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「野良犬トビーの愛すべき転生」W・ブルース・キャメロン/青木多香子訳/新潮文庫-たったひとりの少年イーサンを愛するために、トビーは何度も生まれ変わる

 

野良犬トビーの愛すべき転生 (新潮文庫)

野良犬トビーの愛すべき転生 (新潮文庫)

 

 

これまでに4匹の犬を飼ってきた。

最初の犬は、3、4歳の頃に飼っていた雑種犬だ。私はまだ幼くて、この犬の記憶はほとんどない。2匹目は、近所の空き家に捨てられていた子犬を父が拾ってきて飼い始めた、やはり雑種犬で、私にとっては彼が実質はじめての犬のようなものだった。やんちゃでいたずら好きの犬だったが、私も家族も彼を心から愛していた。2匹目が死んでからしばらくは新しく犬を飼うことはなかったが、あるとき親戚の家で子犬が生まれ、父がもらい受けてきた。黒くて少し大きい体をしたオスで、誰かが家の前を通りかかるといちいち吠えていたので、ご近所さんにはちょっと嫌がられていたと思う。その犬が老犬になり、病気になって寝たきりに近い状況になったときに、4匹目の犬がやってきた。それが、いま飼っているビーグルだ。歴代の愛犬の中では一番長生きしていて、今年(2019年)18歳になった。さすがに衰えてきたが、まだしっかりとした足取りで散歩にも行けるくらいに元気なおばあちゃんである。

W・ブルース・キャメロン/青木多香子訳「野良犬トビーの愛すべき転生」を読んで、我が家でこれまで飼ってきた4匹を思いだした。

本書は、犬の視点で描かれる。野良犬として生まれたトビーは、何度も生まれ変わりを繰り返しながら、ひとりの少年を愛し守るために生きていく。少年の名前はイーサン。トビーは、ベイリーとして生まれ変わったときにイーサンと出会った。

僕たちは互いをじっと見つめ合った。人間の子供、男の子だと、僕は気づいた。口元がやわらいで大きくにこっと笑い、彼は両腕を広げた。「子犬だ!」と彼が歌うように言うと、僕たちは互いに走り寄り、ただちに恋に落ちた。

こうしてイーサンと出会ったベイリーは、ともに成長していく。少年だったイーサンは成長して青年になり、子犬だったベイリーは成長して成犬になり老犬になった。いくつかの事件があり、少年と犬は強い絆で結ばれたが、やがてベイリーは老い、ふたりは別れの時を迎える。

だが、驚くことにベイリーはまだ生まれ変わった。今度は警察犬エリーとして、ジェイコブとパートナーを組んで仕事をするのだ。エリーの仕事は行方不明になった人を探すこと。彼女は優秀な捜索者になる。パートナーがジェイコブからマヤに変わっても仕事は続き、やがて最後の時を迎える。そして、また生まれ変わる。今度は、再びイーサンと出会うために。

犬を飼っていると不思議に思うことがある。はじめて会ったはずの犬なのに、なんだかとても懐かしくて、前から友だちだったんじゃないかという感覚があるのだ。全然違う種類の、全然タイプの違う犬なのに、前に飼っていた犬と同じ雰囲気を感じたりする。前の犬が好きだった遊びを次の犬も好きだったり、食事の好みが同じだったり、機嫌のいいとき悪いときの態度が似ていたり。

我が家でこれまで飼ってきた犬たちにも、そういう共通点を見出したりする。枝豆や落花生を殻ごと与えるときれいにむいて中身だけを取り出して食べるところ。焼き芋やとうもろこしが大好きなところ。おやつに紛れ込ませて薬を飲まそうとしても、毎回上手に薬だけ避けて食べるところ。全部、これまでの犬たちに共通しているところだ。

もしかしたら、トビー(ベイリー、エリー、バディ)のように、我が家にやってきた4匹の犬たちも、同じ犬の生まれ変わりなのかもしれない。だから、どこかに似たところがあって、最初から友だちになれたのかもしれない。

トビーが3回目に生まれ変わり、バディとしてイーサンと再会したとき、すでにイーサンは老人となっている。それは、今度はバディがイーサンを見送る順番になるということ。トビーが、ベイリーとしてバディとして愛情を注ぎ続けた少年と本当にお別れするということ。イーサンを見送ることで、「僕は魂の目的を果たしたのだ」とバディは感じる。

私が最後のときそばにいてくれるのは、どんな犬なのだろうか。