タカラ~ムの本棚

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「ミス・マープルの名推理 予告殺人」アガサ・クリスティー/羽田詩津子訳/早川書房(ハヤカワ・ジュニア・ミステリ)-“殺人をお知らせします” 地元紙の広告欄に掲載された殺人予告。そして事件は起きる。

 

 

昨年(2020年)は、アガサ・クリスティーの作家デビュー100周年&生誕130周年記念イヤーとして、早川書房が一大キャンペーンを展開した。過去に『クリスティー文庫』として刊行されていた数ある作品の中から、6作品が新訳刊行された。
参考:2020年はアガサ・クリスティー・イヤー! デビュー100周年&生誕130周年記念の新訳版ラインナップ発表

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本書「ミス・マープルの名推理 予告殺人」は、早川書房が新しく立ち上げた叢書シリーズ『ハヤカワ・ジュニア・ミステリ』のラインナップとして刊行された作品で、翻訳はクリスティー文庫の「予告殺人〔新訳版〕」と同じものになっているようだ。(読み比べていないので推測です)

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舞台はチッピング・クレグホーンという村。毎週金曜日に配達される地元紙《ノース・ベナム・ニューズ・アンド・チッピング・クレグホーン・ガゼット》にその奇妙な広告が掲載されたのは、10月29日のことだった。

殺人をお知らせします。十月二十九日金曜日、午後六時半にリトル・パドックスにて。お知り合いの方々にご出席いただきたく、右ご通知まで。

そして、好奇心にかられてリトル・パドックスに集まった人々の前で事件は起こる。突然、部屋の電気が消え、「手をあげろ!」という男の怒鳴り声、それに続き二発の銃声が鳴り響く。さらに三発目の銃声。直後、耳から血を流して佇むリトル・パドックスの主人レティシアブラックロックの姿と床に倒れて息絶えた男の姿があった。

いったい誰がこの殺人を計画し実行したのか。死んだ男が犯人で、自殺または事故なのか。それとも、この日リトル・パドックスに集まった人たちの中に真犯人がいるのか。寂れて閉鎖的な小さな村で起きた事件の真相解明に、警察は手を焼くことになる。

ここに登場するのが、アガサ・クリスティー作品ではおなじみの素人探偵ミス・マープルだ。クリスティー作品における名探偵として有名なのはエルキュール・ポアロだが、ミス・マープルポアロに匹敵する名探偵である。編み物や刺繍を趣味とする老婦人だが、その推理力は卓越している。

村にあるホテルに滞在していたミス・マープルは、この事件に興味を持ち、謎の解明に乗り出す。彼女は、警察関係者や事件に関わった人たちの話を聞き、それを糸口にして事件の本質を見抜いていく。

これまで、アガサ・クリスティー作品の有名どころは何冊か読んできたが、いずれもエルキュール・ポアロのシリーズで、ミス・マープルのシリーズ作品を読むのは本書が初めてだった。ミステリーのパターンとしては、ポアロシリーズや他の作品と近いものだろうと思う。ただ、優しそうな老婦人が鋭い洞察力と推理力で警察も気づかないような事実を見抜き、事件の謎を解き明かしていくストーリーは、やはり面白いと感じた。ストーリー構成の見事さや事件に関わる動機やトリックの巧みなところも、作品を面白くする要素になっていて、ミステリーの女王と呼ばれる所以を再認識した気がする。

本書は、『はじめての海外文学vol.6』で訳者の羽田詩津子さんが、子ども向け部門として推薦している作品になっている。本書がラインナップに入っている『ハヤカワ・ジュニア・ミステリ』叢書シリーズは、ターゲット読者が小学校高学年・中学生からとなっているので、春休みの読書にオススメしたい。王道の翻訳ミステリーを足がかりに若い読者が海外文学をもっと読んでほしいなと思います。