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南方熊楠+杉山和也+志村真幸+岸本昌也+伊藤慎吾「熊楠と猫」(共和国)-博覧強記の天才にして強烈な変態南方熊楠の強すぎる猫愛が面白い!

南方熊楠は、1867年5月18日に生まれたとのことで、昨年(2017年)が生誕150年だったわけです。南方熊楠の名前は、多くの方々、自然科学に興味がある方なら特によく知られているだろうと思います。そういう方面には疎い私でさえ、南方熊楠という名前だけは知っているくらいです。

「で、南方熊楠って何をした人なの?」

と言う方もおられるでしょう。なので、本書「熊楠と猫」の「第一章 南方熊楠ってどんな人」から以下記述を抜粋しておきます。

南方熊楠(1867-1941)と言えば、民俗学や植物学(特に菌類や粘菌〔変形菌〕)の領域で、世界を股にかけて気焔を吐いた博覧強記な在野の学者として知られている。また反面。自在に反吐を吐いて気に食わない人を追い返すとか、年中裸で過ごしていたとか、破天荒で奇行の多い、一風変わった人物としても知られている。

南方熊楠という人は、とにかくありとあらゆる分野の研究で名を成していて、特に菌類や粘菌に関しては新種を発見するなど世界に認められた植物学者です。一方で、自由自在に反吐を吐くことができるという特技(?)を持っていたとか、一般常識では計り知れない人物でもあります。天才すぎて訳のわからない人物の代表格と言えるのではないでしょうか。

(他にも、友人宅にあった百科事典をその場で暗記して家に帰り書き写したとか、キューバでサーカス団に入っていたとか、どこまで本当かわからないエピソードもあると本書には書かれています)

そんな天才にして変態の南方熊楠は、猫が大好きでした。彼の日記や書簡にもかなりの頻度で猫が登場しています。そこに着目して南方熊楠という人物を研究しまとめたのが、本書「熊楠と猫」ということになります。

本書は、熊楠が書き残した膨大な日記や書簡、論文、その他の文書を読み解き、それらの中で猫がどのような存在として描かれているか、熊楠が猫に対してどのような愛情を示してきたのか、どのように接していたのかを通じて、熊楠にとっての猫の存在意義を明らかにしています。

熊楠は、猫の生態を研究材料としているわけではありません。熊楠と猫の関係は、飼い主とペットであったり、猫好きな人と猫たちという立ち位置です。とにかく、猫が好きで好きでたまらないというのが、熊楠の猫に対する感情なのです。

猫という動物の存在から南方熊楠の人物像に迫っていく本書は、ジャンルとしては人物研究の研究書ということになると思います。しかし、研究書だといって堅苦しい内容ではまったくありません。むしろ読みやすいです。そして、とにかく面白い。それは、南方熊楠という人物の個性的な面が猫の存在によってより一層際立っているからだと思います。

熊楠の特技は自在に反吐を吐くこと、とのことですが、猫とのエピソードにもその特技をいかしたものが紹介されています。それは、1905年(明治38年)12月27日の熊楠の日記の記載。

二葉〔料亭〕にて飲、牛肉食ふ。入湯。それより台所に之、野田貞吉方の猫を見、予へど吐き食はす。酒くさくて食はぬ分は予又食ふ。之を見て辰次郎氏、門へ走り出、へどはく

料亭で飲食してきたら、台所に猫がいたので反吐を吐いて食べさせたのだが、酒臭い分は猫も食べなかったので熊楠がもう一度食べたと書かれています。その様子をみていた辰次郎という少年が気分が悪くなってしまって吐いてしまったということも。それはそうですよね。目の前で反吐を吐いてそれを猫に食べさせているだけでも気持ち悪い光景なのに、猫が食べなかった反吐を熊楠がまた食べたわけですからね、想像しただけでも気持ち悪いです(笑)

とまあ、熊楠の変人・変態ぶりも十分に楽しめる1冊になっていると思います。南方熊楠ファンの方にも、猫好きの方にもオススメです。