タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「ジョージと秘密のメリッサ」アレックス・ジーノ/島村浩子訳/偕成社-ジョージは10歳の男の子、だけど心は女の子。シャーロットが与えてくれた勇気と希望

 

 

身体の性と心の性が一致しない性的マイノリティーを“トランスジェンダー”といいます。

アレックス・ジーノ「ジョージと秘密のメリッサ」の主人公ジョージは男の子です。女の子が読む雑誌をこっそりと隠れて読んだりしています。雑誌の中でキラキラと輝く水着姿のモデルの女の子たちをみて、自分も同じようにカワイイ水着を着て彼女たちの中に溶け込みたいとうっとり考えています。そのときは「自分はメリッサと名乗ろう」と考えています。

ジョージは、身体は男の子ですが、本当は自分は女の子なんだと思っているトランスジェンダーです。でも、そのことはジョージだけの秘密です。心が女の子だということも、女の子としての自分がメリッサだということも、ママに兄のスコットにも話せません。

ジョージのような性的マイノリティーは、少なからずジョージのように自分の性自認について悩みを抱えています。ほんの少し前まで、性的マイノリティーたちは偏見の目で見られていました。LGBTQといわれる人たちが社会的に認められるなったのは、まだまだ最近のことですし、日本ではまだまだLGBTQの人たちを「生産性がない」などと蔑むような人がいて、世界の中でも性的マイノリティー差別、女性差別については圧倒的に後進国です。

ジョージが通う学校では、毎年春になると一年生から四年生までの全員が「シャーロットのおくりもの」を読むことが伝統になっています。ジョージたちは、四年生として、この本を劇として演じることになります。ジョージは、シャーロットの役をやりたいと思いました。でも、シャーロットは女の子の役柄です。ジョージは、シャーロット役がやりたいことを、たったひとり親友のケリーだけにそっと打ち明けます。するとケリーは、まるで当たり前のように「シャーロット役でオーディションを受ければいい」と言ってくれたのです。

前に書いたように、ジョージのような性的マイノリティーの人たちがカミングアウトできないのは、そのことを周囲の人たちが理解してくれないと思っているからです。でも、ケリーのように自然に受け入れてくれる理解者もけっして少なくはありません。「ジョージと秘密のメリッサ」でも、他のクラスメイトや先生は、ジョージのことを女々しいとバカにしたり、女の子の役柄であるシャーロットを男の子のジョージが演じたいと希望していることを批判したりします。ですが、ケリーや一部の人たちは彼のことをトランスジェンダーとして受け入れ、向き合ってくれます。現実の世界でも、私たちはケリーのように理解し受け入れることが大切だと思います。

残念ながらシャーロット役にはなれなかったジョージですが、ケリーとある企みを講じて劇の本番ではシャーロットを演じることになります。そして、そのことで自分がトランスジェンダーであることに向き合い、ママやスコットにもカミングアウトするのです。

10歳の子が、自分の身体と心の性的な不一致と向き合い、それを周囲の人たちにキチンと伝えて理解してもらうことは、とても勇気のいることです。ジョージもとても悩みます。繰り返しになりますが、ジョージのような人たちを生き辛くしているのは、私たちの無知と誤った認識からくる偏見です。誰もが普通に暮らしやすい社会を作るためにも、この本のような作品を通じて、理解や認識を深めていければと思いました。