タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

2015-01-01から1年間の記事一覧

たった一発の原爆が残した永遠に続く悲しみ-こうの史代「夕凪の街 桜の国」

8月6日広島。8月9日長崎。今年もそれぞれの場所で、平和のための祈りが捧げられた。 今年(2015年)、広島と長崎の平和祈念式典で奉納された原爆死没者名簿には、それぞれ以下の人数の死没者氏名が記載されている。 広島:29万7684名長崎:16万8767名 昭和20年…

おなご先生と12人の無垢な子供たちの瞳。戦争はのどかな海辺の村にも暗い影を落とした-壺井栄「二十四の瞳」

壺井栄は、1900年に小豆島で生まれた。その代表作である「二十四の瞳」の舞台も、著者の生まれ故郷である小豆島を想像させる穏やかな「瀬戸内海べりの一寒村」である。前任のおなご先生に代わって、新しいおなご先生が、岬の分教場に赴任してくる。おなご先…

熾烈を極めた沖縄戦。その中で懸命に生き延びようとしたひめゆりたち。2度と繰り返してはいけない戦争の記録−小林照幸「21世紀のひめゆり」

沖縄県本島の南の端、糸満市に「ひめゆり平和祈念資料館」がある。 今からもう13年も前になるが、2002年11月末から12月の初旬にかけて、仕事の関係で沖縄を訪問した。1週間ほどの滞在中のほとんどは仕事に忙殺されていたが、1日だけフリーの日があったので。…

高校野球100年の歴史には刻まれていない幻の夏-早坂隆「昭和十七年の夏 幻の甲子園 戦時下の球児たち」

今日2015年8月6日に、第97回全国高等学校野球選手権大会(いわゆる夏の甲子園)が開会した。 今年は、1915年に第1回大会が開催されてから100周年という節目の年になる。100周年記念として、メディアも大会前からずいぶんと盛り上がりをみせている。 だが、こ…

「ミサイルは弾薬」というならば、この愚劣な人間ミサイルも「弾薬」だというのか?-小林照幸「父は、特攻を命じた兵士だった 人間爆弾「桜花」とともに」

戦後70年ともなると戦争の記憶は確実に風化していく。当時子供で空襲を経験したり、学童疎開を経験した世代はまだギリギリ70代という方もおられるので、元気で存命の方も多いが、実際に従軍した経験を有する人はほとんどが80代〜90代であり、もうすでにその…

もうすぐ8月6日がきます。今年も広島の空は暑く晴れ渡るでしょうか?-松谷みよ子「ふたりのイーダ」

今年(2015年)2月に児童文学作家の松谷みよ子さんが89歳で亡くなりました。誰もがその作品を子供の頃に読んでいると思います。もしかしたら、大人になって自分の子供に読み聞かせたりもしているかもしれません。 ふたりのイーダ (講談社青い鳥文庫 6-6) 作…

日航ジャンボ機墜落事故から30年。妻を、子供を、両親を亡くした夫や息子たちの記録-門田隆将「風にそよぐ墓標~父と息子の日航機墜落事故」

8月は鎮魂の季節である。ヒロシマ、ナガサキ、そして終戦の日へと続く戦争の記憶とその犠牲となった人々へと鎮魂がある。そして、もうひとつ忘れてはいけない大きな事故がある。日航ジャンボ機墜落事故だ。 風にそよぐ墓標?父と息子の日航機墜落事故? 作者: …

激戦の硫黄島で最後まで抵抗した兵士たち。彼らの尊い犠牲に上に私たちの今があるのだと思う-梯久美子「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官栗林忠道」

今年(2015年)は、太平洋戦争が終結してから70年の節目の年である。もうすぐ訪れる8月には、70回目の広島・長崎の原爆忌があり、70回目の終戦記念日がある。 戦後70年が経ったということは、その分戦争を直接的に経験した世代が確実に少なくなっているとい…

認知症を患った夫と彼を支える妻、そして子供、孫たちの十年-中島京子「長いお別れ」

本書の主人公は、東昇平さんとその妻曜子さんです。 長いお別れ 作者: 中島京子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2015/05/27 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 長いお別れ (文春e-book) 作者: 中島京子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発…

