前作「風の影」(木村裕美訳、集英社文庫)に続く『忘れられた本の墓場』シリーズの第2弾となる作品。本作でも、「風の影」と同様に『忘れられた本の墓場』や『センペーレと息子書店』といった印象深かった場所が登場する。
本書の主人公は、ダビッド・マルティンという若手の作家。物語は彼の一人称で語られる。
新聞社『産業の声』の雑用係として働く17歳のダビッド・マルティン。彼は、『産業の声』の人気ライターであり、筆頭株主の息子であるペドロ・ビダルの推薦で、穴埋めで頼まれて書いた作品が認められ雑用係として働きながら物書きとしての一歩を踏み出す。やがて、彼が書いた『バルセロナのミステリー』が評判となり、同時に『産業の声』社内で嫉妬を買うようになったこともあって、独立して作家一本で生活することになる。
『バルセロナのミステリー』が認められたダビッドは、イグナティウス・B・サムスンのペンネームで連載をもつことが決まる。以前から目をつけていた“塔の館”と呼ばれる不吉で仰々しい雰囲気の館に暮らすようになり、休みもとらずひたすらに作品を書き続ける生活が始まる。だが、順風満帆と思われた彼の身に不幸が襲いかかる。絶望に打ちひしがれるダビッドの前に現れたのはアンドレアス・コレッリと名乗る謎の男だった。コレッリは、自分のために1年間執筆をしてくれれば多額の報酬となんでも望むものを与えるとダビッドに告げる。出版社との契約に縛られていることを理由にオファーを断ろうとしたダビッドだが、その矢先に出版社が火事となり共同経営者のひとりが焼死、もうひとりも重傷を負う。警察は出版社とトラブルになっていたダビッドに疑惑の目を向ける。
ダビッドの周りで起こる不可解な事件。“塔の館”の残された謎。アンドレアス・コレッリという男の謎めいた存在。作家として順調に執筆活動を続けていくダビッドは、次第に不穏な渦の中に巻き込まれていく。
そんな不穏な物語の中でダビッドが心を許せる場所が、『センペーレと息子書店』だ。ダビッドは幼い頃から『センペーレと息子書店』の店主に世話になっていて、作家になってからもそれは続いていた。作家志望のイサベッラをアシスタントに紹介してくれたのも店主だった。
「風の影」が、ひとりの作家と謎と彼の作品に魅せられた少年の成長を描く作品だったのに対して、「天使のゲーム」はサスペンスなタッチとホラー、オカルト的な要素を融合させたエンターテインメント小説になっている。ダビッドは、作家として独立したときにその雰囲気に惹きつけられるようにが“塔の館”という古びた館に移り住む。そこに潜む不可解な過去と、アンドレアス・コレッリという謎めいた編集人の醸し出す寒々しいオーラは、読んでいてゾワゾワと背筋が寒くなってくる。
本書は、『忘れられた本の墓場』シリーズでは、「風の影」に続く第2部にあたる。シリーズは全4部作となっていて、第3部となる「天国の囚人」は翻訳されているが、第4部の「The Labyrinth of the Spirits」は未訳となっている。「天国の囚人」もまだ読めていない中で言うのもなんですが、第4部にして完結編となる作品も翻訳が出ることを期待しています。