タカラ~ムの本棚

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

永井隆「長崎の鐘」(青空文庫)-1945年8月9日午前11時2分長崎の空に原爆は落ちた

長崎の鐘

長崎の鐘

 

1945年8月6日に広島に落とされた原子爆弾は、一瞬にして十数万人にも及ぶ犠牲者を出した。そして、3日後の8月9日には長崎に2発目の原子爆弾が投下された。

本書は、長崎医科大学(現在の長崎大学医学部)の助教授として勤務していた永井隆医学博士が書き記した長崎の原爆被害の記録である。原爆投下直前の8月9日の長崎医科大学の様子から始まる記録は、戦時下の混乱の中、いつもと変わらぬ1日を始めていた人々の生活が、原子爆弾の炸裂により一変する様を淡々した描写で記していく。

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読書探偵作文コンクール事務局編「外国の本っておもしろい!~子どもの作文から生まれた翻訳書ガイドブック」(サウザンブックス)-本を読むことの面白さを子どもたちの生き生きとした作文から再発見しました!

外国の本っておもしろい!  ~子どもの作文から生まれた翻訳書ガイドブック~

外国の本っておもしろい! ~子どもの作文から生まれた翻訳書ガイドブック~

  • 作者: 読書探偵作文コンクール事務局,越前敏弥宮坂宏美ないとうふみこ竹富博子田中亜希子
  • 出版社/メーカー: サウザンブックス社
  • 発売日: 2017/08/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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子どもの頃から本を読むのが好きでした。誕生日やクリスマスのプレゼントには本を買ってもらうような子どもでしたね。それがそのまま大人になっておじさんになっても続いているのですから、本を読む楽しさというのがどれほど普遍的なものなのか実感しています。

ただ、本を読むのは好きですが、どうにも苦手だったものがあります。夏休みの読書感想文です。今でこそこうして稚拙な文章を“レビュー”などと称して書き綴っては書評サイトやブログにアップして悦に入っていますが、子どもの頃は読書感想文を書くのが苦手で、毎年夏休みの終わり近くになってウンウンと唸りながら原稿用紙に向かっていたのを思い出します。

なぜ、読書感想文があんなに苦手だったのだろう。その答えが、本書「外国の本っておもしろい!」に掲載されている子どもたちの読書作文を読んでわかりました。

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エドワード・ケアリー/古屋美登里訳「望楼館追想」(文藝春秋)-「堆塵館」でその魅力にはまった作家のデビュー作。この物語には様々な《愛》が描かれていると感じた

望楼館追想

望楼館追想

 
望楼館追想 (文春文庫)

望楼館追想 (文春文庫)

 

 

エドワード・ケアリーという作家のすごさを知ったのは、「アイアマンガー3部作」の第1作「堆塵館」だった。

s-taka130922.hatenablog.com

ゴミの山の中に建つ「堆塵館」とよばれる屋敷を舞台にした物語は、発想の奇抜さも、ストーリー展開の巧みさも、キャラクターの造形も、すべてが魅力的で、読んでいて時間を忘れさせてくれる作品だった。その終わり方も衝撃的で「堆塵館」を読んだすべての人が「ここで終わるのか!」と驚愕し、第2作となる「穢れの町」の刊行を待ち焦がれることになった。まさか「穢れの町」のラストで同じ驚愕を味わうことになるとは知る由もなく...

s-taka130922.hatenablog.com

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M・R・ケアリー/茂木健訳「パンドラの少女」(東京創元社)-〈飢えた奴ら(ハングリーズ)〉と呼ばれる生ける屍が蔓延する世界で生き延びるための戦いがはじまる

パンドラの少女

パンドラの少女

 
パンドラの少女

パンドラの少女

 

 

物語は異様な光景から始まる。

10歳の少女メラニーは、隔離された施設で独房に暮らしている。他にも同じような子どもたちが、それぞれ独房に暮らす。メラニーたちは常に監視されている。彼女たちが独房を出るときは、頑丈な車椅子に両手足と頭を固定され、身動きができないように拘束される。なぜなら、彼女たちは〈飢えた奴ら(ハングリーズ)〉だからだ。

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エリザベス・ストラウト/小川高義訳「私の名前はルーシー・バートン」(早川書房)-母と娘がはじめて心を通わせた5日間は、彼女の人生の大きな分岐点となった

私の名前はルーシー・バートン (早川書房)

私の名前はルーシー・バートン (早川書房)

 
私の名前はルーシー・バートン

私の名前はルーシー・バートン

 

 

物語の主人公はルーシーバートン。作家。これは、彼女が入院していたときの、5日間の話。彼女と彼女の母がはじめて心を通わせた5日間の物語。

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松浦理英子「最愛の子ども」(文藝春秋)-松浦理英子が描く愛の形は、どこかいびつで不穏に見える。本書に描かれる少女たちの〈疑似ファミリー〉もやはりいびつで不穏だ。

最愛の子ども (文春e-book)

最愛の子ども (文春e-book)

 
最愛の子ども

最愛の子ども

 

 

松浦理英子が描く愛の形は、いつもどこかいびつで不穏な空気をまとっているように思う。映画化もされた「ナチュラル・ウーマン」は、女性同士の恋愛を赤裸々に描いた小説だし、「犬身」は愛する人の『犬になりたい』と願った主人公が本当に犬になって愛する人に飼われる物語だった。また、「親指Pの修行時代」では、ある日突然足の親指がペニスになってしまった主人公の悲哀をユーモラスに描き出していた。

最新作「最愛の子ども」は、前作「奇貨」からおよそ4年ぶりに発表された作品である。舞台となるのは玉藻学園という私立の中高一貫校。男女共学の学校だが、男子クラスと女子クラスに分かれていて、その女子クラスの生徒たちが主役だ。

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エラ・バーサド&スーザン・エルダキン/金原瑞人&石田文子訳「文学効能事典~あなたの悩みに効く小説」(フィルムアート社)-あなたのその悩み、文学が解決します

文学効能事典 あなたの悩みに効く小説

文学効能事典 あなたの悩みに効く小説

 

 

人間とは悩む生き物だ。人間関係の悩み、仕事の悩み、恋愛の悩み、病気の悩み、お金の悩み。悩みの種は尽きることがない。

何かに悩んだ時、それを解決してくれる何かにすがりつきたくなる。俗世を離れた遠い場所へ旅したり、セラピストのもとへ通って精神の安定を求めたり、街の占い師の言葉に救いを求めたりする。そんな〈救済〉のひとつに、『本を読んで現実の世界を離れる』という行為もあるのではないか。

「文学効能事典」は、サブタイトルに『あなたの悩みに効く小説』とあるように、様々な人生の悩みを解決する手助けとなる小説を紹介するガイドブックだ。

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