タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

おざわゆき「あとかたの街(全5巻)」(講談社)-戦争末期、日本全土を火の海にした米軍の空襲で名古屋の街も灰燼と化した。これは、名古屋大空襲を生き抜いた著者の母の記録です。

あとかたの街 コミック 1-5巻セット (KCデラックス BE LOVE)

あとかたの街 コミック 1-5巻セット (KCデラックス BE LOVE)

 

 

太平洋戦争末期になると、日本本土への米軍による空襲が本格化する。当初、軍需工場を攻撃対象とした空襲は次第に拡大し、民間人に対しても無差別爆撃が繰り返されるようになる。

太平洋戦争時の本土空襲というと、昭和20年3月10日未明の東京大空襲が思い起こされるが、空襲攻撃を受けたのは東京だけではない。北海道から九州まで、ほぼ日本全土が攻撃対象であり、横浜、大阪、神戸といった都市も東京同様に攻撃を受けた。

おざわゆき「あとかたの街(全5巻)」は、名古屋大空襲を中心に、戦争末期から戦後にかけて生き抜いた著者の母の体験を描く。本書および「凍りの掌」により第44回日本漫画家協会賞を受賞している。

s-taka130922.hatenablog.com

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沼田真佑「影裏」(文藝春秋)-第157回芥川賞受賞作。心を許した友、愛した人の記憶。何も見えていなかったことを知ったあの日の出来事

影裏 (文春e-book)

影裏 (文春e-book)

 
影裏 第157回芥川賞受賞

影裏 第157回芥川賞受賞

 

 

第157回芥川賞を受賞した沼田真佑「影裏」は、東北・岩手を舞台に東日本大震災前後の喪失を描いている。

主人公の「わたし」は、性同一性障害の恋人がいた過去があり、親会社からの異動で岩手にある今の会社に来た。そこで、日浅という同僚と知り合い友人となる。その日浅が、突然会社を辞めていき、いつしかその関係も疎遠となった頃に〈あの日〉が訪れる。どうにか生活に落ち着きが戻ってきた連休明けに、「わたし」は職場の西山さんから「日浅が震災で亡くなったらしい」と告げられる。「わたし」は、日浅の生死を確かめるために彼の実家を訪れ、そこで「わたし」には見せることのなかった日浅のもうひとつの顔を知ることになる。

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オリヴィア・スネージュ:文/ナディア・ベンシャラル:写真「パリの看板猫」(青幻舎)-カフェ、書店、ホテル。パリの店先には猫がよく似合う

パリの看板猫

パリの看板猫

  • 作者: オリヴィア・スネージュ,ナディア・ベンシャラル
  • 出版社/メーカー: 青幻舎
  • 発売日: 2016/03/03
  • メディア: 単行本
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ふと立ち寄った店で、品物が整然と並ぶ陳列棚の片隅に丸くなっている猫がいると心がほっこりする。不思議なもので、家で飼っているペットは犬なのに、店の看板動物というと猫の方がいい。

「パリの看板猫」は、パリにあるカフェや書店、ホテルなどでお客様の癒やしの存在となっている看板猫を集めた写真集である。〈パリ〉というだけでもオシャレだというのに、紹介されている猫たちのなんとオシャレなことよ。いや、よくよく見れば日本の喫茶店や古本屋の店先で、何事にも「我関せず」と寝転んでいる猫と根本的には同じ動物なのだけど、〈パリの猫〉というだけで、数段格上のような気がしてくる。

本書には、18の店で看板猫としてお客様をお迎えしている猫たちが紹介されている。

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金呂玲(キム・リョリョン)/金那炫(キム・ナヒョン)訳「優しい嘘」(書肆侃侃房)-その日チョンジが死んだ。彼女はなぜ自殺したのか。そして、残された者はどう生きればよいのか。

優しい嘘 (Woman's Best 韓国女性文学シリーズ2)

優しい嘘 (Woman's Best 韓国女性文学シリーズ2)

 

 

明日を迎えるはずだったチョンジが、今日、死んだ。

キム・リョリョン「優しい嘘」は、この文章からはじまる。文字通り、ひとりの少女の自殺がすべての物語の発端にある。

ある日、突然自ら命を絶った少女チョンジ。なぜ彼女は自殺したのか。チョンジの姉マンジは、妹の自殺の真相を知りたいと考える。

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大岡昇平「野火」(新潮社)-極限状態におかれたとき、人間の心は崩れ壊れる

野火 (新潮文庫)

野火 (新潮文庫)

 
野火(新潮文庫)

野火(新潮文庫)

 

太平洋戦争末期。もう勝てる見込みなどまったくないフィリピンの戦場で、壮絶な飢えと絶望と闘いながら必死の抵抗を続ける日本軍。極限状態であらわれる人間の本性。

大岡昇平「野火」は、戦争の悲惨さ、極限状態におかれた人間の弱さとしたたかさを描き出した戦争小説の代表的な作品である。1952年に刊行され、第3回読売文学賞を受賞している。

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美谷島邦子「御巣鷹山と生きる~日航機墜落事故遺族の25年」(新潮社)-日航機墜落事故から32年。あの事故を語り継ぐことが空の安全に繋がることを信じて

御巣鷹山と生きる―日航機墜落事故遺族の25年

御巣鷹山と生きる―日航機墜落事故遺族の25年

 

1985年8月12日乗員乗客計524名を乗せた日航ジャンボ機123便羽田発伊丹行の飛行機が突如操縦不能に陥り、約32分間迷走した後群馬県御巣鷹山の尾根に墜落した。死者520名生存者4名。単独機の事故としては現在でも世界最大の惨事である。

著者は、この事故で当時9歳の次男・健を失った。健は初めての飛行機で大阪の親戚の家に遊びに行く途中だった。

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デイヴィッド・フィンケル/古屋美登里訳「帰還兵はなぜ自殺するのか」(亜紀書房)-戦争によって傷ついた身体は治せるかもしれないが、壊れた心を治すのは簡単なことではない

帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

 
帰還兵はなぜ自殺するのか 亜紀書房翻訳ノンフィクション

帰還兵はなぜ自殺するのか 亜紀書房翻訳ノンフィクション

 

読み終わっても言葉を見つけられないでいる。

大量破壊兵器保有していることを理由にアメリカがイラクに攻撃をしかけて始まったイラク戦争では、およそ17万人の米兵が戦争に駆り出され、4000人以上の戦死者、3万人に及ぶ負傷者を出した。そして、この戦争は、アメリカに帰還した兵士たちの心に大きな傷を残した。アフガニスタンイラクでの戦争からの帰還兵に自殺者が相次いだのだ。

デイヴィッド・フィンケル「帰還兵はなぜ自殺するのか」は、帰還兵の自殺問題を取材したノンフィクションである。

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