タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「卒業生には向かない真実」ホリー・ジャクソン/服部京子訳/東京創元社-〈向かない3部作〉シリーズ完結。第一部のラストに起きる衝撃の事件。しかし、さらなる驚愕が待ち受けていた。ピップの決断は是か非か?

 

 

※ネタバレなしで書くことができませんでした。未読の方はご注意ください。

 

こんな衝撃の展開になると誰が予想できたでしょうか。

前作「優等生は探偵に向かない」のラストで、“チャイルド・ブランズウィック”という異名に縛られ続けたスタンリー・フォーブスを目の前で射殺され、かつ彼の葬儀の場でリトル・キルトンの人々の醜悪さを見せつけられたピップ。シリーズ完結編となる「卒業生には向かない真実」では、ピップは前2作で経験した出来事からくるトラウマやマックス・ヘイスティングスが裁判で無罪になったことによるストレスで深く心を傷つけられています。さらに、何者かがピップの周辺に現れ、ハトの死骸や謎のメッセージを使って彼女に警告を送るという事態も発生します。家族も警察も、彼女を救ってはくれません。ピップは、ドラッグを手にするようになってしまっています。

第1部の終盤、ダクトテープキラー(DTキラー)の標的となり、身体中をダクトテープでグルグル巻きにされて倉庫に置き去りにされたピップは、必死に抵抗してダクトテープの束縛を外して逃走します。そして、彼女をいたぶって殺そうと戻ってきたDTキラーことジェイソン・ベルを、ピップ自らの意思をもって殺害します。そうです、ピップは殺人犯となるのです。彼女がジェイソン・ベルをメッタ打ちにして殺害する場面で第1部は幕を閉じます。

問題はここからです。第2部に入ってピップは、さらに衝撃の行動にでます。彼女は、自らのジェイソン・ベル殺害の罪をマックス・ヘイスティングスになすりつけようと画策するのです。「自由研究には向かない殺人」や「優等生は探偵に向かない」の中で身につけた殺人に関する知識をフル活用し、さらにラヴィやカーラ、ナオミ、コナーやジェイミーといった恋人や親友をも巻き込んで自分のアリバイ工作をするとともに、マックスには睡眠薬を使って眠らせることで行動を奪い、彼のアリバイがないように工作します。そのうえで、マックスの車や服、帽子、靴、スマホなどを使って、彼がジェイソン殺しの実行犯であるかのように仕立て上げていきます。

いかに許しがたい因縁の相手とはいえ、マックスを殺人犯に仕立て上げようとするピップの行為を読者はどう理解すればよいのでしょうか。正義という意味では、冤罪を作り上げるピップの行為は非道な行為と言わざるを得ません。しかしながら、マックスが過去に行ったドラッグレイプ事件やその事件によって深く傷つけられてしまった犠牲者のこと、本来罰せられるべきマックスが裁判で無罪を勝ち取り自由の身となったことなどを考えると、ピップがマックスを犯罪者として罰するべき存在と考えたことも理解できます。しかし、やはりまったくの無実である殺人の罪をなすりつけるのはやり過ぎです。でも、でも、、、

間違いなく、ピップの行動に対しての賛否をどう考えるかが、読者の間で侃々諤々の議論になると思います。ピップの行為を擁護する者、非難する者、理解する者、途方に暮れる者があるでしょう。ひとつ言えることは、ピップはマックスに罪をなすりつけたことで幸せになるわけではないということです。彼女はこれからの長い人生で重い重い罪の十字架を背負って生きていくことになります。DTキラーと呼ばれた殺人鬼とはいえ、ひとりの人間を殺してしまったこと。その罪を無実の人間になすりつけて冤罪事件を生み出してしまったこと。なにより、多くの人を事件に巻き込んでしまったこと。こうした数々の罪の意識に永遠に苛まれながらピップは生きていくことになるのです。

本作のラストは、マックスが逮捕されてから1年8ヶ月後、彼の裁判での評決が下されてから数分後にラヴィからピップに送信されたチャットメッセージで終了します。事件以降ずっと連絡を断っていたラヴィからのメッセージに何か応えようとしているピップ。ここも、読者によっては解釈がわかれるところになるでしょう。ピップとラヴィは関係を取り戻せるのか。いや、そもそもマックスは裁判に有罪になったのか。実に思わせぶりなラストシーンです。

「自由研究には向かない殺人」でスタートした〈向かない3部作〉は、こうしてすべての幕を下ろします。サル・シンの冤罪を晴らすために動き出したピップが、最後に自ら冤罪事件を作り出すというエンディングにはいろいろと考えさせられますが、全体としてはよく練り込まれた構成になっていると思いました。読み応えのあるシリーズ作品なので、シリーズ第1作から順番にじっくりと読むと面白いと思います。

 

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