タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「“いのち”のすくいかた 捨てられた子犬、クウちゃんからのメッセージ」児玉小枝/集英社みらい文庫-“殺される命”を“救われる命”にするために私たちができることはなにかを考えるきっかけとなる本

 

 

環境省が公開している統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」の最新データ(対象期間:2019年4月1日~2020年3月31日)によると、全国の動物愛護センターなどの行政施設に引き取られた犬猫の数は85,897匹(内訳は、犬:32,555匹、猫:53,342匹)に及び、そのうちの11,119匹は飼い主に返還され、41,948匹は別の飼い主に譲渡されているが、残りの32,743匹は殺処分されている。

www.env.go.jp

同じページに参考としてあがっている平成16年度の引き取り数が418,413匹でそのうちの394,799匹が殺処分となっているデータからみると20年弱で殺処分数は10分の1以下に激減していて、自治体の動物愛護センターや民間の保護団体の殺処分ゼロに向けた取り組みが成果をあげていると言えるが、それでも3万匹の犬猫が殺処分されているという現実に心が痛む。

「“いのち”のすくいかた 捨てられた子犬、クウちゃんからのメッセージ」は、生後2ヶ月で捨てられ収容施設に入れられた子犬が譲渡会を通じて新しい飼い主に家族として迎え入れられ、幸せを掴む姿を追ったドキュメンタリー。そして、クウちゃんのように新しい飼い主のもとへ引き取られる犬がいる一方で殺処分される犬や猫たちがいることも記されている。

環境省のデータに話を戻すと、施設に引き取られた犬猫たちの中で幼齢(まだ離乳していない子ども)の子犬、子猫の数は41,581匹あり、そのうち殺処分された数は19,227匹となっている。およそ半数の子犬、子猫が殺処分されているということになる。

本書でもまず、施設に引き取られた犬猫たちの多くが殺処分されているという現実が読者に示される。施設に収容された犬猫たちは、冷たい檻の中に閉じ込められ、飼い主が引き取りに来るか、新しい飼い主が見つからなければ殺処分になる。ガス室でもがき苦しみながら殺される。そんな運命をただ待つだけの犬猫たちの写真が、本書のページには並んでいる。春や秋の出産シーズンには、生まれたばかりの子犬や子猫を段ボールやキャリーバッグに入れた人たちが引き取りを求めて施設にやってくる。産まれても育てられない。譲渡先も探せない。すべて飼い主たちの都合だ。引き取られた子たちがたどるのが、殺処分という結末かもしれないということを考えてほしい。

ペットが子犬や子猫を産んでしまい、育てることも譲渡先も探すことができないのならば、親犬親猫が子どもを産まないように不妊手術をするなどの対応をすればいい。だが、施設に子犬や子猫を引き取らせようと考える飼い主にはそういうモラルも欠けている。「手術代がかかる」「手術を受けさせるのはかわいそう」などとできない理由を見つけて言い訳にする。

それでも、施設や民間団体の努力もあって、殺される命は少しずつ救われる命に変わっている。クウちゃんのように新しい家族に救われる命の数は少しずつ、だが確実に増えている。全国各地で殺処分ゼロを目指す活動が行われていて、確実に成果をあげている。

だけど、行政やボランティアの活動だけでは殺処分ゼロは実現できない。私たち飼い主も、ペットに適切な去勢手術や不妊手術をしたり、それができないのなら妊娠しないように気をつけるようにしなければいけない。そして、一番大切なのは預かった命は最期まで責任を持って面倒をみるということだ。犬や猫の寿命はだいたい15年~20年くらい。最近は医療やフードの質の向上などもあって長命の犬猫が増えている。15年後20年後まで責任を持って飼い続けるのが飼い主の義務だと思う。

新しい家族と暮らし始めたクウちゃんの様子も本書は伝えてくれている。幸せそうな家族の写真を見ると読者である私まで幸せな気分になれる。クウちゃんみたいに幸せな犬や猫がもっともっと増えてほしいと願う。

本書は、集英社みらい文庫から刊行されていて、すべての漢字にルビがふってあるので、ひらがなが読める子どもも読むことができる。ペットを飼いたいと思っている子どもたちがいたら、まずこの本を読んでみてほしい。もちろん大人も。そして、安易にペットショップで買うのではなく、譲渡会を通じて保護犬や保護猫を迎えるという選択肢も考えてみてほしい。

犬も猫も人間も、みんな幸せなのが一番です。