タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「コロナの時代の僕ら」パオロ・ジョルダーノ/飯田亮介訳/早川書房-いま自分が置かれている状況を再確認し、感染拡大防止のための当たり前を再認識するための本。まさにいま読まれるべき本。

 

 

新型コロナウィルスが世界中で猛威を奮っている。もちろん、日本も例外ではない。ウィルスには、人種とか国とか貧富の差とか、そういう垣根がない。世界中の誰もが感染する可能性がある。いま、こうしてレビューを書いている私にも感染リスクはある。

パオロ・ジョルダーノ「コロナの時代の僕ら」は、イタリアの作家であり大学で物理学を学んだ著者が、新型コロナウィルスのパンデミックに襲われたイタリアの“今”を記したエッセイである。訳者あとがきによれば、2020年2月25日に『コリエーレ』紙に寄稿された「混乱の中で僕らを助けてくれる数学」が評判となり、そこから発展して2月29日から3月4日までの記録を兼ねたエッセイとして書かれたものであるという。日本版には、3月20日に『コリエーレ・デッラ・セッラ』紙に掲載された「コロナウィルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないもの」も「著者あとがき」として収録されている。これは、日本語版に特別に許可されたものだ。

本書は、書籍刊行に先駆けて早川書房のサイトで全文が特別に先行公開されていた(現在は読めない)ので、ネットで読んだ人もいるだろう。私はネット公開時には読み逃していたので、今回こうして書籍版で読んだ。

イタリアは、ヨーロッパ諸国の中でも早い段階で新型コロナウィルス感染症の罹患者が確認され、パンデミックが起きた国だ。4月末の時点で累積の感染者数がおよそ20万人で死亡者も2万7千人に及ぶ。4月後半になって感染拡大が鈍化し、新規感染者数を回復者数が上回る状況になってきている。

「コロナの時代の僕ら」は、訳者あとがきまで含めて130ページ弱。27章で構成されていて、ひとつひとつの章は短い。読み始めると一気に読めてしまう。

だが、短いひとつひとつのエッセイに書かれていることは、どれも共感し納得できることばかりだ。ウィルスは、思想信条が違うとか、暮らしている環境が違うとか、貧富の格差とか、そういう人間的な乖離にはまったく忖度しない。どんな立場の人間でも、このウィルスに感染する可能性があるし、誰かを感染させてしまう可能性がある。

著者は「感染症の数学」という章で、「ウィルスの前では人類全体がたった三つのグループに分類される」と記す。

感受性人口:まだウィルスが感染させることができる人々(感受性保持者とも呼ばれる)
感染人口:ウィルスにすでに感染した感染者たち
離人口:ウィルスにはもう感染させることができない人々

まだ感染していない人(これから感染するかもしれない人)、いま感染している人、過去に感染して免疫を獲得した人ということだ。新型コロナウィルスに対しては、感受性人口が圧倒的に多いので、適切な対応をとらなければ感染人口が爆発的に増加することになる。

イタリアでは、北部から感染が拡大していった。感染の爆発的な増加を抑えるために全土で都市封鎖が行われ、食料品などの生活必需品の買い物や犬の散歩など一部の例外を除いて一切の外出が禁止されている。

外出禁止で自宅から出られない生活の様子についても、著者は本書に書いている。「隔離生活のジレンマ」と題するエッセイは、外出禁止という閉塞された生活を送る中で、人間なら誰しもが抱えるであろう心の葛藤が記されている。

「行ってみたら普段より空いているんじゃないか?」という、自分だけなら大丈夫だろうと考えてしまうこと。でも、そういう考えの人が集まってしまったら、結局それは感染者を増やしてしまう結果になるだろう。「自分だけなら」という個人の損得勘定ではなく、みんなの損得を同時に考えなければならない。だから、人が集まるところへは行かない。

感染症の流行は、集団のメンバーとしての自覚を持てと僕たちに促す。

「運命論への反論」の冒頭で著者はそう記す。「コロナの時代の僕ら」に書かれていることは、どれも“当たり前”の考え方なのだ。自分だけは特別とか、自分だけなら問題ないとか、そういう個人の理屈はウィルスには通用しないのだということを改めて確認させられる。本書に書かれていることを読んで「そんなの当たり前じゃないか」と一蹴してしまうことは簡単だ。だけど、私たちはその“当たり前”を実践できているのか?

およそ130ページと短い本だが、内容は深くて濃いと感じた。日本も緊急事態宣言が出され、外出自粛や人との接触8割削減などの感染拡大防止のための取り組みが私たちに求められている。だけど、私も含め、どうもこの国の人たちは危機感が薄いように思える。法的な強制力もなく罰則もない外出自粛は、個人個人の努力に頼っているため、その受け取り方は個人差がある。海外の都市封鎖された街では外出している人はほとんどいないが、日本ではだいぶ減っているがまだ普通に出勤したり、休日に遊びに行ったりしている。

このレビューを書いているのは4月28日。明日4月29日から本格的なゴールデンウィークが始まる。どのくらいの人が、個人の損得勘定ではなくみんなの損得を考えて行動できるだろうか。

とにかく私は、自宅にこもって本を読んだり映画を観たりして過ごそうと思っている。