タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「トラとミケ いとしい日々」ねこまき/小学館-こんな時代だからこそ、ほっこりあたたかい話を読みたい方にオススメ

 

 

味噌味に仕込んたどて煮込みが名物の老舗居酒屋「トラとミケ」を切り盛りするのは、姉トラと妹ミケのばーちゃん姉妹。父の代から受け継いだどて煮は、朝挽きの新鮮なホルモンを丁寧に仕込んだ逸品だ。夕方になると常連客たちが続々と集まってきては、世間話に花を咲かせる。

新型コロナの影響で外出自粛が続く中、会社帰りにときどき顔を出していたあの店はどうなっているだろう、と考える。このレビューを読んでいる中にも、そういう人はたくさんいると思う。

本書は、エア本屋『いか文庫』の粕川ゆきさんが、NHKの『あさいち』で紹介していた中の一冊。ねこまきさんの描くトラやミケ、常連客たちの姿(みんなネコ)が、みんな愛らしくて読んでいてほっこりする。

トラさんとミケさん姉妹の一日は、のんびりしているようで忙しい。ポカポカと暖かい縁側でまったりしているところへ朝挽きの新鮮なホルモンが届いたら仕込みの始まり。どて煮のモツを丁寧にさばいて串を打つ。妹のミケは肉問屋から串打ちモツを仕入れようと言うが姉のトラは「あ・か・ん」と言う。なぜなら、丁寧な仕込みは死んだ父がこの店を屋台から始めた頃からのやり方だから。モツの仕込みが終われば、おでんの仕込み、一品料理の仕込みと開店まで大忙しだ。

開店時間になると、どて煮の美味しそうな匂いにつられてお客さんが集まってくる。ビールにどて煮。串カツにおでん。次々と常連さんが顔を出す。10時の閉店時間まで店には笑いがたえない。いい店だ。

いわゆる大衆居酒屋。仕込みは丁寧で代々継ぎ足している秘伝のタレの味も抜群だけど、飾る必要のない気安さがある。明るくにぎやかな店内からは笑い声が響く。そんな雰囲気だから、一見さんにもハードルが低いはずだ。ガラガラっと引き戸を開けてヒョイとのれんをくぐれば「いらっしゃい!」の声が聞こえる。ちょっとくらい混んでいても、気を利かせた常連さんがつめて席を作ってくれる。

「生ビール!」と声をかける。「ここはどて煮がオススメだよ」と常連さんに教えてもらう。それだけでもうトラさん、ミケさん、常連さんとは顔なじみだ。仕事で悩んでいたことも笑い飛ばせる。たっぷり飲んで食べてもお代は良心価格だ。

トラさん、ミケさんにたくさんのエピソードがあるように、常連さんひとりひとりにもそれぞれのエピソードがある。すっかりできあがった彼らから、そんな話も聞けるだろう。でも、あまりしつこいとトラさんに怒られちゃうからホドホドにね。

勘定を済ませて外に出れば酔った身体に夜風が心地よい。一日の終りに味わうささやかな幸せ。「トラとミケ」のような店は私たちの身近にある。「トラとミケ」は日本中にある。

緊急事態宣言。外出自粛。休業要請。「トラとミケ」はどうしているだろうか。トラさんは、ミケさんは、常連さんたちは、どうしているだろうか。

案外のんきにしているかもしれない。そうであってほしい。いつかまた「トラとミケ」ののれんをくぐる日を待ち望んでいる。