、かなりの割合で非生産的である。だけど、その非生産的な日常を繰り返す中で、学びがあり、気付きが生まれる。その結果として、何かが生み出されているのだとしたら、それがいかなる結果であっても、最高の成果といえるのではないだろうか。
毎日、時間や仕事に追われて心に余裕がなくなっているならば、荻原魚雷的なスローライフを目指してみてもいいかもしれない。結果はともかくとして。
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