タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

きみにかわれるまえに(カレー沢薫/日本文芸社)-ペットを飼うこと、それは命を預かること。必ず訪れる別れを受け入れる勇気と覚悟をもつこと

 

 

新型コロナによるステイホームをきっかけにペットを飼う人が増えているという。その一方で、飼い始めたはいいが、自分が思っていたのと違うとペットショップに返品(命のある動物に対する言葉としては甚だ不適切な言葉だ)してきたり、保護施設に引き取りを依頼したりする飼い主も増えているという。

カレー沢薫「きみにかわれるまえに」は、ペットと飼い主、その出会いと別れを描く17篇の短編マンガが収録されている。『犬の十戒』になぞらえてそれぞれに『第○戒』としてタイトルがつけられている。

最初に収録されている「第1戒 きみの生涯はだいたい10年から15年です。でも私は80年くらい生きます。きみと別れてからも、私の人生は長く続きます。」は、まさに『犬の十戒』の「第1戒」とリンクする。

第1戒 私の生涯はだいたい10年から15年です。あなたと別れるのは、何よりも辛いこと。私と暮らす際は、どうか別れのことを念頭において下さい。(Webサイト「子犬のへや」より抜粋)

「きみにかわれるまえに」の第1戒は、SNSなどネット上でも公開されていて、私もリツートされてきた試し読みツイートで本書のことを知った。ちょっとチャラい感じの女性がペットショップで一目惚れした子犬を“伽悪栖(キャオス)”と名付けて飼い始める。彼女は仕事運も男運も悪く、非正規で働き、結婚サイトで出会ったハイスペック男とも長続きしない。それでも、たったひとつの癒やしであり支えである伽悪栖には、全力で愛情を注ぐ。やがて時は流れ、彼女も伽悪栖も年を重ねていく。伽悪栖は、老いて弱っていき、粗相をするようにもなっていく。ある日、彼女の夢枕に伽悪栖が現れる。伽悪栖は、飼い主に似たガラの悪い口調で「自分はもうすぐ死ぬ」と告げ、人生をやり直せるように戻してやると言う。もちろんそれは夢だ。やがて伽悪栖は、彼女の腕の中でその生涯を閉じる。

 

第1戒で伽悪栖にすべての愛情を注ぎ、結婚もせず不安定な仕事で面倒を見続けた彼女の人生は無駄な時間だったのだろうか。たかが犬のために、女性として一番輝けたかもしれない時間を費やすなんてもったいないと思う人もいるだろう。だけど、彼女が伽悪栖と過ごした時間が無駄だったなんてことはぜったいにそんなことはない。むしろ、これほどに充実して幸せな時間はなかったと思いたい。

子犬や子猫は、とんでもなくカワイイし、愛すべき存在だ。何をしてもカワイイし、懐いてじゃれてきたりするともうメロメロになってしまう。ステイホームでひとり家にこもらなければならない人たちがペットに癒やしを求めたくなる気持ちもよくわかる。

だが一方で、犬や猫や他の動物たちはみんな“生き物”なんだということは、絶対に忘れてはいけない。子犬や子猫は、必ず年をとる。いつまでもコロコロとかわいくじゃれついてくる子どものままでいるわけではない。

コロナによるステイホームで犬を飼い始めた人の中には、「お店で見たときはかわいかったのに、家に連れて帰ったら部屋の中でオシッコしちゃってかわくなくなった」という理由で買ってからほんの数日で返品しにきたケースもあるらしい。こうなると怒りを通り越して呆れてしまう。

犬や猫を飼うということは、命を預かるということだ。飼い始めた以上は、その子の生涯を最期まで見届ける覚悟がなければいけない。どのような理由であれ、途中で飼育を放棄してはダメだ。もし、どうしても飼育できなくなったら? 飼い始めるときは、そのときのことまでしっかり考えておかなければいけない。最期を看取るまで面倒を見続けられる覚悟をもつこと。万が一のときにその命を託せる道筋を準備できること。それができるかをペットショップで子犬や子猫を買う前に考えて欲しい。

以前、「老犬たちの涙」という本を紹介した。さまざまな理由で飼育放棄されてしまう老犬たちについて書かれた作品だ。「年をとってかわいくなくなった」とか「引っ越し先がペット不可で飼い続けられない」といった飼い主の勝手な理由で保健所や保護センターに捨てられる老犬たちの姿が記録されていて、その本を読んだときも命を最期まで預かる覚悟が必要だと強く感じた。

「きみにかわれるまえに」を読んで、改めて命を預かる覚悟について強く強く感じている。

s-taka130922.hatenablog.com