タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「老犬たちの涙 “いのち”と“こころ”を守る14の方法」児玉小枝/KADOKAWA-「飼えなくなったから捨てるなんて」と憤るだけでは解決しない問題

 

 

私事になりますが、昨年(2019年)11月に18年以上一緒に暮らしてきた愛犬ラムを看取りました。我が家のアイドルだった彼女の死は、家族にとってとても悲しいできごとで、2ヶ月以上経っても、まだ寂しい気持ちが消えていません。

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満面の笑顔が愛らしい

本書「老犬たちの涙」は、ラムがすっかり弱ってきて寝たきりの状態になった10月半ばころに書店の店頭でみつけて購入しました。表紙には、ケージの柵越しにカメラをじっと見つめる老犬の写真が使わています。

この世に生を受け、
人間の家庭に迎え入れられてから十数年間、
飼い主を信じ、飼い主を愛し、
飼い主の幸せを願いながら、
ただひたむきに生きてきた老犬たち……。

彼らは、ある日突然、帰る家を失い、
行政施設に収容されます。

そこは大好きな家族のいない、
見知らぬ場所……。

 

ペット大国とされる日本では、いまや人間の子どもよりもペットの犬や猫の方が多いといわれるくらいたくさんのペットが飼われています。その一方で、飼い主である人間の身勝手さによって、捨てられたり、保健所などに持ち込まれて殺処分となってしまうペットもたくさんいます。

子犬のときはかわいかったのに、大きくなってかわいくなくなった。
吠えてうるさいから。
引越し先に連れていけないから。

さまざまな理由で飼い主は愛していたはずの犬を捨てます。世の中の飼い主のすべてが、そういう心無い人たちではありません。まだ生まれたばかりのときに我が家に迎え入れ、その成長を見守り、たくさんの愛や癒やしを受け取り、一緒にたくさん遊んできた犬を最期の時まで愛情深く育て、看取ってきた飼い主の方が圧倒的に多いのが事実です。だけど、ほんの一握りの飼い主の行動が、命を持ち生き物である犬を不幸におとしいれているのも、悲しいことに事実です。

保健所などに持ち込まれる犬たちは、民間ボランティアのサポートなどを受けて新しい飼い主のところに引き取られるケースもあります。でも、新しい飼い主に譲渡されるのは、まだ子犬だったり、成犬であってもまだまだ若くて健康な犬がほとんどです。捨てられた犬の中には、高齢の犬もいます。そういう老犬を引き取ろうという人はほとんどいません。引き取り手のなかった老犬たちは、最終的に殺処分されてしまいます。

老犬になるまで育ててきたのに、なぜ最期の看取りまで世話をしないのだろう? そこには、いまこの国が抱えている問題が深く関わっているように思います。

本書は、老犬が捨てられる理由を4つに分類し、目次としています。

捨てられる理由①:老老介護の破綻
捨てられる理由②:看取り拒否/介護放棄
捨てられる理由③:引っ越し
捨てられる理由④:不明(迷い犬として捕獲・収容されたため)

子どもたちが成長して親としての責務が終わったとか、仕事を定年退職したとか、伴侶を失ったとか、そういう環境の変化をきっかけにして犬を飼うようになった人たちがいます。60代半ばから70代の初めくらいの「まだまだ自分は元気だ」と自負している世代の人たちが、新しい家族として犬を飼い始めるケースはこれからの時代どんどん増えていくだろうと思います。

本書でも指摘されているように、飼い犬が老犬となり介護が必要になるころ、飼い主もまた70代後半や80代の高齢者です。老犬の介護どころか自分の面倒すらみられなくなっているかもしれません。子どもたちも、自分の親の介護でさえ手一杯なのに、老犬の介護までやっていられません。結果、持て余した飼い犬を保健所に引き取ってもらうというのが、「捨てられる理由①:老老介護の破綻」です。

老老介護の破綻は、一方的に飼い主だけを責めることはできない問題です。そして、今後ますます増えるであろう問題でもあります。少子化によって生涯子どもを持たない人もいます。結婚しない人もいます。子どもよりも犬や猫を選ぶ人はこれから増えるでしょう。自分もいずれ年をとるということは、まだまだ健康なときには想像もしません。自分も、これからペットを飼うときには、自分が元気に最期まで面倒みられるかを考えないといけないと思います。

「捨てられる理由②:看取り拒否/介護放棄」は、老老介護の破綻とは事情が違い、人間の身勝手さを感じざるを得ません。
看取り拒否は、「ペットが死ぬところを看取るのが嫌だから」という理由で保健所に老犬を引き取らせる飼い主のことです。大好きなペットが死ぬところをみたくないという気持ちはわからなくもないですが、それまで家族として暮らしてきたペットを死ぬ間際に保健所に持ち込むことは理解できません。人間の身勝手なり靴でしかないと思います。
介護放棄も同じです。人間と同じで老犬も身体の自由がきかなくなったり、認知症になって徘徊したり粗相をしてしまったり無駄吠えをするようになります。我が家のラムも亡くなる直前は自力では起き上がれず排泄もままならなくなりました。でも、介護が大変だから保健所にやってしまおうという発想にはなりませんでした。それが普通の感覚だと思うのですが、世の中には最期まで面倒をみようと思わない飼い主もいるということに驚きます。

「捨てられる理由③:引っ越し」は、少し事情が違います。
いろいろな理由で引っ越しをしなければならなくなるのは仕方のないことです。本書に事例としてあがっているような、ペット可のアパートに住んでいたけれど建て替えなどの理由で退去を求められ、転居先として用意された新居はペット禁止のアパートだった、というケースは仕方ないことかもしれません。「ペット可のアパートを自分で探せばいいじゃないか」「家族や他の引取先をみつければいいじゃないか」と飼い主を責めたくなる気持ちもありますが、家賃の問題や頼れる家族がいないという事情もあるでしょう。なにか助ける方法はないかと悲しくなりました。

さまざまな理由で捨てられる老犬たち。全力で愛し信頼してきた飼い主に捨てられる老犬たちはどんな気持ちなのでしょう。犬の言葉を理解することはできません。でも、きっと悲しんでいるに違いありません。裏切られたという絶望を感じているかもしれません。

老犬たちが穏やかで安らかな最期を迎えられるために、私たちにできることはないのでしょうか?

本書では最後に、老犬たちのために私たちができることとして14項目をあげています。その14項目を紹介してこのレビューの締めくくりとします。

1.終生飼養の覚悟
2.介護サポーターを見つける
3.困ったときは早めに相談
4.犬のための貯蓄
5.犬の健康管理
6.正しいしつけ
7.鑑札と注射済票、迷子札をつける
8.行方不明になったら、すぐに捜索
9.犬の老化現象や、老犬がかかりやすい病気、介護やサポートについて学ぶ
10.老犬の気持ちを理解する
11.万が一のとき、犬を託す人を決めておく
12.老犬を救うボランティア活動に参加する
13.保護された老犬を家族に迎える
14.共生社会の実現

人間も老犬も、すべての生き物が穏やかで楽しく生きられる社会になりますように。