ガタガタ書評ブログ

読んだ本の感想などをボチボチと綴るブログ

パク・ミンギュ/吉原育子訳(亡き王女のためのパヴァーヌ」(クオン)-静かにせつなく奏でられる恋の物語。「カステラ」や「ピンポン」とは違うパク・ミンギュのラブストーリー。

雪に降られて、彼女は立っていた。

パク・ミンギュ「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、この一文からはじまるラブストーリーだ。

主人公の僕は、二十歳の誕生日に彼女と『サントリーニ』で会う。互いに愛し合う二人には、どこかぎこちなさがあり、どこかせつない。その感覚はどこから来るのか。それは、物語の中で少しずつわかってくる。

彼女から渡されたプレゼントのレコード。モーリス・ラヴェルの曲集にフランス語で記されていた『亡き王女のためのパヴァーヌ』の文字。店の壁に飾られていた名画の切り抜きの中にあったベラスケスの『ラス・メニーナス(侍女たち)』と、『亡き王女のためのパヴァーヌ』とのつながり。それは、僕と彼女の出会いから今に至り、そして未来に向かう物語のすべてを暗示するように、この物語に登場した。

パク・ミンギュという作家を「カステラ」や「ピンポン」で知った読者には、この「亡き王女のためのパヴァーヌ」は異色の作品と見えるに違いない。本書に描かれるラブストーリーは、奇抜な設定や不思議な味わいが強く印象に残る他の作品たちと比べると、ストレートでありピュアだ。「カステラ」や「ピンポン」のような作品が好きな人には、らしくないと感じる作品かもしれない。

それでも、「亡き王女のためのパヴァーヌ」にはパク・ミンギュが一貫して持ち続けている世界観が、他の作品と同様に屋台骨として存在していると感じる。それは、弱者の視点だ。「ピンポン」の釘とモアイがそうだったように、「三美スーパースターズ」の僕とソンフンがそうだったように。弱き者に向けられる視点、弱き者から向けられる視点が、この物語の根底にもある。

本書の登場人物たち、僕も彼女もヨハンも、そして彼らが出会った百貨店駐車場の主任も、彼らはみな底辺に位置する人たちだ。立場や生き様はそれぞれに違うけれど、彼らのひとりひとりは少なからずコンプレックスを抱えている。他人との関わりに消極的である。だからこそ、彼らは自然とつながり、自然と恋に落ち、友情を育む。違うようでどこか似ている同士だから、上辺だけではなく強くつながりあう。

この視点であり関係性が、パク・ミンギュの描き出す物語には共通していると感じる。

物語の中で、僕の前から姿を消した彼女から送られてきた長い手紙が胸を打つ。そこには、弱者である彼女の偽らざる気持ちと僕への想いがこめられている。

物語のラストは、ある意外な結末を迎える。それは、とても悲しくて、とてもせつなくて、でも、とても優しい結末だ。彼らの未来は、きっと幸せであると信じたい。

 

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