タカラ~ムの本棚

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「ボンド街の歯科医師事件」H・H・クリフォード・ギボンズ/平山雄一訳/ヒラヤマ探偵文庫-持ち主しか知らないはずの金品が何者かに盗まれる事件が続発するロンドン。名探偵セクストン・ブレイクが事件の謎に迫る!

 

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イギリスでシャーロック・ホームズと肩を並べる人気を博した名探偵セクストン・ブレイク。200~300人の作家により4000もの作品が書かれてきたというセクストン・ブレイクの物語を現代に蘇らせるヒラヤマ探偵文庫の「セクストン・ブレイク・コレクション」の第3弾が「ボンド街の歯科医師事件」である。表題作の他に、「金歯」という短編も収録されている。

ロンドンでは、謎の盗難事件が相次いでいた。持ち主しか隠し場所を知らないはずの債権や金品が何者かによって盗み出されているのだ。犯人は、どのようにして隠し場所を知ったのか。その手口がまったくわからずスコットランドヤードは手をこまねいている状況だった。

クラブの「デイリー・メール」紙で一連の事件についての記事を読んでいた冒険家のジョン・ロウレス閣下は、別のクラブ員から新聞には取り沙汰されていないが、同じような状況で多くの会社から情報が漏洩していることも知らされる。ロウレス閣下は、友人である名探偵セクストン・ブレイクをベイカー街に訪ねる。

ブレイクは、スコットランドヤードから今回の事件の捜査を依頼されていた。ブレイクとロウレスは、すべての事件の被害者に共通することとして、彼らがアガメムノン・クラブの会員であることを足がかりに捜査を開始する。そして、3人の怪しい人物を特定する。ジョン・コードナーという有名なスポーツマン、サッタースレー卿、ウエストエンドのフューラスという歯科医師である。こうしてブレイクは、友人のロウレス、助手のティンカーとともに事件の捜査を進めていく。すると、事件の背後に、ブレイクの仇敵である大犯罪者キュー教授とアイヴァー・カーラック伯爵の存在が浮き彫りになってくる。セクストン・ブレイクは、彼らが企てる事件の真相を暴くことができるのだろうか。

ヒラヤマ探偵文庫の「セクストン・ブレイク・コレクション」の過去2作(「柬埔寨の月」、「謎の無線電信」)は、それぞれ大正時代に、加藤朝鳥、森下雨村といった文筆家が週刊誌等に訳載した作品を単行本化したものだった。本作は初めて、ヒラヤマ探偵文庫の平山雄一氏による原著からの新訳作品である。そのため、原著者名もH・H・クリフォード・ギボンズであることが明記されている。(過去2作は訳載時には著者名の表記がなく、その後の調査で判明している)

過去2作は、東南アジアのカンボジアであったり、中南米のカリビアン海であったりとロンドンだけでなくワールドワイドに活躍の場を駆け巡っていたセクストン・ブレイクであるが、本作ではロンドンを離れることはない。過去2作同様にアクションシーンもあるが、今回の目玉は、“本人しか知り得ない情報を犯人一味がどのような手段で聞き出したか”という部分であり、タイトルにあるとおり、ボンド街にある歯科医院を舞台にして、ある種トンデモないカラクリによって事件は起こされているのである。そのカラクリは、もちろん物語上の架空のギミックであるが、非常に面白い発想だと思う。セクストン・ブレイクの物語は、複数の作家によって多数の作品が書かれているのがポイントなので、過去2作のようなアクション満載の作品も、本作のようなギミックで味付けされた作品も、どちらも存在するのだろう。また、3作品をとおして主役であるセクストン・ブレイクと助手のティンカー、悪役として登場するキュー教授やカーラック伯爵といったキャラクターも登場してきて、物語のパターンのようなものも明らかになってきているので、そうしたキャラたちの動向も含め、今後ヒラヤマ探偵文庫からどのようなタイプのセクストン・ブレイク作品が紹介されるか楽しみになる。

また、本書にはアガサ・クリスティ研究の第一人者である数藤康雄氏による解説「解説に代えてークリスティはセクストン・ブレイク物を読んでいた?」が収録されている。その中では、ミステリの女王であるアガサ・クリスティが、セクストン・ブレイク物の作品を読んでいたのではないかということ、クリスティの作品の中にセクストン・ブレイク物のような活劇娯楽作品の影響を受けている作品があるということが考察として書かれていて、とても興味深い解説となっている。

シャーロック・ホームズと同じくらいの人気があり、アガサ・クリスティも読んでいたと思われる名探偵セクストン・ブレイクの物語。機会があればぜひ読んでみてほしい。