作家のイマジネーションが生み出す戦争のリアルと痛烈な批判-芥川龍之介、小松左京、星新一他「コレクション戦争と文学5 イマジネーションの戦争【幻】」

“戦争”とは、もちろん現実であり、戦場では誰かの血が流れ、無辜の市民が犠牲になる。 だが、フィクションの世界においては、少し事情が異なる。フィクションの世界では、現実には起こりえない戦争がたびたび発生する。宇宙人との戦争、未来世界の戦争、実体…

女コロンボ・福家警部補が犯人を追い詰める。彼女に目をつけられたらどんな犯人も逃げ切れない-大倉崇裕「福家警部補の追求」

刑事コロンボ、古畑任三郎。共通しているのは、犯人に対する執着心だろうか。倒叙式で、最初に犯行場面が描かれる。読者にはあらかじめ犯人が誰かわかっていて、その犯人を刑事がいかにして追い詰めていくかを見守る。 福家警部補の追及 (創元クライム・クラ…

目に見えている事だけに囚われていると本当の事が見えてこない。最後に明かされる真実に驚愕する-フェルディナント・フォン・シーラッハ「禁忌」

まず最初に言っておきたい。今度のシーラッハはスゴイよ。いや、今度“も”スゴイ、だな。 禁忌 作者: フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2015/01/10 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (16件) を見る …

語り部は“神”なのか?モヤッとした読後感が逆に癖になる不思議な感覚-舞城王太郎「淵の王」

舞城王太郎の作品を正しく説明し、評価することは、かなり難しいといつも感じる。ストーリーを説明するのも難しいし、作品のコンセプトやテーマは何かとと問われても、ズバッと本質をつく答えを出すのが難しい。 淵の王 作者: 舞城王太郎 出版社/メーカー: …

自ら知ろうとすることで本当の事がわかってくるのではないだろうか-早野龍五・糸井重里「知ろうとすること」

2011年3月11日に東日本大震災が発生し、福島第一原発事故が発生した。日本で起きた未曾有の原発事故では、情報が錯綜し、隠蔽され、誇張されることで、多くの人々を混乱させ、その混乱は約4年半が経過した今でも完全に終息し、払拭されたとは言い切れない。 …

あの事件が世の中に与えた衝撃は、作家をして最高の家族の物語を生み出した-窪美澄「さよなら、ニルヴァーナ」

先日、神戸連続児童殺傷事件の犯人・元少年Aが発表した「絶歌」についてのレビューをアップした。 これは懺悔なのか。それとも、ただの自己顕示なのか-元少年A「絶歌」 - ガタガタ書評ブログs-taka130922.hatenablog.com あの事件が与えた影響はあまりに大…

ショートショートの神様が紡ぎだす50の世界。どこを読んでも、いつ読んでも面白い不変の名作-星新一「ボッコちゃん」

自分のお小遣いで初めて買った文庫本は、星新一の「マイ国家」(新潮文庫)だった。星新一のショートショートは、当然だけどひとつひとつが短くて読みやすく、それでいてメチャクチャに面白かった。それから、星新一の作品にハマり、お小遣いの許す範囲で毎…

ショートショートの神様が紡ぎだす50の世界。どこを読んでも、いつ読んでも面白い不変の名作-星新一「ボッコちゃん」

自分のお小遣いで初めて買った文庫本は、星新一の「マイ国家」(新潮文庫)だった。星新一のショートショートは、当然だけどひとつひとつが短くて読みやすく、それでいてメチャクチャに面白かった。それから、星新一の作品にハマり、お小遣いの許す範囲で毎…

伊坂幸太郎の最高傑作?いえいえ、これは通過点にすぎないのです-伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」は、“ゴールデンスランバー=黄金の眠り”というその叙情的なタイトルとは裏腹に、ノンストップのジェットコースターアクションである。 ゴールデンスランバー (新潮文庫) 作者: 伊坂幸太郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売…

嫌がらせ=愛、でもちょっと食傷気味-ttkk(kaori)「今日も嫌がらせ弁当 反抗期ムスメに向けたキャラ弁ママの逆襲」

“キャラ弁”なるものが登場してどのくらいになるだろう。マンガやアニメのキャラクターを精巧に再現した、もはや芸術的とも思えるようなキャラ弁もあれば、「あの~、それは一体なんですか?」と問い質したくなるようなキャラ弁もある。 たいていの場合、キャ…

第153回芥川賞を予想してみよう!

