タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「魔眼の匣の殺人」今村昌弘/東京創元社-「男女二人ずつ、四人が死ぬ」。予知能力を持つとされる老女が告げた予言の通りに人が死んでいく。年末のミステリランキングを席巻した前作に続くクローズドサークルミステリ

 

 

2017年の各種年間ミステリランキングで軒並み1位を獲得し、映画化もされたデビュー作「屍人荘の殺人」に続く第2弾。剣崎比留子と葉村譲のコンビが、またしてもクローズドサークルで発生した殺人事件の謎にせまる本格ミステリ小説である。

 

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前作「屍人荘の殺人」で描かれた事件から数ヶ月後、大学のミステリ研究会での平穏な日常を取り戻していた比留子と葉村だったが、沙可安湖での事件にも関わっていたとされる斑目機関について、新たな情報を入手したことで再び事件に巻き込まれることになる。

斑目機関が、極秘で超能力実験を行っていたという情報を得た比留子の葉村は、その施設があったとされるW県I郡の旧真雁地区のある『好見』という場所へ向かう。その道中、ふたりは今回の事件に一緒に巻き込まれることになる人々と出会う。

未来の出来事を予見して絵にする能力を持つ少女十色真理絵と彼女の後輩でオカルト好きの少年茎沢忍。
ツーリング中にガス欠になり好見を訪れていた王寺貴士。
好見の元住人で墓参りに訪れていた朱鷺野秋子。
大学で社会学教授をしている師々田巌雄とその息子純。

なぜか無人となっている好見で偶然出会った8人は、好見のさらに奥にある『魔眼の匣』と呼ばれる建物を訪れる。そこには、サキミという老女と彼女の世話をする神服奉子という女性、オカルト雑誌「月刊アトランティス」の記者臼井頼太がいた。

物語の登場人物たちが『魔眼の匣』にそろったところで事件が起きる。好見と『魔眼の匣』をつなぐ唯一のルートである橋が何者かによって燃やされたのだ。こうして、葉村たちは『魔眼の匣』に閉じ込められる。クローズドサークルの完成だ。そして、サキミの予言が彼らに告げられる。

十一月最後の二日間に、真雁で男女が二人ずつ、四人死ぬ

これで物語の舞台設定が整った。外部との接続をすべて絶たれ孤立した場所(クローズドサークル)と謎に満ちた恐ろしい予言である。『魔眼の匣』に集った11名以外には誰もその場所には近づけない状況で、サキミの予言どおりに事件は起きる。

まず、臼井頼太が地震による落石に巻き込まれる。
次に、サキミが毒を盛られる。
次に、十色真理絵が銃で撃たれ、動揺した茎沢は、半狂乱になり鬱蒼とした真雁の林に姿を消す。
そして、比留子が姿を消し、彼女のスニーカーとストールが轟々と勢いを増す滝のほとりで発見される。

果たして、彼らの死や失踪は連続した事件なのか、それとも偶然の事故の連鎖なのか。そして、一連の事件・事故は本当にサキミの予言が現実化したものなのか。サキミと斑目機関の関係は?

前作「屍人荘の殺人」が、読者の度肝を抜くような、賛否の分かれる設定の中で起きる事件を描いていたが、本作「魔眼の匣の殺人」も前作よりはスケールダウンしているが、かなり現実離れした設定になっている。前作よりは多少現実味はあるかもしれないが。

「屍人荘の殺人」「魔眼の匣の殺人」は、それぞれに閉ざされた空間で起きる謎の殺人事件を探偵コンビが解き明かすミステリ小説である、一方で、シリーズとしては、斑目機関という組織と剣崎比留子の関係が謎として提示されている。比留子には、「奇怪な事件を引き寄せる」体質をもっていて、その体質の謎に斑目機関が関わっているのではないかという謎だ。これは、剣崎比留子と斑目機関との戦いの物語でもある。

本シリーズのような本格ミステリ小説はあまり得意ではないのだが、本作については2019年2月に行われた「東京創元社2019年新刊ラインナップ発表会」で作者の今村昌弘氏が登壇され、会場では特別先行発売が行われるなど、東京創元社イチオシの国内ミステリとして紹介されていたことや、前作「屍人荘の殺人」が映画化されるなど話題になっていたこともあり、年末年始に手にとってみた。本格ミステリへの苦手意識は変わらないが、小説としてはとても読みやすかった。