- 作者: エーリヒケストナー,ヴァルター・トリアー,Erich K¨astner,池田香代子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/06/16
- メディア: 単行本
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女の子はぎょうぎよく、でもきっぱりと言うと、おちついて。しっかりとステップをおりる。(中略)ふいに、女の子はびっくりして目を見ひらく、ルイーゼをまじまじと見つめている! ルイーゼも目を丸くする。ショックをうけて、新入りの女の子の顔を見ている!
とある夏、ビュール湖のほとりのゼービュールの子どもの家には、夏休みをすごす女の子たちが集まっていました。ウィーンからやってきたルイーゼ・パルフィーもそのひとりです。冒頭に引用したのは、あとからやってきた女の子とはじめて顔をあわせたときの場面の描写になります。
エーリヒ・ケストナー「ふたりのロッテ」は、両親の離婚ではなればなれになっていた双子の女の子、ルイーゼ・パルフィーとロッテ・ケルナーが偶然に出会ったことで、家族が再生していく物語です。
自分とそっくり同じ顔の人間が突然目の前に現れたら? そのときに冷静でいられる人は少ないのではないでしょうか。私ももし目の前に自分と同じ顔の人間が現れたら、相当にびっくりするでしょう。ましてや、その相手が双子のきょうだいだったとしたら、素直に受け入れるのも難しいと思います。
ルイーゼとロッテも、出会ってすぐのときは互いを敬遠していました。ルイーザは、ロッテにいじわるしたりします。
ふたりが双子と知った周囲のおとなたちは、むりにでもふたりを仲良くさせようとします。ですが、やはり最初はギクシャクしてしまいます。それでも、自分たちが双子だと気づいたふたりは意気投合し、ある秘密の計画を企てるのです。
もともと他人同士の夫婦が、ちょっとした出来事をきっかけに仲違いし離婚してしまうことがあります。そんなとき一番の犠牲者となるのは子どもたちです。ルイーゼとロッテも、両親の離婚によって物心つく前に、ルイーゼは音楽家である父に、ロッテは出版社の画像編集者である母に、それぞれ引き取られてルイーゼはウィーンで、ロッテはミュンヘンで暮らすことになります。
子どもの家で再会したふたりは、互いに入れ替わって、ルイーゼはロッテとしてミュンヘンの母の元へ、ロッテはルイーゼとしてウィーンの父の元へ帰ります。そこでふたりは、それぞれにはじめて別れた親と向き合うことになります。
ルイーゼとロッテの願いは、家族がまた一緒に暮らすことです。でも、それは簡単に実現できることではありません。さまざまな事件が起こります。嫌な人にも出会います。それでも、周囲の人たちは彼女たちを理解し、支えてくれます。
訳者あとがきによれば、「ふたりのロッテ」はケストナーが第二次大戦終戦後に最初に発表した小説だといいます。ナチス政権時代、ファシズムを批判していたために、作家としての活動を禁止され、その著作は焚書の対象になったそうです。そんな苦しい日々を過ごした戦争がおわって最初に書かれた作品が、子ども向けの「ふたりのロッテ」であったということに、ケストナーの作家としての矜持と平和を愛する気持ち、子どもに対する優しさが感じられるように思います。
と、まあ難しいことを書いてしまいましたが、本書はそんな難しいお話ではありません。双子の姉妹が願った幸せは、ふたたび取り戻せるのか。かわいい子どもたちの無邪気さと、ちょっとだけ彼女たちに振り回される大人たちの滑稽さと、そんな人たちの物語を楽しんで読む作品だと思います。