いよいよ今週の木曜7月16日に、第153回芥川賞、直木賞の選考会が行われますね。巷の話題は、やはりピースの又吉直樹が「火花」で芥川賞を受賞できるのか? ってことなんでしょうね。 第153回 芥川賞・直木賞発表&受賞者記者会見 生放送live.nicovideo.jp さ…

引き裂かれた中華の歴史に翻弄された人々の物語-東山彰良「流」

台湾と中国の間には、根深い国家間の対立が存在する。いや、“国家間”という言い振りは間違っているのだろう。なぜなら、中国は台湾を独立国家として認めてはいないし、国際社会においても台湾を独立した主権国家として正式に認めている国は22ヶ国しかなく、…

やはりこれは映画を観ておかないといけないなぁ~-園子温「ラブ&ピース」

本当なら映画をキチンと観てからとレビューすべきなのだろうけれど、なかなか映画館に行く時間の取れないまま締め切りを迎えそうなので、涙を飲んで書籍のみでレビューします。 何の話かっていうと、園子温「ラブ&ピース」の話です。 ラブ&ピース 作者: 園…

「できる」ことと「できない」ことを理解すれば楽になれるだろうか?-保坂健「平常心」

ひとりが好きである。 ひとりだと肩の力が抜けて、落ち着いた気分でのんびりと過ごすことができる。ひとりの時間は、私にとっては何より代えがたい貴重な時間なのである。 もともと、他人と交わるのがあまり得意な方ではなくて、仕事でもプライベートでも誰…

デビュー作らしい生硬さがある一方で、笑いの世界の描写は秀逸だと思った-又吉直樹「火花」

2015年上半期の文学界で、おそらく一番話題を集めているのが、漫才コンビ・ピースの又吉直樹氏が書いた初の小説「火花」であることは間違いない。同作が掲載された文芸誌「文学界2月号」は、1933年の創刊以来初めての増刷となるほどの売上を記録し、5月に発…

友達はいますか? 友達が欲しいですか? 友達ってなんですか? 本当に友達が必要ですか?-柚木麻子「ナイルパーチの女子会」

つくづくと女性とは怖いものであるな、と思うのである。それは、柚木麻子が描き出す、女性の痛々しいところ、弱々しいところが、読んでいて実に深く胸を抉り出し、なおかつその抉った傷口に塩をすりこむように、容赦なく迫ってくるからなんだろうと思うので…

そばにいるから気づかない。その存在が消えた後に遺された者が感じる惜別-西川美和「永い言い訳」

いつも、当たり前のようにそこにあるもの。 近すぎるから、かえって目に見えないもの。 失ってはじめて気づくもの。 永い言い訳 作者: 西川美和 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2015/02/25 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (10件) を見る 永い言…

【グルメ】東京で食べられるさぬきうどんでは、いちばん美味しい(個人の感想です)-根津「根の津」

先日、東京の「谷中」、「千駄木」、「根津」をブラブラする、いわゆる「谷根千散歩」に行ってきた。 谷根千を歩くにあたっては、「ランチは絶対ここ!」と決めていた店がある。それが、根津にあるさぬきうどんの店「根の津」だ。 何を隠そう(別に隠してい…

運命の日。そんな日でも、人々は変わらぬ生活を営んでいた-太宰治「十二月八日」

山田洋次監督で映画化もされた中島京子の「小さいおうち」で驚いたのは、太平洋戦争真っ只中であるはずの東京が、必ずしも戦時下の緊迫した状況にあり続けた訳ではなく、むしろ、本格的な東京への空襲が始まるまでは、誰もが普通に暮らし続けていたのだ、と…

これは懺悔なのか。それとも、ただの自己顕示なのか-元少年A「絶歌」

もしかすると、本書について語ることは、自らの悪性を告白するに等しいことなのかもしれない。もしかすると、多くの誰かを、知らず知らずに傷つけることになるのかもしれない。 絶歌 作者: 元少年A 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2015/06/11 メディア:…

【映画評】天才同士の火花を散らす強烈なセッションに震える-デミアン・チャゼル監督「セッション」

冒頭、カメラは薄暗い廊下をゆっくりと進んでいく。遠くから激しいビートを刻むドラムの音が聴こえてくる。シャッファー音楽学院の練習室で、若いジャズドラマーのアンドリュー・ネイマン(マイルズ・テラー)が一心不乱にドラムの練習をしているのだ。そこ…