タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「これはちゃうか」加納愛子/河出書房新社-同世代女子の他愛もない日常から次々と駅が生えてくる架空の町まで、バラエティに富んだ6つの短編を収録する初の小説集

 

 

Aマッソというコンビの存在を最初に知ったのは、作家の大前粟生さんのイベントでした。そのイベントの中で、大前さんがAマッソのライブを見に行った話をしていて、コンビ名を知りました。ただ、そのときはAマッソが女性コンビとは思わず男性コンビだと思いこんでいて、だから存在を知ってしばらくしてから女性コンビと知って驚いたのを覚えています。私がAマッソを知った頃は、まだ「知る人ぞ知る」というコンビで、テレビで見ることもほとんどありませんでした。その後、「THE W」という女性お笑い芸人の頂点を争う大会でプロジェクションマッピングを使った斬新なネタを披露して注目を浴び、そこから一気にメディアへの進出を果たしたことはご存知のかたも多いのではないでしょうか。

「これはちゃうか」は、Aマッソのメンバーである加納愛子さんによる初の小説集です。河出書房新社の「文藝」に掲載された短編と書き下ろしを含めた6編が収録されています。

了見の餅
イトコ
最終日

ファシマーラの女
カーテンの頃

同じアパートに住む同世代女子同士の他愛もない会話や“イトコ”という存在のわからなさをバズらせたいWebライター、最終日に行列してマウントをとりたがるヤツといった日常の風景であり会話だったりを描く作品から、映画研究会で締め切り間近になると現れるという『宵』という怪奇現象、次々と駅が生えてくるファシマーラという架空の町で起きる出来事のような非現実な世界観の作品、両親の友人“にしもん”と少年との奇妙な共同生活のようなどこかほっこりしてしまうような作品まで、6つの短編はひとつひとつが個性的で、バラエティ豊かな作品たちだと感じました。

加納さんは、Aマッソのネタ作りを担当していて、漫才やコントの台本を書いています。本書に収録されている6つの短編も、Aマッソの漫才での掛け合いだったり、しっかり作り込まれたコントとして演じられている場面を想像しながら読んでみても面白いのではないかと思います。

ところで、本書のタイトルは「これはちゃうか」ですが、表題作となる短編は6つの中にはありません。このタイトルはなぜつけられたのでしょう。ネットで検索してみたら、朝日新聞「好書好日」2022年12月3日発信の刊行記念インタビューの中で、「タイトルにはどんな思いを込めましたか」という問いに加納さんはこう答えていました。

book.asahi.com

いやぁ~、「初小説集」とか、ちょっと恥ずかしいじゃないですか。ちょっと、そんなやめてな、じっくり評価とかせんといてな、っていう。1回出して、「これは……ちゃうか」ってすぐ引っ込められる感じで。私の生き方のせこさが凝縮されたタイトルです(笑)。

タイトルは「生き方のせこさが凝縮されたタイトル」とのことですが、収録されている作品はどれも個性的で想像力も豊か。加納愛子という作家の今の姿や今の感性が凝縮されていると思います。まだまだもっとたくさん小説を書いてほしい、読んでみたいと思いました。