タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

「うもれる日々」橋本亮二/十七時退勤社-繁茂するデスクにうもれる出版営業のうもれない日々を記したエッセイ

 

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著者の橋本さんと最初にお会いしたのは、双子のライオン堂で開催された「本を贈る」(三輪舎)の読書会でした。橋本さんも出版営業という立場で「本を贈る」に執筆していて、読書会のゲストとして参加されていました。読書会後の打ち上げでいろいろとお話をさせていただいたのを覚えています。

 

s-taka130922.hatenablog.com

 

その後、2019年3月の「本のフェス」や7月の「BOOK MARKET」の会場などでお会いする機会があって、そのたび少しずついろいろな話をさせていただきました。その橋本さんが、2019年11月の「文学フリマ」に出店することになり、作られたZINEが本書「うもれる日々」になります。版元は、橋本さんが社長、製本会社勤務の笠井留美子さん(「本を贈る」執筆者のおひとり)が副社長となっている『十七時退勤社(じゅうななじたいきんしゃ)』です。

吉祥寺にある「BOOKSルーエ」の店長花本武さん(「十七時退勤社」顧問)から「ハッシさんも文学フリマやろうよ」と誘われてスタートした出店への道。少しずつ書かれてきたエッセイのひとつひとつに、橋本さんのさまざまな思いが感じられます。

文学フリマ出店に向けて、「BOOKSルーエ」の花本さん、副社長の笠井さんとあれこれと話している様子を記したエッセイからは、3人が十七時退勤社のことを心底楽しんでいることが伝わってきます。

ご自身が子どもだった頃のゲームの話を記した「九〇年代の頃」は、世代や家族構成は全然違うけれど、私にも同じような経験があって親近感がわきますし、ご自身の子どもたちと過ごす夏の話も微笑ましい。そして、大好きな高校野球の話も。

とりとめもない日常は誰にでもある当たり前の日常なのだけど、こうしてエッセイとして読むと、当たり前だからこそ嬉しかったり楽しかったり悲しかったりするのだなと感じます。誰かの楽しかったり悲しかったりを読んで共感できるところがエッセイの魅力なのだと思います。「うもれる日々」はそういう共感が強いように思えます。

橋本さんは、出版営業で各地の本屋さんに足を運ぶと何かしら本を買うと言います。だから読書量も多い。「うもれる日々」でも読んできたさまざまな本について書いています。

岸政彦「図書室」
ルシア・ベルリン/岸本佐知子訳「掃除婦のための手引き書」
絲山秋子「夢も見ずに眠った。」

『出版社の営業であること』というエッセイの中では、いくつかの本のタイトルを並べてこう書いています。

挙げていけばきりがないのだが、これらのタイトルがいつも頭の中をめぐっていて、心がアラートを出す手前に知らずのうちに寄り添ってくれることがとてもありがたい。
右記のものはすべて読んでいる。繰り返し読んでいるものであるけれど、積読であったり、書店で見かけてタイトルをぼんやりと記憶しているだけのものでもそうだと思う。言葉はいつもひとを助けるからだ。

言葉がひとを助ける、というのは本当にそうだなと思います。私が本を読む理由で大きいのも、ページに書かれている言葉の数々で苦しかったり辛かったりするときに自分が救われるような気がするからだと思うのです。本は、たくさんの気づきを与えてくれます。本は、たくさんの知識を与えてくれます。ときには間違うことがあるけれど、基本的に本は私たちを裏切らないと思っています。

出版営業として本を届ける仕事をしてきた橋本さんは、本が読者に与えるパワーをよく知っているのだと思います。十七時退勤社というレーベルから自分で本を作ることで、そのパワーをよりいっそう実感したのではないかと思います。

十七時退勤社は、今後も年に1冊程度、秋の文学フリマに合わせて新刊を出していくことを考えているそうです。2020年の秋にどんな作品ができあがるのか。今から楽しみにしています。