タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「自由研究には向かない殺人」ホリー・ジャクソン/服部京子訳/東京創元社-〈向かない3部作〉シリーズ第1作。5年前に起きた事件の真相を自由研究で解明するという設定が秀逸。ピップが調査の過程でたどり着いた真実とは

 

 

“自由研究”というと、子どもたちが夏休みの宿題として取り組んでいるというのが、私の中でのイメージです。朝顔の観察日記や牛乳パックを使った工作なんていうのが、私が子どもの頃の定番でした。最近は、ChatGPTを使ったりしている子もいるみたいです。

ホリー・ジャクソン「自由研究には向かない殺人」の主人公ピッパ(ピップ)・フィッツ=アモービが自由研究の題材として選んだのは、5年前に彼女が暮らすリトル・キルトンの町で起きた殺人事件について調べることでした。

ひとつ誤解のないように書いておかなければいけませんが、ピップが取り組む自由研究は、日本の子どもたちが取り組む夏休みの宿題とは違います。彼女は、リトル・キルトン・グラマー・スクールの最上級生で自由研究により得られる資格を取得するために今回の自由研究に取り組んでいるのです。高校を卒業して大学に進学するために必要な資格を得ることが目的となっています。

彼女が調査する殺人事件。それは、サル・シンという少年が交際相手のアンディ・ベルという少女を殺害して自殺したとされる事件です。アンディは、5年前に失踪したまま発見されていませんが、警察は交際相手だったサルがアンディを殺害して遺体をどこかに隠し、自ら命を絶ったと結論づけました。でも、サルと親しかったピップは、彼が犯人だと信じることができず、自ら事件の真相を探ろうと動き出すのです。

物語は、ピップがサル・シンの家族に会うために彼の家を訪ねる場面から始まります。サル・シンの家族は、事件以降、加害者の家族として冷たい扱いにさらされています。だから、ピップが家を訪ねてきたときも、サルの弟のラヴィ・シンは彼女の来訪を歓迎はしませんでした。でも、彼女が兄の無実を証明しようとしていることを知り、彼女と協力して事件を調査するようになります。

こうして、ピップとラヴィによる事件の調査がスタートします。ピップは、事件当時を知る関係者にインタビューし、少しずつ事件の真相に迫っていきます。彼女の身近にいる人たちが容疑者として浮かび上がり、アンディ・ベルの裏の顔も明らかとなっていきます。マックス・ヘイスティングという、このシリーズ3部作を通してピップの敵役となる男の鬼畜な行為も明るみにでます。

自由研究という名目で17歳の高校生が殺人事件の真相に迫るというストーリーにちょっと無理があるんじゃないかと読み始めたときは思っていました。ですが、そんな懸念はすぐにどこかへ吹き飛んでいきます。ピップの行動にハラハラしながらも、彼女が事件の真相に近づいていくことにワクワクさせられます。と同時に、リトル・キルトンという小さな町に暮らす人々の繋がりや事件に関わった人々の苦悩や葛藤といった事柄に、時には胸を締め付けられ、時には強く憤りを覚えます。そして、最後にすべての真実が明らかとなったとき、言いようのない、悲しさとも苦しさともとれる複雑な思いが胸に去来しました。

このラストは、ハッピーエンドと言って良いと思います。事件の真相は解き明かされ、ピップとラヴィはお互いによい信頼関係を築き上げ、素敵な関係となります。ですが一方で、事件に関わった人たちの人生がすべてハッピーエンドだったわけではありません。それぞれがそれぞれに複雑な事情も抱えて、リトル・キルトンという小さい町でこれからも暮らしていくのです。ピップの物語、そしてリトル・キルトンの物語はこの先も続いていくのです。

シリーズ3部作を通して読んだ身としては、この先にピップを待ち受ける出来事を知ってしまっただけに複雑な気分になります。ですが、ひとまず「自由研究には向かない殺人」はハッピーエンドで幕を下ろしたと考えることにしましょう。