帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)
- 作者: デイヴィッド・フィンケル,古屋美登里
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
- 発売日: 2015/02/10
- メディア: 単行本
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読み終わっても言葉を見つけられないでいる。
大量破壊兵器を保有していることを理由にアメリカがイラクに攻撃をしかけて始まったイラク戦争では、およそ17万人の米兵が戦争に駆り出され、4000人以上の戦死者、3万人に及ぶ負傷者を出した。そして、この戦争は、アメリカに帰還した兵士たちの心に大きな傷を残した。アフガニスタン、イラクでの戦争からの帰還兵に自殺者が相次いだのだ。
デイヴィッド・フィンケル「帰還兵はなぜ自殺するのか」は、帰還兵の自殺問題を取材したノンフィクションである。
本書では、イラク帰還兵であるアダム・シューマンを軸に、戦場での苛酷な経験で心を病んでしまった軍人とその家族の苦悩を記していく。アダムは、戦場で心を病み本国へ帰還した。そこから彼の苦悩と恐怖との戦いが始まる。そして、それは彼の家族にとっても地獄のような日々の始まりであった。
アダムの妻サスキアは、少しでも彼の苦悩を理解し、彼に元のアダムに戻って欲しいと願う。しかし、時に無気力であり、時に暴力的であるアダムに翻弄され、次第に彼女自身も心に傷を負うようになっていく。子どもたちに当たってしまう自分に自己嫌悪し、アダムのPTSDを頭では理解していても、自分ばかりが理不尽に追い詰められているような気分に苛まれる。
軍も帰還兵のメンタルケアに手をこまねいている訳ではない。様々な回復プログラムを整備し、高度な専門性を有する担当者が帰還兵たちの心に寄り添い、回復を支援する。それでも、自殺者は後を絶たない。それほどまでに、戦場での経験は人間の心を壊すのだ。
私は、この本を読むまで、9.11同時多発テロから始まるアフガニスタン戦争、イラク戦争、そして現在も続いているシリア内戦に至る中東での戦争、紛争を遠い国の出来事として見ていた。ニュースで流れる映像では、戦場での表面的なことしか伝わってこない。ましてや、日本での報道は何に遠慮しているのか戦場での悲惨さを強く伝えようとしていないと感じる。自衛隊が現地に派遣されているということも、戦後の復興を支援する人道的な活動に従事しているのだと伝えられてきた。
だが、派遣された自衛官の中にも、帰還後に自殺した人がいるのだという。戦闘が行われていないはずの地域に、人道支援目的で派遣されている自衛隊員にも自殺者が出ていることは衝撃的だった。そして、地域やミッションの内容に関わらず、戦争という異常な状況、戦場という異常な場所が人間の心に刻みつける傷の深さを思い知った。
戦争とは愚かな行為であり、愚かな戦争に人々を巻き込むのは為政者たちだ。彼らの愚かな判断、愚かなプライドが戦争を起こす。その愚かさの犠牲者は、私たち国民であり、戦場に送られる若い兵士だ。彼らの命と為政者の愚かなプライド。どちらが守るべきものか考えるまでもないことだと思う。
もう、これ以上言葉を刻むことはできない。語るべき言葉が見つからない。