優しい嘘 (Woman's Best 韓国女性文学シリーズ2)
- 作者: 金呂玲,金那炫
- 出版社/メーカー: 書肆侃侃房
- 発売日: 2017/06/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
明日を迎えるはずだったチョンジが、今日、死んだ。
キム・リョリョン「優しい嘘」は、この文章からはじまる。文字通り、ひとりの少女の自殺がすべての物語の発端にある。
ある日、突然自ら命を絶った少女チョンジ。なぜ彼女は自殺したのか。チョンジの姉マンジは、妹の自殺の真相を知りたいと考える。
読者には、チョンジがクラスメイトからいじめを受けていたことが示唆される。転校生だったチョンジは、ファヨンにターゲットにされ、様々な嫌がらせを受けるようになる。ファヨンのいじめは巧妙にチョンジを追い込み、自らは疑いをかけられないように立ち回る。それでも、チョンジは中学生になり、ファヨンと距離を置くことで彼女のいじめを受け流すようになる。それでも、ファヨンのいじめはやむことがない。それは、チョンジの自殺によって完結することになる。
マンジがチョンジの自殺の理由を探し求める中で、妹が誰にも告げることなく心にしまいこんでいた思いが次第に見えてくる。ただ、それは彼女が自殺した明確な動機とは言い難い。チョンジを取り巻く家庭環境や学校での友人関係が、彼女の心を傷つけ、彼女を追い詰めていったのは確かだ。しかし、物語に描かれるチョンジは、自分の置かれた状況を冷静にみつめ、受け流す術をもっている。だからこそ、読者も彼女が自殺した理由を安易に考えることができない。
だけど、最後に『5つの封印玉』として、母のヒョンスク、姉のマンジ、クラスメイトのファヨン、ミラに宛てられた短い手紙が見つかったとき、チョンジが心の奥でひっそりと抱えていたものが、彼女たちの目の前に示される。そこには、チョンジの苦しみとともに、優しさがある。
これは、いじめによって自殺した少女が残した苦しみと悲しみを、周囲の人たちがどう理解し、どう受け入れていくかの葛藤を描く物語だ。自殺した少女の心情を直接的に描くのではなく、周りの人たちが彼女の死の意味を考え、自分自身を見つめ直し、そして彼女の死を受け入れて生きていくための物語だ。
娘を亡くした母親は、悲しみの傷を抱えながら生きていく。
妹を亡くした姉は、妹の命を救えなかったことを後悔し、妹が残したメッセージを胸に刻み込む。
彼女をいじめていたクラスメイトは、彼女の死に動揺し、言い訳を探し、やがて孤立していく中で、もがき苦しむ。
自殺は、死んだ本人を不幸にするだけではなく、残された人たちも不幸にする。だが、残された者はその死を受け入れて次のステップに歩き出さなければならない。「優しい嘘」のラストシーンには、そういうメッセージも込められているように感じた。