タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る」ロバート・クーヴァー/斎藤兆史、上岡伸雄訳/作品社-晴れて人間となり学問を極めたピノッキオ。老境を迎えて故郷に戻った彼が見舞われる散々なトラブル

 

 

勇気を持ち正直で優しい子になって人形から人間になったピノッキオは、その後どのような人生を歩んだのか。ピノッキオのその後を描いた感動の続編!

本書は、そんな作品ではない。著者はロバート・クーヴァー。となれば一筋縄ではいかない曲者な作品であろうことは容易に想像できる。なにせあの「ユニヴァーサル野球協会」(白水uブックス)ロバート・クーヴァーなのだ。

 

 

 

「老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る」は、人間になったピノッキオが成長して老人となり、生まれ故郷のヴェネツィアに帰ってくるところからはじまる。ピノッキオは人間になったあと、学問の世界で優秀な業績を成し遂げ、ノーベル賞を二度も受賞した。アメリカの大学で教授として学生たちを指導してきた。そのピノッキオが、老境を迎え自らの故郷に戻り、自分の過去を見つめ直して自伝の最終章を仕上げるために、故郷に戻ってきたのである。

だが、到着するなりピノッキオは次々と災難に見舞われる。それはもう目を覆いたくなるほどの不幸の連続だ。本来の目的地とは遠く離れた場所に降ろされ、泊まる場所も見つけられず、自伝の原稿が入った荷物も失ってしまう。100歳を超える老人ピノッキオにとっては耐え難い屈辱の出来事だ。

さまざまなトラブルに見舞われる中で、ピノッキオはかつての仲間たちとの再会も果たしていく。もちろん仲間たちだけではなく、まだ人間になる前の人形時代にピノッキオを騙してお金を盗ったり木から吊るして命を奪おうとしたキツネとネコにもだ。

ポストモダン小説作家として知られるロバート・クーヴァーの作品だけに、コッローディ「ピノッキオの冒険」のパロディであると同時にさまざまな社会風刺とも思われる作品になっている。エンターテインメント性もありながら、それ以上に社会に対する批評的なニュアンスもたっぷりの散りばめられていて、そこが面白さであるし、読みにくさにもなっている。

「訳者あとがき」にあるように、本書はコッローディの「ピノッキオの冒険」を元ネタにしたパロディ小説であるが、作品内にはディズニー映画「ピノキオ」に言及している場面もある。本書の中では、ピノッキオがディズニーに協力し自らを題材にした映画を制作したという話になっていて、ディズニー映画まで取り込んでネタにしてしまうところは面白い。

腹を抱えて笑うような作品ではないが、全編にわたってニヤニヤやクスクスがとまらない、ジワジワくるタイプの作品になっている。けっしてスイスイ読めるような作品ではないし、アメリカの社会情勢や政治情勢を知らないと何が面白いのかよく理解できない場面もある。なにより、「ピノッキオの冒険」を読んでいないと面白さは半減してしまうだろう。読んでいなくても構わないのだが、読んでいた方が楽しめるのは間違いない。

生まれ故郷のヴェネツィアでさまざまなトラブルに老ピノッキオが、最後にどのような運命をたどるのか。鈍器とまではいかないがズッシリと分厚くて密度の濃い本書を読みながら、その行く末を見守ってほしい。

ちなみに、けっこう下品なシモネタ(ピノッキオの鼻にかかわるものなど)も満載なのでそれはそれで楽しんでください。