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「受験生は謎解きに向かない」ホリー・ジャクソン/服部京子訳/東京創元社-〈向かない3部作〉シリーズの前日譚。まだ自由研究の題材を決めあぐねているピップはコナー宅で開催される犯人当てゲームに参加するが...

 

 

衝撃的な展開と意味深なラストでミステリファンの間でも賛否の渦を巻き起こした〈向かない3部作〉。その前日譚となるのが、本書「受験生は謎解きに向かない」です。

前日譚となるだけあって、シリーズの主役ピッパ(ピップ)・フィッツ=アモービはまだ『自由研究で得られる資格』のテーマを決めあぐねている段階です。彼女は、そのことに焦りを感じているようですが、彼女の友人たちはASレベルの試験を終えて開放感に浸っています。

そんな中でピップは、友人のコナー・レノルズ宅で開催される犯人当てゲームに参加することになります。コナーといえば、シリーズ第2作「優等生は探偵に向かない」で、ピップに行方不明の兄ジェイミーの捜索を依頼した人物です。彼の家で開催されるゲームなので、本作にはジェイミーも登場しますし、他にもシリーズに登場したメンバーが本作に登場します。

ピップの親友であるカーラとローレン。
ピップの同級生であるアンソニー(アント)とザック。

全部で7人の友人たちが集まってゲームは幕を開けることになります。ゲームの舞台設定は1924年。とある孤島に建つ大富豪レジナルド・レミーの館に彼の誕生日を祝うため親族が集まります。その孤島には、1日1便しかない船に乗る以外に上陸する手段はなく、次の船が来るまでは絶海の孤島となってしまう。その孤島の館で、主であるレジナルド・レミーが何者かに殺害されます。犯人は館に集まった者たちの中にいる。ロンドン警視庁の警部に扮したジェイミーが進行役となってマーダーミステリはスタートします。ピップたちは、ゲームの進行する中で与えられる手がかりをもとに殺人事件の謎を解き、犯人をつきとめるというわけです。

本作では、ゲームの設定上の殺人は発生しますが、現実に事件が起きるわけではありません。試験が終わってうわついているコナーたちとは違って、自由研究のテーマ選びに悩んでいるピップは今回のゲームの参加にはあまり乗り気ではありません。しかし、そこは持ち前の好奇心と探究心に満ち溢れたピップのこと、ゲームの中で起きたことや証言をノートにびっしりとメモをとり、ストーリーが進展していく中で次第にゲームの世界にのめり込んでいきます。そして、最後には、誰もが思いもよらない大胆な推理を展開することになります。

本書は、200ページにも満たない中編小説ですが、シリーズをすでに読んでいる読者にとっては、ピップという人物像をよくわかっているだけに、ところどころでシリーズ作品の中のエピソードや彼女の言動などを思い出して、納得したり面白がったりできると思います。

逆に、まだシリーズ作品を未読の読者は、本書から読み始めて、シリーズ第1作の「自由研究には向かない殺人」から順番にシリーズ作品を読んでいく楽しみがあると思います。本書でピップという少女の人物像を掴んでからシリーズを読むのは、知らずに読むよりも楽しめるのではないでしょうか。

シリーズ3部作の中で、本書に登場するピップとその友人たちの関係は、いくつかの事件や出来事を通じて大きく変化していきます。すでにシリーズ作品を読んだ読者にとっては、彼らがもともとは一緒にゲームを楽しむ、高校生活をエンジョイする友人同士だったことを改めて実感し、シリーズ作品の中で起きたことを今一度思い返すでしょう。シリーズ未読の読者は、本書で楽しそうに犯人当てゲームに興じる友人同士の関係が、この先どんな変化をしてしまうのかドキドキしてシリーズ作品を読むことができるでしょう。

〈向かない3部作〉シリーズの前日譚となる作品が刊行されるという話を聞いたときは、期待が半分ありつつも変に話を作ってシリーズのインパクトを削いでしまう可能性もあるのではないかと不安も感じていました。ですが、翻訳刊行された「受験生は謎解きに向かない」を読んで、不安を感じていたことを申し訳なく思いました。さすがホリー・ジャクソン。読者の期待を裏切らない作家だなと思います。

本書は、〈向かない3部作〉シリーズ作品と合わせて読むことで真価を発揮する作品です。シリーズを未読の方は本書をきっかけにシリーズの作品を読んでみてほしいなと思います。

〈向かない3部作〉レビュー ※ネタバレ注意

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