タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「ビア・マーグス-ビールに魅せられた修道士」ギュンター・テメス/森本智子、遠山明子訳/サウザンブックス-モルト工場で発見された古い手記に記されていたのは、ビールに魅せられた男の人生の物語だった

 

 

ビールといえばドイツ、ドイツといえばビールとは、日本人の多くが認識していると思います。

あとがきで訳者も書いているように、私たちの頭の中ではドイツとビールは切っても切り離せない関係がしっかりとできあがっている。

それゆえ、「ビア・マーグス」=「ビールの魔術師」と題された本書は、ビール醸造の歴史を背景に描かれるストーリーに期待を感じずにはいられない作品だ。サウザンブックスのクラウドファンディング支援のリターンとして2021年7月の一般販売に先駆けて読む機会を得た。

物語は冒頭、本書の主人公であり、ビール醸造に魅せられ修道士となり、のちに『ビア・マーグス(ビールの魔術師)』と呼ばれるまでになったニクラスが、彼を執拗に追うベルナルトと対峙する場面から始まる。ベルナルトは、2つのビールジョッキを差し出す。ひとつは新鮮なビール、もうひとつは毒草の入った悪魔のビール。ニクラスはそのひとつを受け取り一息に飲み干すとバッタリと倒れる。

「ビア・マーグス-ビールに魅せられた修道士」は、ビール醸造にその人生を捧げたニクラス・ハーンフルトの書き残した手記をもとに描かれる物語だ。ひとりの男が、ビール造りの魅力に取り憑かれ、ビール醸造家になるために修道院に入り、その技法を極め、ついには『ビア・マーグス(ビールの魔術師)』と呼ばれるまでになる。そのプロセスの中で、ビール造りのためのさまざまな創意工夫があり、発明があり、失敗や挫折もある。そのひとつひとつを乗り越えていくことで、ニクラスはビール醸造家として成長し、ヨーロッパ中にその名を知らしめていく。単なる醸造家としてだけではなく、商売人としても才能を発揮し、ニクラスの作るビールは評判を博すようになる。

ビール醸造家としてニクラスが成長していく物語が本書の主軸であるならば、そこに絡んでくるのがベルナルトの存在だ。ベルナルトとニクラスは、同じ修道院の親友だった。だが、やがてベルナルトはニクラスを異端者として追い詰めるようになり、ニクラスの命を執拗につけ狙うようになる。そして、プロローグに描かれる直接対峙の場面へとつながっていく。

ニクラスがビール醸造家として成長していくストーリーとしての面白さもさることながら、ビール醸造に関する歴史的な背景も知ることができるのが、本書の魅力と言えるだろう。ニクラスが考案するビール醸造の技法は、さまざまな変遷を繰り返して現在のビール醸造技法にもつながっていく。著者は熟練のビール醸造家であり、研究熱心なビールマイスターでもあるという。作家デビュー作となった本書が評価され、〈ビア・マーグス〉シリーズは全5冊が刊行されているとのこと。となると他の〈ビア・マーグス〉シリーズ作品も読んでみたい。

あくまで個人的な感想だが、ひとつだけ不満があるとすれば、エピローグの内容がちょっとクドいと感じた。本書の構成が、ニクラスの手記をもとに描かれている体裁になっているので、エピローグでは物語に出てくる地名や場所、人物について歴史的な事実などを説明するようになっているのだが、物語の余韻を楽しみたいと考えると、エピローグ前、第3部の最終28章で終わっていた方がよかったかなと気がする。もちろん、プロローグに始まって第1部、第2部、第3部と展開する物語は、前述のような内容でとても面白く、ラストにはミステリーらしい展開も用意されている。

ビールが好きな人、ビール醸造の歴史に興味のある人にオススメしたい作品だし、ビールを飲まない人でも読んで面白いと思うのでオススメしたい。