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「「ウルトラQ」の誕生」白石雅彦/双葉社-昭和~平成~令和と続くウルトラシリーズの出発点となった「ウルトラQ」誕生の裏側に迫るドキュメンタリー

 

 

時代が令和となった現在もシリーズ作品が制作・放送されている『ウルトラシリーズ』(2023年9月現在は「ウルトラマンブレーザー」が放送中)。その記念すべき最初の作品となったのが、1966年(昭和41年)1月から放送開始された「ウルトラQ」である。

本書は、「ウルトラQ」放送開始から50周年となる2016年に刊行されたドキュメンタリーである。テレビでの本格的な怪獣特撮ドラマのパイオニア的な番組である。「ウルトラQ」とその後に続く「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」によって怪獣ブームが巻き起こり、今ではプレミア価格で取引されるソフトビニールの怪獣人形を私も買ってもらった記憶がある。(私の場合は、この初期3部作ではなく、「帰ってきたウルトラマン」以降の作品がほぼリアルタイムで視聴できていた世代)(ソフビの怪獣人形は相当な数持っていた記憶があるが、小学生の時の引っ越しか何かのタイミングで処分したかもしれない。今も持っていたら高値で売れたかも(笑))

途中何回か空白の期間はあるが、60年近くにわたって作品が制作されてきたウルトラシリーズ。その記念すべき第1作となった「ウルトラQ」は、どのような意図をもって企画され、どのような経緯で制作され、放送に至ったのか。そのプロセスを様々な資料や文献、関係者の証言などから徹底的に検証したのが本書である。

読んではじめて知ったのは、円谷プロでは「ウルトラQ」と並行して「WoO」という番組の企画もあったこと(「WoO」はフジテレビで放送される予定になっていた)、「ウルトラQ」が企画段階では「UNBALANCE」というタイトルで進んでいたが、1964年の東京オリンピック体操競技で連呼された“ウルトラC”という言葉を受けて「ウルトラQ」というタイトルになったこと、当初はアメリカの「ミステリーゾーン」のようなスタイルの番組を目指していたが、パイロット版をみたテレビ局側の意向もあって怪獣路線に舵を切ることになったことなどの「ウルトラQ」が誕生するまでの制作陣の苦労や紆余曲折だった。特撮技術者としての矜持から最高の作品に仕上げようと奮闘する円谷英二。彼の猪突猛進さと完璧を求める姿勢に振り回されるスタッフたち。視聴者により良い作品を届けようという思いは共通であっても、プロダクションやテレビ局にも予算その他様々な制約はあり、そういった制約をいかにクリアして品質の良い作品を届けるかはいつの時代でも頭を悩ませるところだろう。そういった部分も含めて、本書は「ウルトラQ」誕生までの人々の葛藤を明らかにしていく。

ウルトラQ」というテレビの歴史に輝く番組について書かれたノンフィクション、ドキュメンタリーはこれまでにも数多く書かれてきた。資料を集め、関係者の話を聞き、その内容をまとめて書き起こしたような書籍も星の数ほど存在するかもしれない。著者自身も『まえがき』の中で、「特撮関連の本は多く出版されている」としたうえで、本書は、「それら(資料やインタビュー)の情報を統合し、一つの番組が生まれ、発展していくさまを描こうとした」と記している。一般的なムック本の類とは違う、著者なりの考察を盛り込んだ内容になっていると思う。ひとつの番組を生み出されるまでには、これだけ多くの人の思いがあり、苦労があるのだということを知ることができるだろう。それは、番組制作に特化したものではなく、我々の仕事にも共通する部分だと思う。産みの苦しみはどんな仕事にも存在する。そのことを本書を通じて再認識した気がする。