タカラ~ムの本棚

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ロボット・イン・ザ・ファミリー(デボラ・インストール/松原葉子訳/集英社文庫)-シリーズ第4弾。チェンバース家の庭に突然現れたロボット(通算3回め)、またまたロボットをめぐる騒動が巻き起こる。

 

 

ちょっとポンコツで、でもかわいくて憎めないロボット・タングを中心にチェンバース一家が子育てや教育など家庭の問題と向き合い取り組んでいく人気シリーズの第4作である。

前作「ロボット・イン・ザ・スクール」では、ラストに日本から帰国したチェンバース一家の目の前にまた新たなロボットが現れたところで終わっていた。本作「ロボット・イン・ザ・ファミリー」では、チェンバース家の敷地に捨てられていたロボット・フランキーをめぐるちょっとミステリーっぽいストーリーと、前作から続くベンとエイミーのひとり娘ボニーのちょっと複雑な問題が絡んで、今回もベンの頭を悩ませる。

親友カトウの元にジャスミンを残して帰国したチェンバース一家。ジャスミンの件でタングとベンの間には不穏な空気が流れている。そんな一家の目の前に現れたのは、またしてもロボットだった。そのロボットは、タングやジャスミンと同じようにチェンバース家の敷地に突然現れた。“フランキー”というそのロボットには手紙が添えられていた。

-この子を機能させるために頑張ってみましたが、あまりにいろんなものでできていて、どうにも使いこなせなくなってしまいました。

こうして、フランキーはしばらくチェンバース家で預かることになる。ジャスミンと離れて傷心していたタングはフランキーを歓迎し、ボニーもどんな気持ちかは測りかねるもののフランキーを受け入れる。だが、フランキーのことはあくまでも一時的に預かっているだけなので、ベンは持ち主を探そうと調べ始める。

フランキーはメモリーを初期化されているようで、自分が何を目的に作られたロボットなのか、持ち主が誰なのかも覚えていない。識別番号も消されていて元の持ち主にたどりつくのは難しそうだ。

ベンの頭を悩ませる問題は、フランキーのことだけではない。ボニーの教育問題もある。学校に馴染めないボニーを自宅で学習させるホームエデュケーションを選択したベンとエイミーだったが、どうやらボニーはただ学校に馴染めないという以上の問題を抱えているようなのだ。

ベンを悩ませる問題はまだある。姪のアナベルが恋をしたのだ。相手は大学で教鞭をとっているフロリアンという教師なのだが、問題は彼がアンドロイドだということ。この件で、ベンの姉ブライオニーは夫デイブと対立してしまい、ベンは夫婦の間、母娘の間で板挟みのようになってしまう。

こうしてベンの頭を悩ませる問題が次々と巻き起こるチェンバース家。そんな混乱した状況にあって、自分もいろいろとパニックになりながらも問題解決に力を尽くそうとするベンの姿は、これまでと変わらないようで少し頼れる父親になってきたように感じる。ちなみに『パニック』という言葉は、フランキー問題に関わるポイントワードになっている。

シリーズも4作目となり、チェンバース家の物語もかなり広がりを見せるようになった。シリーズ第1作「ロボット・イン・ザ・ガーデン」では、突然小さな子ども(=タング)の“父親”となったベンが、慣れない環境に身をおきながらまだまだ幼いタングのために奮闘する『初心者パパの成長ストーリー』の幕開けという感じだった。そのころはまだエイミーとの関係もギクシャクしていた。それがタングの子育てを通じて変化していき、第2作「ロボット・イン・ザ・ハウス」では娘のボニーと新たにロボット・ジャスミンが加わって家族の姿が形成されていく。そのことでベンには父親としての自覚が深まり、家庭の大切さを考えるようになる、第3作「ロボット・イン・ザ・スクール」でチェンバース家は、家の中から外の世界へと足を踏み出す。ボニーが学校に通うようになり、タングも学校に行きたいと言い出す。それまで家庭内でクローズしていた問題が外の世界に踏み出したことで、社会のルールとどう折り合っていくか、どこに課題があってどう対処していくかという問題に直面することになっていく。そして、それまで見えなかったボニーの問題も少しずつ見えてくるようになる。

ボニーやタングの外の世界との関わりが増えていくことで、ベンとエイミーはより大きな親としての責任を感じるようになる。そして、本書「ロボット・イン・ザ・ファミリー」では、ボニーの教育問題もさることながら、アナベルとフロリアンの恋愛=人間とアンドロイドの恋愛の問題、介護や移民といった地域社会の問題も関わってきて、家族として地域に暮らす中では避けて通れないさまざまな問題があることを考えさせられる。

本書では、ラストにフランキーの謎が明らかになり、同時にボニーがもつ才能についてもベンたちは理解し尊重するようになる。そして、タングも成長し、さまざまな状況を理解し受け入れることを学んでいく。今後もチェンバース家や彼らの周囲の人々をめぐってたくさんの事件が起きるだろう。まだまだ先の展開が楽しみになるシリーズだ。

また、本書にはコロナ禍を舞台にした特別短編「ロボット・イン・ザ・パンデミック」が収録されている。ソーシャルディスタンスが求められる社会の中で、タングは自分が何か役に立つことがしたいと考える。さて、タングはどんな仕事を任されたのか。緊張感のある状況の中で、タングの存在が少しでも社会の癒やしになること。そういう存在になっていることに少し胸が熱くなった。

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